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攻略対象外の推しを救うため、世界を改変することにした  作者: 白露 鶺鴒
第一部 水の神子 暗殺阻止   第一章 風の大陸 出会いと陰謀の幕開け

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5.同行者


「私の質問、いいですか?」

「ああ、うん。いいよ」


 少し考えて、質問を変えることにする。

 お互いに距離を測りかねている。

 この問答を続ける意思があるのかを確認するために簡易な質問をしてみよう。


「ここからイーハンの町まで、歩いての移動だと、何日かかりますか?」

「イーハン? 3日くらいじゃないかな。どうして?」

「食料があと5日分しかないので、イーハンまで間に合うかの確認です」


 普通の質問であれば、答えてくれるらしい。

 完全に話を終わらせるわけではないのか。


「イーハンに行くの?」

「目的地はシャーナンですけど、食料の買い出しに行きたいので」


 食料は10日分貰っていたのだけど、これ以上は村や町で購入するしかない。


 さらに、シャーナンの町が目的と注げたのは、様子を見るためだった。

 ぴりっと一瞬だけ、寒気がするような気配を彼が纏った。

 恐る恐る目線を合わせると「ふふっ」と笑って誤魔化された。


 でも、シャーナン付近に水の神子様がいるのは確定かもしれない。


「ふ~ん。色々と聞きたいことは増えたけど。まあいいや。浄化って話だけど、5日前から、2か所、属性の空白地帯が出来たのは、君のせい?」


 属性の空白地帯? おそらく、私が浄化した場所のことかな。

 6日前にこちらの世界に来てから、浄化した龍脈は2か所。数は合っている。


「この地に来て、穢れを浄化した場所は2か所です。穢れていた力が消え、一時的に空白になっているかもしれません」

「ふ~ん、今の自白ってことできみのこと、捕らえていい?」

「できれば、見逃していただきたいです」

「でも、きみが言ったこと、根拠を示せないんでしょ?」


 この世界で、邪龍が復活するのは5年後。

 その影響が各地に出始めているとはいえ、それはゲームでの情報である。

 この世界の人に示せる証拠はない。


 邪龍を復活させるために動いている教団の信者や使徒を捕まえて、自白させれば話は別だけど。


「そう、ですね。ただ、捕まるわけにはいかなくてですね」

「なんで?」

「水の神子様に会い、危険を知らせる必要があります」

「危険? ふふっ、あり得ないでしょ?」

「先ほど言いましたが、教団の動きがこれから活発になります。水の神子様の暗殺計画がありっ、うわっ」


 目の前をひゅんっと音と熱風。

 ぱらっと私の栗色の髪が膝の上に置いていた手の甲に落ちてきた。


 何が起きたのかわからなかったけど、視線をずらすと、抜き身の剣。

 どうやら剣で髪の毛が斬られたらしい。

 

「君は神子がどんな存在かわかって言ってる?」

「はい……。この世界には6つ、水、火、風、土、光、闇の属性があり、神子様は各属性の頂点に立ち、最も属性を操ることができる方です」


 自然界に存在する、この世界を構成する力と言われている6つの属性。

 魔力を宿し、属性を操る頂点に立つ存在が神子であり、現人神のように祀られている。

 

 推しのアイオ様は、水の神子様の従者としてお仕えしていた。

 暗殺後に紆余曲折があり、自身が闇の神子となる。

 ただ、実際にどのように暗殺があったかは、ゲームでは提示されていない。


「ふぅ」


 一つ、息を吐いた。

 神子様が殺される可能性を伝えたのだが、効果は無さそうだ。


 これで、彼が神子様に伝えて解決するなら、私は強制送還の可能性も考えたけど。


 ひとまず、安心する。まだ、何も成していない状態での強制送還は避けられた。


「神子同士で争わない限り、神子を殺せる者などいない。世界の常識だよ」

「神子も人です。感情のある一人の人。感情に流され、死を受け入れることもあります」


 私の言葉に楽しそうに眦を下げて笑い、こちらを観察してくる。

 剣を突き付けられている刃を通して、怒りがこちらにも伝わってくる。


「遺言はそれだけ?」

「……はい」

「僕が少しでも手を動かせば、君は死ぬよ」

「本当に、貴方から見て、水の神子様は死を選ばないのですか?」

「殺せる人物が思いつかないからね。自分で決めたことを曲げたりしないし、投げ出したりするわけがない」

「水の神子様が歴代でも最強と言われる魔力を持っているので、死ぬはずがない。そう考えてるかもしれないけど、でも、そうじゃない。すでに自身が守るべき地も民も失った彼の方は、人生に飽いている。取るに足らない暗殺者であっても、状況によっては受け入れてしまうんです」

「へぇ~歴代、最強ね? 面白いことを言う。でも、そうだね、確かに全てを失い、自棄になって死を選ばないとも言えないかな」


 私の言葉に、少しだけ、こちらの話を信じる気になったらしい。

 抜き身だった剣を鞘にしまった。


「僕も最強は水の神子だと思うんだよね。誰も信じないけど」

「え?」


 私の知識は、ゲームでの知識。

 その中で、水の神子は歴代最強。

 神子達が上級であるなら彼の方は超級だとアイオ様が表現していた。


 その強さを誰も信じない?

 それはない。アイオ様は誇張するような性格じゃない。


 何か、齟齬が発生している?


「なんで?」

「ふふっ、決まってるでしょ? 実力を隠しているからだよ」


 楽しそうに垂れ気味の眼を細めて、うっそりと笑う。

 ああ、美人。怒気も企みもない、彼の一瞬の笑顔で、彼に見惚れてしまった。


 彼は私の反応を見て楽しんでいる。

 先ほどのように平然と人を傷つけることも出来るけれど、人を魅了して従わせることも容易にやって見せるかもしれない。


 ふぅっと一息吐いて、心臓を落ち着ける。

 私にはやるべきことがある。

 アイオ様のために、世界のために――彼に流されるのではなく、彼を攻略しなくては!


「とにかく、水の神子様です。あの方を動かせる神官がいるでしょう」

「……いた、だよ。もういない」

「え?」


 もういない、その言葉に時間はそんなにない可能性を悟る。

 いい情報を貰った。


 すでに起点の一つとなる神官が死んでいるのであれば、事態は動き始めている。


 ゲームで描かれる、姉妹の神官。姉はすでに死んでおり、妹の方が仲間になる。

 この姉神官の死により、妹神官と水の神子の二人の人生が大きく変わったはず。


 急がないといけない。


「もう一人いるでしょう? 受け継ぐには足りず、失ったものを嘆き、周囲が見えず、振り回して……愚かな選択をしてしまう子が」

「……ああ、そうかもね」


 目を細めて、唇の端だけを上げて笑う姿に、一瞬の寒気を感じた。

 

 彼は水の民、水の神官という肩書だけでそばに置かれる彼女達を信用していないのかもしれない。


「面白いね。普通のことを知らなかったり、間違っているくせに……確信をつくことも知っている。僕が知らない何かも知っているんだろうね。うん。きみのこと、すごく気になるね」


 この人は、水の神子の何なのだろうか。

 気に入ったという言葉と共に、近付いてきて頭を撫でられたけど、何を考えてるかわからない。


「ねえ、君の名前は?」

「ミオと言います」

「僕の名前はルヴィニ。いいよ、僕は君の行動を見張らせてもらう。水の神子に危害を加えない限りは、殺さないであげるよ」


 にんまりと笑った男の眼が、本気であることを告げている。

 どうやら、厄介な旅の供が出来てしまった。


 先行きが不安になる。



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