46.合流
オリオンに乗っての移動は眠さとの戦いだった。
夜、明かりのない道を真っすぐに駆けていく。向かう先に何があるかわからない。
真っ暗闇を進むことは抵抗があるけれど、オリオンを信じて進んでいく。
ただ、オリオンが一定のリズムを崩さずに走るため、次第に眠くなってくる。
暗くて、景色を楽しむこともできない。
アイオ様との会話が弾む訳でもなく、ひたすらに寝ないようにしながら走り続けた。
次第に東の空が明るくなり始める。真っ暗だった視界も景色がうっすらと見えるようになってくる。
「そろそろ、人に見つかる可能性があるので、オリオンからおりた方がいいかな」
「あと少し。多分、1時間くらい走らせれば、追いつくよ」
「え? わかるんですか?」
「あの人の魔力は特殊だから……合流しちゃった方がいいと思うよ」
アイオ様とオリオンは魔力により、ルヴィニがいる方向がわかるらしい。
便利だけど、そんなことが可能なのだろうか。
いや、そういえば、ゲームで要所のたびにアイオ様がどこからか現れた。
この能力を使って、カライスちゃんが心配で追ってたのかもしれない。
「よし! オリオン、ダッシュで!」
「きゅ!」
方角を指示するアイオ様に頷き、オリオンに指示を出す。
私の指示に、ぐんと速さが上がる。
バイクで高速道路を走らせたらこんな感じだろうか。
風を切って進んでいくが、肌にいたい。
目を開けてられないくらいで鬣の方に顔を寄せる。振り落とされないように捕まるとさらにスピードが上がった気がする。
明るくなる前に急ぐと決めた。
だけど、風が痛い。眠気は掻き消えた。
「あわわっ」
「焦らなくても、その、休憩してて動いてないから大丈夫だよ」
「先に言ってください」
それでも、明るくなって、オリオンが見付かるリスクを考える。
結局、そのまま猛スピードで草原を駆け抜けた。
「ううぅ、疲れた」
「お疲れ様、早かったね」
夜営地が視認できる場所でオリオンから降りようとしたら、ルヴィニが現れた。
どうやら、気配に気づいてこちらに寄ってきたらしい。
ルヴィニの差し出した手を借りて、オリオンから降りる。なんだか、安全な場所にたどり着いたという思いに、すごくほっとした。
アイオ様は一人でさっと降りている。互いにそこはスルーのようだ。
「やばい、腰がきつい」
何だか、立つだけなのにすごく腰と足に違和感がある。
これ、また筋肉痛になるんじゃないかな。
「そりゃあね。あの時間からずっと走りっぱなしならそうなるよ。こんなに早いとは思わなかったよ」
どうやら、ルヴィニも杖が手元から消えたのは気付いた。追ってくるだろうと考えてていたが、予想外の速さだったという。
オリオンの場合、自身の魔力と私の魔力を使えば、疲れ知らずに走り続けることができる。魔力が続く限りだけど。
空間転移を取得できなかった代わりの移動手段。
普通の馬よりは断然早い。早いのは当然といえば当然だ。
「きゅっきゅっ!」
嬉しそうな声を上げているオリオンを振り返ると、ルヴィニが「餌だよ」と人参を食べさせている。
聖獣は食べなくても、問題ないはずなのだけど。お腹は空くらしい。
私もお腹が空いてきたと思い、鞄を探すが、ない。
「そうだ、ルヴィニ! ごめん。預かってたお金、王城で荷物を預けたままだから無くなった!」
「ああ、別にいいよ」
「……私、文無しなんだけど」
ちまちまと集めていた素材を売って用意していたお金も無くなった。
食料もない。昨日は一日水だけで過ごしているから、お腹が空いた。
「はいはい。ちゃんとアイオ連れてきたし、食べさせてあげるよ」
「ありがとう」
ルヴィニ達が夜営していた場所には、護衛が10人くらいいる。
宿でも待機していたので、ちらっとだけど顔は知っている人達だ。
テントから出てきて、準備を始めているので、オリオンには還ってもらった。
「ルヴィニ。この後、どうする予定?」
「朝食を取ったら、移動だけど……眠そうだね」
ルヴィニとの会話の途中でほぁっと大きくあくびをしてしまった。
運動を終えて、ゆっくり腰を落ち着けると眠くなってくるのは本能だと思う。
「移動中に落馬されても困るからね。ミオは僕が乗せてあげるよ。徹夜だったんでしょ」
「うん、まあ……アイオもだけど。そっちは労わないの?」
「アイオは大丈夫でしょ」
私の後ろでアイオ様も不安そうにしつつも、「大丈夫です」と頷いている。
アイオ様の方が捕まってた日数は多い。
疲れているはずだけど、こくこくと頷いて、元気をアピールしてる。健気だ。
「アイオはカライスにでも頼みなよ。ゆっくりでいいから」
「おいて行く気ですね?」
アイオ様の声が少し低くなった。
ルヴィニを見ると、口の端を上げたので、事実なのだろう。
「僕とミオで先行するだけだよ。カライスも結構疲れてるからね」
「一緒に行きますから! いつも実戦が足りないって言っておいて、ここで置いていかないでください」
アイオ様がむっとした顔でルヴィニをじっと見る。
毛を逆立て、嫌がる猫みたいだ。ここでおいて行かれるのは、嫌と全身で主張している。
「はぁ……許可取ってきたらいいよ」
「わかりました!」
大きな天幕の方へアイオ様が走っていった。
あそこに神子様がいるんだろうか。
「私も神子様に挨拶したいんだけど」
「ねぇ、気になってたんだけどさ。水の神子の顔、知ってるの?」
「え? うん。中ボスとして対峙するから。まさに水の女神さまって感じの神々しい美人お姉様。優美で儚げな見た目に反して、すごく強くてね……アイオ様と並べると美男美女で素敵だなって、推してるの」
「……そう」
ルヴィニがしょっぱい顔をして、さらに残念な子を見るような憐れんだ瞳になる。
今のアイオ様はまだ成長期前出し、イメージがわかないかもしれないけど、カッコ良くなるんだよ。めちゃくちゃお似合いなのに。
「ミオ」
「な、なに?」
「うん、まだ早い。本来、神子に会うなら、色々と手続きとかもあるからね。シャーナンで、謁見できるようにしておいてあげるけど、この場は駄目」
私が遠くを見ているのに気付いたのか、肩を叩いて、引き戻された。
さらに、謁見の許可はでなかった。残念。
「そっか……うん、とりあえず、了解。私の目的とかは伝えてくれてるんだよね?」
「伝えてるよ。とりあえず、これでも食べて休んでて。問題が無いようなら、僕とミオで先行する許可を取ってくるから」
ぽいっとおにぎりを渡されたので、それを食べながら待つ。
ルヴィニは二人で行くつもりのようだ。
「う~ん。場所とかは問題ないけど……」
神器。神の力が宿ると言われる杖で、初代の神子に与えられた遺物。
各国の至宝であり、神子様が本気で魔力を注げば、大陸中の穢れを全て浄化できるほど強力。
浄化は神官が使えるけど、神子様が使えるとは限らない。それを補うという面もある。
ゲームでは、神器を使うと一定期間魔獣が出現しなくなるという結界効果もあった。
使用制限もあるから、使いどころは難しいけど、攻略において揃えておいた方がいい。
トゥルーエンドでは必須でもある。だからこそ、神器の収集はノアも狙ってくるだろう。
「水の洞窟か……」
水の洞窟では、戦闘もあるだろうし、要所でのギミック攻略もある。
流石に、私とルヴィニだけでは厳しい気もする。
いや、それでも何とかするべきだよね。
水の神子様が狙われているのは、未だに変わらないのだから。




