4.試す者、試される者
さて、どうしようか。
「私の質問、いいですか?」
「いいよ~」
「では、貴方は水の民ですか?」
「ううん、違うね」
あれ?
違うの?
服装から推測するなら、推しであるアイオ様と同僚。水の神子の従者と予測した。
最低でも神子の関係者であれば、水の民だと思ったのだけど。
「嘘ではなく?」
「互いの交渉の場で嘘はつかないよ。僕は、水の民じゃない。だいたい、水の民の多くは、瞳の色が青系だよ。そんなことも知らないの?」
モブの眼の色まで気にしたことはない。
そんなに大きく表示されている訳でもないし、水の民の数はそもそもが少ない。
共通点を探るなど、できるわけがない。
「子どもでも知っていることでしょ」
いや。この世界では魔力を有している人間は各属性の力が外見に反映しやすいのは知っているけど、絶対じゃない。
各属性で象徴する色がある。赤は火属性。
この人の瞳は、例えるなら透明度の高いルビー。
本物の宝石のように人を引き込むような錯覚を起こす瞳をしている。
「火の民……200年前に滅んだはずの?」
「ふふっ。別に大陸が滅んだだけだよ。全ての火の民が死んだわけじゃない。火属性の適性をもつ者は減ったけどね。ただ、僕はこの瞳の色で生まれ落ちた瞬間から、火の民として生きる運命を背負った」
「失礼しました」
「別にいいよ。瞳の色は生まれ持った色だからね。後天的に瞳の色が変わることはほとんどない」
髪の毛は菫色。
赤と青が混じっている色と考えるなら、火の民でありながら、水属性を使えるから水の神子様に仕えているとかだろうか。
「じゃあ、僕の番だね。世界を救うって、具体的には何するつもり?」
「御伽噺にある邪龍が復活するので、邪龍を滅ぼします」
「……あは、あははっ……それ、本気で言ってる?」
私の言葉に大爆笑している青年は、目じりに涙まで浮かべて、それをぬぐっている。
よほどツボに入ったらしい。そんなにおかしなことを言っただろうか。
しばらくお腹を抱えて笑っていたけど、急に「すんっ」と無表情になった。
こちらに視線を戻したので、真剣な表情で相対する。
「私が滅ぼすのではなく、神子様達にお力添えをお願いしたいと考えています」
「ふ~ん、それで? 水の民の恰好をして、水の神子に接触したいってところかな」
「はい」
先ほどの瞳の色の話で、私が水の民ではないことはわかったようだ。
少し解れたと思った緊張感が再び高まった。
心臓が早鐘を打ち始めたのに気付かないふりをして、話を続ける。
「水の神子様の居場所をご存知なら教えていただけませんか?」
「うん。僕の拒否権、1回目ね」
まあ、教えてくれない気はしていた。
それに地図に不可解な部分があったから、おおよその場所の予想は付いている。
「では、次の質問をどうぞ」
「神子、一人一人にお願いしてまわるつもりかな?」
「いいえ」
6人いる神子。全員に会いに行くほどの時間は私には与えられていない。
今回の目的は、水の神子様に会い、暗殺を阻止する。
そのために、神子様のいる場所を把握したかったのだけど。
教えてくれないなら、当初の予定通りに風の国の南西の町へ向かおう。
「違うの?」
「……はい。今回、お会いしたいのは水の神子様だけです」
この風の大陸には、当然、風の神子様もいる。
ただ、首都にいる風の神子様に会うのは難しいことは理解している。
会えるなら伝えたいけれど、水の神子様ほど優先することは出来ない。
「へぇ~。どうしてか、聞きたいとこだけど。じゃあ、君の質問は?」
「なぜ、貴方はここに現れたのでしょうか?」
「うん、じゃあ二つ目の拒否ね」
「え?」
これで、二つ目?
次の拒否で終わりってこと?
神子様の居場所は教えられないというのはわかる。
町や村へ向かう街道から離れた、こんな辺鄙な何もない場所に現れた理由を言えない。
聞き出せるだけ聞き出して、重要な情報を与える気はない? それとも、この問答を続ける必要がないと判断した?
じわじわと背中に嫌な汗がでてきている。
「じゃあ、僕の質問に答えてくれる?」
「わかりました」
「どうしようかな……じゃあ、逆に聞こうかな。君がこんな場所にいた理由は?」
これは、答えるべきか、否か。
二連続で質問を拒否したということは、こちらを試している。
ちらっと様子をみようと視線を上げる。笑顔だけど、その瞳は笑っていない。全く考えが読めない。
最初にこちらを襲ってきたこともだけど、彼は味方ではない。
嘘はつかないと言ったから、彼は回答を拒否した。
会話を止めれば、彼は水の神子に私のことを伝わる。私が会う機会を失う。
会えなければ――暗殺阻止の可能性が、減る。世界改変が厳しくなる。
言えることは伝えてしまおう。
「大陸のいくつかの場所に龍穴と言われる力が宿る場所があることはご存知ですか?」
「さあ、どうだろうね?」
「各大陸に数個ある龍穴から龍脈を辿り、力が伝わります。龍脈が穢れてしまうと、力が淀む。放置できないため、対処していました」
「ふ~ん、どこからの情報?」
「質問が連続になってますよ?」
「あはは~、でもさ、不足している情報なら確認するよね?」
彼が水の神子の従者であるなら。
その仮定が成立するなら、神子ほどではなくてもそれなりに知識がある。
現に彼は龍穴なんて、一般人は知らないだろう言葉を否定はしなかった。
ただ、怒らせている気がする。
「情報源は教えられません。ただ、穢れは、封印されている邪龍の力が強まっているからです」
「言い伝えの? 本気で信じてる?」
「はい。5年後に復活するために、動きが活発になっているのと……現在の風の神子様の力が弱まりつつあります」
私の言葉に、肩眉を上げつつ、綺麗に笑う。
美形の男が笑う姿なのに。肉食獣が大きな口を開けて、私を食べようとしているように感じるのは何故だろう。
鳥肌が立ち腕をさすりそうになるのを堪え、誤魔化すように、腕を組む。
「面白いことを言うね?」
「それなりに在位が長くなってるから当然では?」
私の回答に頷きが返ってきた。
風の神子の力が弱まっていることは把握しているらしい。
「まあ、良いんだけどね~。それで?」
「それだけです。この地に穢れが発生しているからここに来ました」
「なるほど。まあ、穢れが発生しているのは事実だしね」
私がこの場にいる理由。
穢れはひどくなれば、目視できる。
ただ、私が浄化しているのは、まだ目視は出来ない状態のはず。
私だって、地図の機能で確認したからわかるのに。
穢れが発生していることを感じ取れる?
何者だろう。
気になるけど、次の質問には出来ない。
すでに2回、拒否された。
まだ、会話を終わらせる訳にはいかない。




