19.狼
杖を握りながら、狼の群れのリーダー格を見つつも、視線は合わせない。
動きは見逃さないように全体を見て、深く、息を吐く。
落ち着いて、対処をすればいい。魔獣ではなく、たたの獣だ。
怯えた様子を見せて襲われないように、毅然とした態度をとる。
「炎……」
杖の先にピンポン玉くらいの小さな炎を灯す。
炎を狼に向かって飛ばそうとするが、ゆっくりと弧を描いて、狼と私の真ん中の当りに落ちた。
草原に落ちた火球が渇いた草を燃やす。
燃えにくい。
それでも、手元を離れた後でも、込めた魔力が残る限りは火種として燃え続ける。
普通の獣は、火を恐れる。
もし、火を恐れなくても、警戒してむやみには近づかないで様子を見るはず。
本当は、しっかりと攻撃できる手段として魔法を使いたいけど、まだ、上手く出来ない。
私に向かってこれないように、狼がいる直線上に、一つ、また一つの火球を放ち、周囲に火をつけていく。
じりじりと周囲が熱くなるけど、それは狼にとっても同じ。
見たことのない火を警戒してか、ゆったりと私を囲んでいた狼がリーダーの元に戻っていく。
「ガルルルルっ」
狼の瞳が炎の揺らぎと相まって怪しく光る。
唸り声が耳に響く。
心臓の音が激しくなり、呼吸が止まりそうになる。
杖を握る。
怖くても、内心の怯えを見せれば、いきなり襲われる。
しっかりと目を見開いて、相手の動きを見逃さないように。
お互いにじりじりとにらみ合う状態だったが、小柄な1匹が焦れるように飛び掛かってきた。
杖を使って、横に薙ぎ払う。飛び掛かってきた狼の軌道をずらす。
狼は偶然にも火が付いた地面にどたっと落ちた。
「ぎゃうぅうん!!」
「あっ!」
じたばたと炎におちた狼が転げまわっている。
他の狼達が唸り始めた。仲間に酷いことをしたという判定だろう。
ガルルっと牙を見せつけるように威嚇する狼達。
狼に噛まれるのはまずい。
狂犬病がこの世界にあるかは知らないけど、絶対に避ける必要がある。
治療法ないので、絶対に噛まれる訳にはいかない。
次は2体同時に襲い掛かってくる。
「……くっ……」
最初に飛び掛かってきた狼は避ける。
続けて向かってきた狼は杖を使って防御をした。
だけど、力負けしそう。
押し込まれる。
このままでは危ない。ぐっと奥歯を噛みしめ、足に力を込めて堪えようとした。
その瞬間、杖に魔力を吸われた気がした。
「え?」
杖が一瞬光り――気付いたら狼を軽々と吹き飛ばしていた。
「何? 今の?」
狼の重さを感じないくらい、瞬間的に力が上がった?
数メートル先まで飛んでいった狼は倒れている。
私が倒した? どうして?
私の力では狼があんな遠くまで飛ばせるわけがない。
何故、杖が光ったのかもわからない。
「がるるっ」
「集中しなきゃ」
偶然にも、なんとか1体は撃退したけど、まだまだ数がいる。
考えるのは後だ。
様子見をしていたリーダー格の狼が私と視線を合わせて、唸り声を上げている。
全ての狼が多勢に無勢で飛び掛かってきたら、結界で凌ぐしかない。
「っ!」
狼が飛び掛かってきたので、結界を展開しようとした瞬間に、真横を風が吹いた。
何かと思ったら、飛び掛かってきた狼が切り捨てられていた。
足音も気付かず、ただ、気がついたら狼が斬られ、目の前にルヴィニが立っていた。
「まあ、時間稼ぎとしては、悪くないよ」
「ルヴィニ!?」
風だと思ったのはルヴィニだった。
ルヴィニ自体が赤白く輝き、しかし、すぐに光は消えていった。
良かった――気を抜きそうになった瞬間、ルヴィニの鋭い瞳に射抜かれる。
「油断しない! きちんと構えなよ」
ぐっと再びお腹に力を入れ、気合を入れ直して、杖を構える。
狼達はこちらを唸っていて、戦意は失われていない。
まだ、終わりじゃない。
「うんっ」
真横から襲い掛かってきた狼を杖で叩き落とす。
その横で、ルヴィニがその狼を切り伏せる。
狼達も理解している――どちらが強いか。
前に立つルヴィニではなく、弱い私を狙って回り込んでくる。
私は狼達の攻撃を受けないようにするのが第一。
周囲を確認しながら防御に徹する。
あとは、ルヴィニが私の動きに合わせ、狼を倒していく。
ルヴィニが狼たちの半数を倒したところで、リーダーが吠える。
さっと他の狼達が一斉に引いた。
「下がってて」
狼達が見守るのと同じように、私もルヴィニから数歩下がり、見守る体勢になる。
私が後ろに下がるとリーダー狼がルヴィニに襲い掛かる。
「悪くないけど、僕の相手にはまだ早いかな」
すぱっとリーダー狼が真っ二つに斬られていた。
余裕綽々で、危なげもなかった。
一段強いと思われるリーダーすら、一刀両断。あっさりと倒してしまった。
「か、勝った?」
狼がいなくなり、安全が確保された。
ほっと息を吐いたら、一緒に力が抜けてしまい、その場に座り込んでしまった。
無事だった。
良かった。
心臓がまだバクバクと激しく、杖を握る手は震えている。
だけど、もっと、強くならないと救うことなんてできないかもしれない。
「当たり前でしょ」
ルヴィニは当然のように笑った。
リーダーすら一撃だった。どうやら、格が違うらしい。
「そう、だね」
倒したのはルヴィニであって、私じゃない。
もっと、戦闘能力を、できる事を増やさないと駄目だ。
頑張らないと。




