17.カライス(1)
翌々日、私は牢屋から出ることが出来た。
昨日、一日を牢屋で過ごした。
最初はやきもきしながら待っていたのだけど。
不安にならなかったのは、昼過ぎに、私を捕まえた警吏の人が謝罪に来てくれたからだった。
すでに上と話は通したらしい。
明日の朝、釈放されると言われて、それならと状況整理に時間を使っていた。
「待たせたね」
「あ、いや。大丈夫」
迎えに来たルヴィニの目元にはうっすら隈が出来ている。
私よりも、明らかに疲労しているのが見て取れるので、責められない。
その横には泣き腫らした目をしているカライスちゃん。
どうやら、しっかりと話し合いはして、情報は共有したらしい。
「すみません、でした」
「ううん。その、カライスちゃんはアイオ様が心配だったのだろうし、ちょっと過剰だったかもしれないけど」
目を真っ赤にさせた少女に頭を下げさせると罪悪感がすごい。
ぼそっと、「全部教えてもらいました」と言って目をごしごしと拭いている。
初めて会った時の表情と比べるとまだ燻っているようにも見える。
その後、馬に乗って、ショウドウへと向かうことになったが……。
「まさか、一人で馬にも乗れないなんて、信じられません」
「ごめんなさい」
「びくびく乗るから、馬も怯えるんです。しゃんとしてください」
カライスちゃんの呆れた表情とルヴィニの笑いを堪えた顔に頭を下げるしかない。
一人では馬に乗れなかった。
ルヴィニに一緒に乗せてもらったときは平気だったけど。一人で乗ると落とされそうになってしまう。
聖獣に乗るのは目立つため、馬の移動はわかるけど、これでは時間がかかる。
結果、カライスちゃんの後ろに乗ることになった。
「下見るから怖くなるんですよ。力を抜いて、まっすぐ前を見るんです」
「うん、わかった」
カライスちゃんの指示に従い、馬の上で真っすぐ前を見るように気を付ける。確かに、馬の高さがあるから少し怯えが出てしまったのかもしれない。
あと、ルヴィニの馬の方が安定感があったので、慌てたというのもある。
「怖がったり、怯えたりするのは馬にも伝わるんですよ。それに、自信を持って乗っていれば馬も安心します」
「ありがとう、カライスちゃん」
「別に……ちゃんと前を向いてください!」
う~ん。
ぷいっと顔を逸らされて、前を見るように言われた。
「ゆっくりと教えてやってよ」
「ルヴィニ様。これだと。時間かかりますよ? いいんですか?」
「別に問題ないよ。別行動で先に向かっているからね」
どうやら、アイオ様は神子様達と先にショウドウに向かっているから、こちらが多少遅れても問題ないらしい。
「きみが寄りたいところがあるなら、寄ってもいいよ」
「なんか怖いんだけど。急ぎたくない理由があるってこと?」
何の考えもなく、ルヴィニが遅れていくというのも考えられないと思ったのだけど、にこにこ笑っていて、説明をしてくれる気はないらしい。
ただ、そのやりとりを聞いたカライスちゃんが俯いてしまった。
「そんなに私を首都に行かせたくないんですか?」
「そうだね。だって、カライス。きみ、冷静じゃないでしょ?」
「それでもっ……お姉ちゃんがっ」
「首都に行けば、接触してくる人は増える。裏切る可能性もあるから、大人しくシャーナンに帰って欲しいんだよ」
ルヴィニはカライスちゃんから視線を反らして面倒くさそうに言った。
でも、実際にはルヴィニはカライスちゃんの目付け役を頼まれた立場であり、目を放すわけにはいかない。
さらに、私がショウドウに行く必要もある。
おそらく、出来る限りは巻き込ませないために、ショウドウの滞在期間を短くしたいのだろう。
ちらっとカライスちゃんの様子を見ると、手綱を握っているカライスちゃんの手が震えてるのに気づき、その手に手を重ねる。
「カライスちゃん。亡くなったばかりで、冷静でいられないのは普通だよ。ただ、教団側は狙ってくると思うから、ルヴィニも心配してるんだよ」
「それ! なんですか、教団って」
「邪龍を復活させようとする集団だよ」
ルヴィニに視線を向けると頷きが返る。教団についても説明はしているようだ。
ルヴィニが望む時間稼ぎつつ、カライスちゃんが納得できる行先か。
どうしようかと少し考え込む。
可能性としてなら、一か所気になるところがある。
「ルヴィニ。寄り道が出来るなら、お姉さんが亡くなった場所に寄れない?」
「え? いいの?」
「無理だよ。報告は曖昧だから、場所は特定できてない」
カライスちゃんがパッと顔を上げて嬉しそうにするが、ルヴィニがあっさりと叩き落し、再び俯いてしまった。
「多分、場所はわかる。それに、もしかしたら教団の手がかり残ってるかもしれないから」
私の言葉に、ルヴィニの綺麗な顔が歪んだ。怒らせたらしい。
時間があるからこそ、地図で色々調べていたのだけど。
この大陸で一番大きい穢れのある場所。首都からの距離を考えると、風の神子様の魔力の範囲内にある。しかも、穢れがずっと続いている。
「駄目?」
「本当にわかるの? ねえ、神子様だってわからないって!」
「はぁ……教えたでしょ。ミオには独自の情報網があるって。きみも情報を駄々洩れするなって、何度言えばわかるの?」
呆れたようにカライスちゃんに伝えるルヴィニの目が私に向いた。目が怪しく光って見える。余計なことは言うなということだろう。
「ちゃんと考えてるよ」
ルヴィニは、伝えるべきかをしっかりと考慮して欲しいのだろう。とくに、カライスちゃんに対して開示するべきか否か。
これから先、裏切る可能性がまだ消えていない。
彼女の口から、私の情報が流れることを考えるなら、慎重に行動しろと言いたいのだろう。
ただ、私としては、隠し事をするべきじゃないと考えている。
カライスちゃんが信頼できる土台を作るべき。もし、カライスちゃんが裏切り、情報が漏れたとしても、危険なのは私だ。
「ルヴィニ。私が危険になった分だけ、水の神子様が危険から遠ざかるなら望むとこだよ。私は世界を救うため、水の神子様が生きる道を作る。囮になってでも、新たな道が拓けることを望んでる」
「自分の戦闘能力を考えなよ。魔力を上手く扱うことができず、垂れ流す程度しかできないくせに」
それはそう、なんだけどね。戦闘能力を選ばなかった。選ばずとも、危険は少ないと考えたのは失敗だった。
浄化の時は、杖が導いてくれる感じで、勝手に魔力が消費されていくけど、穢れが消えていくのもわかる。結界を張るのも、割と同じ感覚。
自分でも、戦闘能力は何とかしようとはしているのだけど、上手くいかない。
「やるべきことは、水の神子様が生きる世界。そこが一つ目の転換点だから」
「はぁ……協力体制だからね? 勝手は困るんだよ」
「わかってるよ」
ルヴィニを説得する。
幼いカライスちゃんを心配していても、それを口にだす気がない。
まあ、大事なものの順番が確定しているからなんだろうけど。
それでも大事には思っているようだし、私が橋渡しをするくらいはしよう。
立場はあっても、その範囲内なら、私を守ろうとしてくれているみたいだからね。




