16.姉神官の死
カライスちゃんの姉の死の説明を聞く限り、その死に方は、色々と誤解を招きそう。
「それ……彼女の勝手な判断でもあるけど、神子様への危険を回避した英断でもあるってこと?」
「まあ、ね。行く必要もなかったのにね。止めたけど、どうしても行くと言って聞かず、結果、神子でない彼女に襲撃は耐えられなかった。護衛もつけたけど全滅だよ」
ルヴィニの補足だと、水の神子様なら生き延びた。
それは、水の神子様以外なら死ぬほどの戦力をぶつけてきたということ。
まだ、教団の動きが活発ではないと勝手に考えていたけど、水側の戦力を分断して、確実に減らす動きを見せてるのか。
でも風の神殿が祭典を行うとしてる時点で、教団に情報筒抜けどころか、協力して仕組んでるよね。
「……なんで、真実を言わなかったの?」
「風の神殿と事を荒立てるのを避けた。水側は居候だ、問題を起こせば、漸く落ち着いて生活できるようになった民にも影響が出る。相手方の説明を受け入れるしかなかった」
サフィロスは何でもないことのように言おうとしているけど、ぐっと握った手が白くなっていて、拳に力を入れて何でも無い様に振舞っているのがわかる。
「呼び出したのは風の神殿でしょ? 襲撃できるように情報を流した者の追及とかは? きな臭いことに気付いていたなら、それを話してでも」
「無理だ……言えるはずがない」
サフィロスは悲しげな表情でゆっくりと首を振る。
「どうして?」
「言ってもわからないからだよ。人は目に見える物しか信じないでしょ? 自分にはわからないことを伝えても、理解をしようとすることはないからね」
ルヴィニは困ったように笑い、サフィロスに視線を送った。
詳しくはサフィロスに聞けということだろう。
「サフィロス。教えてくれる?」
「……魔力には波長があるんだ。無意識でも、人は言葉を発するとき自身の魔力や空気に漂う魔力を揺らがせる。ほんのわずかな揺らぎで、魔法として発動するようなものでもなくてもな」
「へぇ……そうなんだ」
「その魔力の波長を見れば、嘘とか何か隠し事があるとかも見破れる」
それは知らなかった。
自身の魔力も何となくしか感じられないけど、空気中にも魔力があるのはルヴィニから教えてもらっていた。しかし、言葉を発するだけで波長が乱れる。
うそ発見器みたいなことが出来るのか。それはすごい。
ふんふんと話に頷いているとサフィロスが苦笑した。
「信じるのか?」
「残念ながら、私はわからないけどね」
「僕の話聞いてた? サフィロスだけがわかるから、話しても無駄っていうことだよ」
サフィロスが少し驚いたように確認してきたので、頷く。私にはわからなくてもそういうこともあるだろう。ファンタジー世界だし。
そして、ルヴィニに突っ込まれた。なるほど、確かに。他の人にわからないなら、説明しても理解できないか。
しかも、魔力の波長で心の機微がわかるとか、嫌がられそう。
人には言えないという意味がわかった。
「毎回わかるの?」
「いや……今は見えてしまうことがある程度だ。だが、後ろめたさがあるのか、そういう時は見破りやすい。何か企みがある、参加すべきではない……そう感じた」
「なるほど。サフィロスって、もしかしなくても能力高いよね? 戦闘系のルヴィニと違って、魔力特化って感じ。神子候補だったりする?」
ルヴィニと一緒に従者なのかなと思ってたけど、そういえば従者とは公言していなかった。
それに、魔力を見極める目が通常の人と違う。
だから、そう聞いたんだけど、なんだか聞かれたくなかったらしい。
「い、や……っこ、うほだったら、どうする?」
最初、戸惑っていたサフィロスだが、切り替えるように無機質な表情になる。
じっとこっちを見つめる瞳には何も映っていない。
なんだろう? 感情を消しているように見える。
「別に。サフィロス、最初から公的立場の時には味方になれないって言ってたから。会いに来てくれてる時は友達として砕けた口調でいいんでしょ?」
「あ、ああ。それだけ、か?」
「いや、候補だと忙しそうだよねとは思うけど。神子様と民を優先するなら、私が敵になる可能性もあるっていうのも悲しいよ。でも、立場のある人なら仕方ないかなって」
「うんうん、そういうお馬鹿なところは僕は気に入ってるよ」
ルヴィニ。お馬鹿ってなんだ、あほって。
互いの立場を尊重するっていってるのに、お馬鹿はひどくないか?
頬を膨らませ、ルヴィニを睨むが、二人して楽しそうに笑っている。
さっきまで、妙に張りつめていた空気はなんだったのか。
二人でうんうんと頷いて、楽しそうなのについていけない。
「もうっ! 話し戻すよ。神殿の件ね。追及が難しいのはわかった。でも神殿が腐敗しているのを、風の神子様に伝えるとかは? 彼女に助力を頼むことは出来ない?」
空気を変えるために、真剣な表情を作り、尋ねる。
「難しいよ。出来ないとは言わないけど、神殿側も神子様と直接会うことを阻止しようとするから厳しい」
「未来だけど、風の神子様の死に神殿が関わってるなら、どうかな?」
私の知識を活かせるなら、まず、風の神殿の力を削ぐのはありかもしれない。
神子様の暗殺自体は、教団のせい。ただ、水の民たちの保護を考えるなら、水の立場を向上させるためにも、政治的立ち回りはしてもいい。
風の力を削ぐとしたら……王、神子、神殿の連携を崩す。
ここが一致団結している限り、神殿による水の民への横暴と風の民への優遇は変わらない。
少なくとも、水の民を虐げる構造を消すために、神殿の発言力を下げたい。
ついでに、風の神殿の一部は教団と繋がりがあるはず。
「だが、神殿が関わっている証拠はあるのか? カライスの姉の死についても、襲撃が仕組まれていた可能性はあっても、証明は無理だ。その時の状況を知るものが誰もいないからな」
サフィロスの言葉に頷きを返す。すでに終わったこととして処理されていて、今更そこに異議を申し立てるのは難しいか。
だけど、ゲーム知識を活かせば、不可能ではない。多分、だけど。
「神子様は教団により命を狙われている。これは確定している。教団の人間は神子の命を狙うのは、水に限らない……流石に、風の神殿に潜入している教団員、それが誰かはわからないけど。神殿内に、教団との関係性を示す場所があるはず」
私が指を立てて、教団のことを伝えるが二人は半信半疑のようだ。
ゲームでは、教団のアジトに繋がる隠し通路があった。5年前の時点でも、おそらく存在する。
「確証は?」
「ここから5年では、あの通路は作れない。もっと前から、存在があるはず。それに、未来ではその通路を使い、安置されていた風の神子・エメロード様の死体を盗み、彼女が教団側に落ちた……あの通路は封じることは、有効な手段だと思う」
私では、神殿に忍び込むことはできない。部外者扱いされる水の神子様や、従者も厳しい。
でも、風の神子様の協力が得られれば、可能性はあるんじゃないか。そう、期待したい。
「へぇ……死体は、風の神殿に安置されたよね」
「……ああ。くそっ、事を荒立てるべきだったか」
「どうだろうね。僕は反対するし、きみもでしょ? 僕らの知る情報であの時、そんな決断は出せないよ」
教団側の人間により、死体が利用される可能性に二人の顔が憎々し気に変わった。
サフィロスががんっと鉄格子を叩いたけど、ルヴィニはサフィロスの肩に手をおいて落ち着かせている。
多分、二人とも事を荒立てたいという意思はあっても、民のことを考えてやめたかな。
生き残った水の民の多くは、風の大陸に移り住んでいるんだっけ。場所が近かったこともだけど、他の国よりは比較的、受け入れてくれたからだ。
それでも、水の神子サイドがここまで衝突を避けていたという事実。現実では、ゲームで語られなかった厳しさがある。
安易な考えではなく、しっかりと現実を向き合わないと、知識があっても無駄になってしまう。それは、ダメだ。
私がいやいやと首を振り、改めて、二人に視線を戻す。
私もだけど、二人も顔色が悪い。多分、自分たちの予想よりもまずい状態だと自覚したのだろう。
「……死体、無くなったことも含め、カライスちゃんに伝えた方がいいと思う。悲劇に繋げないために」
「ああ、そうだな。こちらで話を付けておく」
「そうだね。少なくとも、僕らが仲間割れを起こす可能性は潰しておこうか。ミオ、今後の行動だけど、きみもこの国の首都・ショウドウに向かってもらうよ」
「うん、それはもちろん。ただ、その……ここから出ないと、じゃないかな」
私と、ルヴィニ達を隔てる鉄格子。
二人の話だと、ちゃんと出れるようにしてくれるということだけど。
実際にはまだ、ここから出れない。いや、罪を犯したわけじゃないので、不服ではあるのだけど。不審者であるという立場が悲しい。
「私は先に首都に向かおう。協力者を作る必要もありそうだしな」
「ミオとカライスは僕が監視しておくよ」
「え? 私も監視対象?」
「重要な情報持ってるのに、戦闘能力は皆無。きみの存在を気付いたら、教団は神子よりも先にきみ狙うよ」
「まあ、そうだな。監視と言ってるが、護衛だ。大丈夫、ショウドウで会おう」
「うん、またね。サフィロス」
二人は笑顔を作って、帰っていた。多分、無理してでも普段通りに振舞っている。水の神子様については聞けなかったけど、多分、二人が上手く話しをしてくれるのだろう。
次の目標は、ショウドウ――風の国の首都だ。




