13.牢屋にて
「お・き・ろ!」
「ふえっ?」
突然の大声に驚いて、目を覚ます。
「やあ。目が覚めたかい?」
「え? ルヴィニに、サフィロス?」
起き上がると、つんと、カビ臭い匂いを感じて、顔をしかめる。
そうだ、ここは牢屋で、ベッドで考え事をしている間に寝てしまった。
牢屋の鉄格子の先に、松明をもったルヴィニ、その横にはサフィロスが手を振っている。
「え? どういうこと?」
「はぁ……こんな場所でよく寝れるね。何度声をかけても起きないし」
「泣いてたのか? すまない、うちの子達のせいで辛い思いをさせたな」
なんで、二人とも牢屋にいるのだろう?
中にいるのは私だけだけど。
ちらっと入口を見るけど、見張りの人もいなくなっていて、私達しかいない。
呆れたようなルヴィニと、近付いた私の顔を見て、涙の跡を見つけて、謝罪するサフィロス。
その姿に少し安堵して、心に余裕ができる。
「どういう状況?」
窓から見える夜空を見る限り、空は暗く、朝は遠い。
どれくらいの間、寝てしまったのかはわからないけど、深夜と言って差し支えない時間帯のようだ。
二人は、普通に話しかけていて、脱獄させてくれるという感じでもない。
本当に、どうなっているのだろう。
「あの……」
「しっ……少し待ってくれ」
話を聞こうとしたら、サフィロスが唇に人差し指を当てて、黙るように指示される。
「あの、あまり大声は……こちら側には他の囚人もいますので」
「うん、ごめんね~。気を付けるよ」
「すまんな。だが、まだ話があるから、下がっていてくれ……まあ、そういうことだから、小さめの声で頼むな?」
黙ると、すぐに監守らしき人がドアを開けて、声をかけてきた。
監守も頭を下げて、あっさりと出ていってしまった。彼らの中では話はついているらしい。
そして、私に詳細を説明する気はないようだ。
「アイオとカライスのおバカ二人が、君を間違って通報したって聞いてね。詰所には話を通したよ。まだ、釈放するまでの許可はでてないけどね」
「あ……うん」
どうやら、私のことを知って、二人は動いてくれていたらしい。
心細くしているだろうと予測してここに来たのに、爆睡している私がいた。
ルヴィニはやれやれと口にしていて、かなり呆れている。
心細くて泣いているかと思ったら、爆睡だからね。
神経図太いと思われている気がする。
「明日、町長に頼むから、すまないが少しだけ待っててくれ。……無事でよかった」
サフィロスは優しく微笑んで、安心するように「待っててくれ」というので、もう大丈夫なんだという気持ちが湧いてくる。
しかし、ここに会いに来る許可どころか、見張りすら席を外させる権力を垣間見せる。
私を解放できると確信している口ぶりだ。流石、神子の従者ってところだ。
「何があったのか、聞かせてくれないか?」
「うん……どこから説明すればいいか」
アイオ様のことを一から全てを話すわけにもいかない。
そうすると、カライスちゃんに誤解されたとか、その程度しか話せることがない。
「待って。ここなら誰もいないから、出来ればしっかりと情報交換をしたいんだよね。サフィロス、アレを出してくれる?」
「うん? ああ、水の神子の関係者であることの証明か……これを預かってきている」
サフィロスが胸元から取り出したのは、水の紋章が彫られた宝石が付いているペンダントだった。
私の手のひらの上に置いてくれたので、じっくりと確認する。
これには見覚えがある。
「確かに……確認したよ」
ルヴィニに言葉だけでなく、証左を求めたから用意してくれた。
それなら、私も誤魔化さずに、きちんと話をしないといけない。
それが、重い話になることでも。
私の存在がどういう存在かも含め、神子様に伝えてもらうしかない。
「これで、納得するんだ?」
「……アイオ様が水の神子様の形見だと、ずっと身に付けてるものだから。これを神子様から預かってきたというなら、間違いはないと思う」
「アイオ、様?」
ルヴィニが怪訝そうに、こちらを見てくる。
様付けをしたことがそんなに可笑しかったか。
ルヴィニもサフィロスも、呼び捨てを希望したから呼び捨てにしている。
ただ、二人にとっては後輩であるアイオ様を様付けだと違和感があるのかもしれない。
でも、推しだし、アイオ様なんだよね、幼くても。
「形見、ね。君の知る未来では、本当に水の神子は死んでいるんだな」
サフィロスは複雑そうな顔だった。泣き笑いのような、何を言っていいか、困っているように見える。
事前にルヴィニには伝えていたけれど。
二人にとっては主の死だから、複雑だろう。
それでも、その悲劇を阻止するためには、残酷な事実だろうと伝えないといけない。
「うん。私は水の神子様の暗殺を阻止するために、この世界に来た。だから、二人には伝えてほしい。どんなことがあっても、死を選ばないでほしいって」
「はぁ……勿体ぶって言わなかったくせに、それだけ?」
私の言葉を聞いた二人は、しばらく沈黙していた。
ルヴィニが大きくため息をついた後、少しお茶らけたように話を流そうとする。
人の気持ちなんて、他人が指摘したところで、変わることは稀だろう。
赤の他人なら猶更だ。だから、真剣に、伝えないといけない。
「ううん、ちゃんと事情を説明するよ。暗殺犯と目されてる人物も知ってる。ただ、それが真実かはわからない。だから、前提として、第一に、死を選ばない。受け入れないでほしいんだよ。どんな人が襲ってきたとしても」
私がゆっくりとちゃんと聞き取れるように紡いだ言葉に二人は頷いてくれた。
衝撃的な言葉だったのだろうけど、それでも、伝えてくれるのだろう、私の言葉を。
まずは、そこからだ。




