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◎勇者とは。

お待たせ致しました!

「300年を知っている」の改訂版です!

グレードアップしたサロス達の物語を是非お楽しみください!

むかーし。むかし。


この世界は緑に包まれ、人々も動物も仲良く暮らしていた。


森は生い茂り、空は雲ひとつない青空で、海は輝き、皆が自然と共生し、幸せであった。


しかし、ある時、この平穏は失われた。


魔王の手によって。


魔王は世界を暗闇に染めた。


魔族を従え、罪なき人々を襲い、動物を魔物へと変えた。


森は枯れ、空に暗雲が立ち込み、海が澱んだ。


皆、恐怖し、魔王に対して畏怖するようになった。


それでも望んでいた。


この恐怖が無くなることを。

自然が元に戻ることを。


魔王が居なくなることを。


その望みは魔王を倒すという意志に変わっていった。


ある男が魔王を倒しに行くと決心し、剣を持って旅に出た。


誰しもが望んでもやらなかったことをやろうとした彼を、人々は"勇者"だと讃えた。


勇者は世界を周り、仲間を集め、魔王の城へ。


この世界にいる全ての人が、動物が、生物が勇者の勝利を願った。


思いは力になる。


その通りだ。…その通りだった。


あの時までは。


勇者とその仲間は、魔王に敗北した。


旅に出てから10年が経った後。


勇者の首が彼を送り出した村に届いた。


その知らせは瞬く間に広がった。


魔王は恐ろしい。

相手にするべきではない。

でないと殺される。


それでも、人々は諦められない。


次の勇者が現れた。


今度こそ、世界を変えてみせると意気込んだ若者が旅に出た。


また数年後、彼の腕が届いた。


次こそ、魔王を倒すと村を出た男は5年で足が届いた。


まだ、と言えば、耳が。

自分が、と言えば、目玉が。


"勇者になる"と言えば、口が。


絶望だった。


どんな人が何をしようと、魔王には勝てない。


魔王は絶対だ。


世界は諦めた。

だが、なんの気無しに世界は変わった。


今から300年前。

"剣の勇者"が魔王を倒しに行った年。


魔王はある条約を持ち出して来た。


それは"非促進勇者誕生条約"。


女神の領域側が勇者を誕生させない代わりに魔王は領域をこれ以上増やさない、という内容だった。


従うことしかできない女神の領域側、つまり魔王に襲われる側はこれを了承。


人間の国、ポプルス国を代表に魔王と条約を締結した。


「こうして、現在、魔王側と勇者との争いは300年間起こっておらず平和になった、というわけですね。」


砂利道の上で大型の車を走らせる。

タイヤと石が擦れる音が絶え間なく鳴り続け、たまに大きな石を踏み、車体が揺れる。


「こうして見るとやはり、勇者が居なくなって安心ですね。」


ラジオから低くも聞き取りやすい、スーツを着た男が思い起こされる声が聞こえてくる。


「ええ。勇者は私達、一般人にとっては魔王を倒すと言って倒せない"裏切り者"ですから。」


そんな声に博士だろうか、いかにも自分は頭がいいと誇示するようなハキハキとした声が答える。


「言われてるな。君達…。」


ハンドルを握る男が小さく、誰に言うわけでもない声量で呟いた。


そして男はラジオのつまみを回し、チャンネルを変える。


「よし、着いた。ここが君達の新しい家だぞ。俺の店"レリク"ーー」


"レリク"と書かれた看板が玄関上に飾られているこの大きくも小さくもない建物が男の家である。


男は大型車の荷台から箱を取り出し、家のドアを開ける。


開店や閉店と書かれた掛け看板が揺れ竹製の風鈴のような音を立てる。


男は一旦、箱を地面に置き、近くにあるスイッチに手をかける。


指に合う窪みに指の腹を押し付ける。


男は指に力を込め、ピリッと電気を流す。


すると、店の至る所に吊るされた電球が点滅を繰り返し、灯りが点いた。


このスイッチのお陰で誰もが持っている電気の魔法をこの増幅装置で増やすことで、あらゆる電気製品を動かすことができる。


現代の生活を支える重要な技術だ。


店中が照らされると、ショーケースや棚が現れた。


その中にはボロボロの破れた服が丁寧に畳まれ、何かの牙や鱗がクッションの上に置かれ、長年手入れされていないであろう剣までも飾られていた。


その他にも多くの物がショーケースなどに入れられてあった。


その光景はさながら何かの博物館で、オルゴールが聞こえてきそうな静かで、不思議な空間だった。


男は箱を今一度持ち上げ、展示物の数々を通り過ぎ、店の裏に運んで行った。


勘の良い方はお気付きであろうか。

ここは、ただの店ではない。


"勇者"の遺物を展示する博物館である。


ガタガタ!


「痛っ!」


そこを経営するのは奥で箱を積み上げ落とし、大きな物音を立てているこの男。


「サロス!!帰ってきたんだね!」


サロスである。


「おー!お前達か!また来たのか?」


彼が話しかけたのは近所の村の子供達である。


「そうだよ!また今日も遊んでよ!」

「うんうん!」


男の子がそう遊びに誘い、女の子と一緒になってサロスの服を引っ張った。


「2人とも!サロスが困ってるだろ?」


「うわ!偉い子が来た!」


2人の子供は茶化し笑い、注意してきた"偉い子"から逃げた。


「もう!また逃げた!」


サロスはその子に近づき、頭の上に手を置いて撫でた。


加えて優しくこう言った。


「ありがとな。コア。」


ボサボサの跳ね上がった黒い髪に、頬の上に念入りに貼られた絆創膏、やんちゃな男の子の要素しかないが友達の中では1番の年長者である。


その年ゆえか、父が医者をやっているからか正しさを突き進む真っ直ぐな子だ。


とは言ったもののまだ子供。

頭を撫でられ、ありがとうと言われて恥ずかしがることは無く、純粋に喜んでいる。


目を閉じ、口角を上げ、子供ながらの丸みを帯びた優しい笑顔だ。


「で、今日は何の用だ?」


サロスが話を切り替え、本当のやんちゃ坊主は大きな声でこう言った。


「今日もあれやろ!あれ!」


「また?またあれやるのか?」


サロスは眉をひそめ、あきらかに嫌そうな顔をしてみる。

しかし、純粋無垢な子供達にその表情を読み取ることは難しい。


「もちろん!今回も!サロスがボスね!」


「分かったよ。」


店の外に出て、緑色の原っぱに立つ。


両手を広げ、息を吸い、覚悟を決める。


「わはは!この俺こそが世界を征服する王である!皆、俺の前に平伏せ!」


少し顔を赤らめながらいつものセリフを言う。


「待て!この僕たちが今日こそお前を倒す!」


やんちゃ坊主が率先して役になりきっている。


それに続く形で女の子もコアも叫びながらサロスに向かっていく。


小さい手でサロスをポコポコ叩き、サロスは押し倒された。


「ぐ、ぐはー!やられたー!」


サロスは生い茂る草の上に寝転び、舌を出し、死んだふりをする。


「やったぞ!僕たちが世界を救ったんだ!」


やんちゃ坊主を筆頭に空に手を突き上げて喜んだ。


そんな風に、なりきり遊びをし、森を探索し、サロスと子供達はこの日を遊び尽くした。


暗くなる前に子供達を家に送り、サロスは家に戻った。


それから、今日持ち帰った箱の中身を出すなど、店の整理をしていると、窓から不穏な灯りが見えた。


空はもう闇に包まれ、時間ももう遅い。


そんな時間に祭りなどもしないし、そもそも、今日にそんな予定はない。


サロスの頭によぎった。


「まずい!火事だ!」


店の壁に伝う階段を駆け上がり、自身の部屋に入った。


何かの準備を始めた。

逃げる準備か、誰かに伝えに行くのか。

そのどちらでもない。


タンスからマフラーを取り出し首に巻く。

そして、その上に飾られた剣を取る。


大きな白い鞘に収められている長剣。鍔は鈍い金色に緑色の宝石が埋め込まれているシンプルなもの。


サロスは家の鍵も閉めず、車に飛び乗り、窪みに指の腹を押し付け、電気を流す。

車が震え、エンジンが掛かった。


彼がやろうとしているそれは。


「みんな、無事でいてくれ。」


アクセルを踏み、村の方へ走らせた。


場所は変わり、辺境の村。


火の粉が舞い、暗い夜空を赤く染める。

村人達が泣き叫び、逃げ惑うも、出口はない。


唯一の出口もゴブリンがいるせいで使えない。


緻密に計画された放火で、村に置かれた柵に沿うように火の壁が出来上がっている。


そんな中で村人達はどうにか逃げられないか四苦八苦するも、気温は瞬く間に上がり続ける。


息は絶え絶え、死ぬのも時間の問題。


「コア!コア!起きなさい!」


コアは母親に起こされた。


火の手は家から家へ、家から森へ。止まることを知らない。


幸いにもコアの家には引火していなかったため外に出ることは出来た。


それでも、コアの手を握り、母は必死に走った。


中も外も変わらぬ熱さがコアたちを苦しめる。


そこでコアは気付いた。


「…お母さん。お父さんはどこ。」


無意識に父がいないことに気づき、母の手を握った。


「…大丈夫。あとで合流するから。」


母の目は一切コアの方を向かない。

いつもなら目線を合わせてくれる。その"いつも"がないことに不安は募る。


母親に手を引かれるがまま、小石に足を引っ掛けながら、どこに向かってるのかも分からず、走った。


「やめろ、やめろ!やめてくれ!!」


聞き馴染みのある声がした。


コアは反射的に見てしまった。


近所の優しいおじさんが斧で切られていたところを。


昨日だってコアをいい子だと言って褒めてくれていた。太陽みたいに明るくて、面白くて良い人だった。


その人の体が裂かれ、血が燃える家の壁に付いた。


コアは目が離せなかった。


おじさんを切った、その怪物から。


血滴る斧を持った腕や足は細く不恰好、緑色の凸凹な体についた頭は大きく、黄ばんだ歯を覗かせ、死体を見て喜んでいる。


全身で感じる。あいつは恐怖を体現した存在。

あれは、魔族ゴブリンであると。


その時、飛び出した黄色い目がギロリとこちらを向いた。


ゴブリンは顔を歪ませ、嬉々とした表情でコア達に駆け寄って来た。


ドタドタと地面を跳ねるように向かってくる。


コアは母の手を引き、逃げようとするも、動かない。


なんで、と振り返れば、母が目線を合わせ、こう言った。


「逃げなさい!早く!」


「やだ!」


「早く行って!」


母はコアを力一杯突き飛ばした。


頬を土に汚し転ぶ。


ゴブリンのおぞましい顔が母の隙間から見え、コアは思わず、母を置いて逃げた。


「それでいいのよ。」


母が呟き、ゴブリンは母に顔を寄せる。


「へへっ。お前もあの世行きだ。」


そう言うゴブリンに凛々しく、睨みつける。


「そんな顔しても無駄だ。」


ゴブリンは手の斧を振り上げ、荒々しく削られた刃が母の首元に差し掛かった時。


「お母さんに触るな!」


コアは踵を返し、戻って来た。


「コア!」


母が叫ぶも、コアはゴブリンに殴りかかる。

右腕の拳を頭の後ろで構える。


その時、コアの中で何かが起こった。


コアの右腕の中から体外へと電気の魔力が溢れ出し、稲妻が拳の軌跡をなぞる。


拳はゴブリンの顔に直撃、殴ることでのダメージはほぼない。


それでも、コアの魔力はその場にいた全員の想像を超えていた。


ゴブリンに当てた拳から電撃が流れ込んだ。


赤く染まった夜空を塗り替え、閃光を村全体に散らした。


ゴブリンの緑色の体は黒く変色し、横たわった。


「ぼ、僕、今、何を…。」


自分の右手を見つめ、戸惑うもそんな暇はない。


「てめぇ!なにやってくれてんだ!」


さっきの閃光を見た大柄なゴブリンがコアの元にやって来た。


「てめえはここで殺さなきゃな。」


ドタドタという音ではなく、地面を揺らす一歩でそのゴブリンは歩いて来た。


肩に背丈以上もある棍棒を担ぎ、こちらを睨む覇気でコアは腰を抜かし、立ち上がれなくなった。


ゴブリンの間合いに入った。


あの棍棒を振り下ろされれば、母もろとも潰されて殺される。


そう考えてしまい最後、コアは震え、息も上がる。


何も出来ない。


勇気が出ない。


もう、終わりだ。


コアは諦めた。


「一振りで逝かせてやるよ。」


ゴブリンは棍棒を振りかぶった。


「そうはさせない!!」


声だ。

馴染みのある、あの人の声。


ゴブリンとコアはその声のする方を見た。


「あれは…車!?」


ボスゴブリンは気付くなり衝撃に身を構えるも、全速力の大型車に耐えられず、


コア達の目の前で、バンパーを、エンジンルームを凹ませ、ボスゴブリンを吹き飛ばした。


ボスゴブリンはそのまま飛んでいき、崩落寸前の燃えた家に突っ込んだ。


瓦礫がボスゴブリンの上に覆い被さった。


白い煙を吐く車から、白い鞘を腰に携えた男は降りてきた。


マフラーが北風に舞い、周囲の雰囲気をガラリと変えた。


「…サロス?」


コアは首を傾げ、呼びかけた。


が、答える気がないのか、無視される。


だが、コア達の前に立った。


ボスゴブリンは瓦礫を押し除け、怒りを露わに子分に命令を下す。


「あいつを殺せ!」


その空気を震わす怒号に子分ゴブリン達がゾロゾロとサロスの前に姿を現す。


「殺れ!!」


子分達は棍棒を振りかざしサロスの方へ走った。


サロスは左腰に下げた剣に手を掛ける。


そして、剣を…抜かず、鞘ごと構えた。


その鞘をつけたままの武器を笑い、襲ってくる子分ゴブリンが一瞬で伸された。


追加で子分ゴブリンが向かうも首の後ろ、顎の下、腹の溝、それらを素早い動きを持って物量のある鞘で狙い打ち、ゴブリンが次々と倒れていく。


「死ねっー!」


最後の子分ゴブリンが棍棒を横に振る。

サロスは跳び避け、鞘が付いたままの剣を縦に前回転し後頭部を勢いよく打った。


ゴブリンは白目を剥き、地面にうつ伏せに倒れた。


「あいつ、あの動き、300年前に死んだはずの"剣の勇者"に似てる。」


ボスゴブリンは声を震わせ呟き、サロスにこう放った。


「お、お前!"剣の勇者"なのか!?」


「…だったら、どうする。」


サロスは顔色変えずゴブリンを威圧する。


「お、お前ら!一旦引くぞ!」


彼の圧にたじろぎボスゴブリンは意識のないものも意識のあるものも従え、村から出て行った。


最後のゴブリンも村から出ると、まるで女神様の祝福のように雨が降り始めた。


火は収まり、代わりに黒い煙が上がる。

だが、


「サロス。お前って、勇者だったのか。」

「嘘だよな。」

「バカ言うなよ。あのサロスだぞ?そんなわけないだろ。」


村人の心には暗雲が立ち込める。


「…だったら、どうする。」


サロスは、村人を一瞥もせず車を押し、去ってしまった。


「サロス。」


コアは彼の後ろ姿を見ていた。










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