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番外編6 スフェンとセラフィス

※番外編1と番外編2の続き

 普段あまり訪ねることのないセラフィスの私室に呼びだされたスフェンは、部屋に入るなり息を整えた。呼びに来た人間からはセラフィスは迎えに出られないから寝室に直接入るようにと伝言されている。これは只事ではない。

 寝室のドアをノックしてセラフィスの返事を待つ。すぐに入室の許可が下り、なるべく音を立てないように慎重にドアを開けた。目に入ったセラフィスはうつ伏せでベッドに横になっている。


「緊急の呼び出しとは何事ですか?」

「ああ、スフェン。よく来てくれた」


セラフィスは首を捻ってベッドからスフェンを見上げた。なんと体を起こすことさえ出来ないようだ。


「起き上がれないほど重症なのですか?」

「……いや、腰が痛くて」

「え? 貴方、まさか」


人払いをして内密に呼び出されたぐらいだ。

 周囲に隠したい内容で腰が痛くなる原因など相当に限られる。ましてセラフィスは王城で一、二を争う美形だ。彼は剣も魔法も腕が立つが、かといって相手が多勢に無勢であれば分からない。政敵であればことさら矜持を傷つけるようなやり方をあえて選ぶ事も考えられる。スフェンが蒼い顔で口を押さえると、それに気付いたセラフィスが言った。


「や、ちがう、そういう深刻なあれではない」


のんびりと手を振るセラフィスに、どうやら想像より重大な案件ではないと知る。だとすれば一体何があったのか。


「ではいかがなさったんです? 重いものでも持ちましたか?」

「いや、シェールと木に登ったらちょっと」

「……はぁ?」


一度目を瞠ったあと、スフェンが声を漏らす。呆れて物も言えない、というようなその響きに、だから言いたくなかったんだ、とセラフィスが呟いた。


「ったく、心配して損しました。若く見えても良い歳なんですから無理しないでくださいよ」

「そうは言っても、手っ取り早く人柄を知るには一緒に遊ぶのが一番だろう?」

「言いたいことは分かります。でも貴方、ルーナの時は必要以上にはしゃぎすぎなんですよ」


腰に手を当てて仁王立ちのスフェンにセラフィスがバツが悪そうに視線を逸らす。


「何かあってもスフェンが治してくれるからいいかと思って」


その返答に、はあぁぁぁ、と深い深い溜め息をつき、スフェンが肩を落とした。


「まったく王城には困った甘えたさんばっかりですね」

「ああ、我らが魔術師殿が何かしているらしいな」

「貴方、気づいてたんですか?」


スフェンもイオリスがここ最近根をつめている理由が何なのかは大方想像がついているが、しかしそれほどイオリスと頻繁にやり取りをしている訳でもないセラフィスまで勘づいているとは思わなかった。


「私を誰だと思っている」


当然だとばかりにセラフィスがのたまうが、枕を抱えてうつ伏せている姿では間抜けなだけだ。


「その格好では何の威厳もないですよ」

「違いない」


はは、と声を上げて笑うセラフィスにスフェンは疲れた息を吐く。


「イオリス様なら可愛げがありますが、貴方私より年上でしょう? しっかりしてくださいよ」

「この部屋では宰相はお休みだ。私は友人には気を使わないタイプでね。それに私は三兄弟の末っ子だ。元来甘える方が得意なんだ」


全く反省していないセラフィスに、スフェンは何を言っても無駄だと悟る。そもそも己が納得しないと動かないセラフィスは、昔からこの手の諫言を受け入れたことはない。


「自慢になりません。まったく皆に見せたいですね」

「そこは秘密にしてくれると有り難いな」

「言ったところで誰も信じやしませんよ。さて治しますよ」


 ベッドの端に座って、セラフィスの腰に手を当てる。意趣返しに思いっきり押してやろうかと思ったが、さすがに可哀想なのでやめた。目を閉じて慣れた呪文を唱える。スフェンは少しして腰をポンと叩いた。


「はい、おしまいです」

「ん、楽になった」


セラフィスが短く返事をして身を起こす。胡座をかいて、スフェンの頭に手を伸ばした。


「ありがとう、助かった」

「今さら年上ぶらないでください」


灰色の髪を柔らかく梳くセラフィスに、スフェンが無表情に言った。舌打ちでもしそうなその顔にセラフィスが苦笑する。


「少しくらい照れても良いだろう、可愛げがないな」

「そんなもの私が持ち合わせていないのは、貴方が一番よく知っているでしょう?」


スフェンは強い光の魔法属性を持ったがために、幼い頃に王城に引き取られている。そこに本人の意向は無く、大人だけで勝手に進めたことだ。周囲の人間が信用できず、誰彼構わず刺々しく接していた年若いスフェンを一番近くで見ていたのは他ならぬセラフィスだ。


「そうだったな」


懐かし気に目を細めたセラフィスが、またスフェンの頭を撫でる。

 子供の頃の自分はその手をしょっちゅう振り払っていた。しかしいつしかこうして頭を撫でられることも無くなった。その手はあの頃と同じで暖かい。大いに不本意ではあるが、たまには良いかとスフェンは肩を竦めるだけに留めることにした。

『でも今思えばあの頃の方が可愛げがあったぞ。可愛くないところが可愛いかったな』

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