エピローグ②
これにて完結となります。ありがとうございました!
「エディアス様は、まだお仕事をなさっているの?」
エディアス様は新しい王として日々を忙しく過ごしている。私は聖女として、そしていずれは王妃として彼の隣に立つための勉強の最中だ。私の体調は安定しており、今の所人間としての生を全うできそうだ。
「そのようですね」
護衛や狩りの仕事がほとんどなくなってしまったカイルとカーレンは、これが本来の姿だと言わんばかりに、城の中庭でご機嫌な様子で寝転がっている。
アルフォンスとティモシーはラング領に残り、引き続き領地の経営に勤しんでいる。フェンリルたちは魔の森を出て、世界樹の近くで新たな生活を始めた。元気が有り余っているのか、毎日の様に王都とラング領を行き来していているから、距離の割には頻繁にフェンリルの姿を見かける。
慌ただしくはあるけれど──日々の生活は、喜びと希望に満ちている。
「アリア様もお昼寝をしますか?」
「する訳ないじゃない……」
さすがに日中からそんな暢気な事はできない。何か仕事を探しに行こうか──と思った時、双子は同時に起き上がり、にやにやと含み笑いをしながらこちらを見た。……最近、ますます自我が発達してきたのか、人間らしくなってきている。
「ど、どうしたの?」
「アリア様に、面白い事を教えて差し上げようと思っていた事を思い出したのです」
「また、何か妙な事ではないわよね?」
妖精のすることは予測がつかない。そう思いながらも耳を傾けると──。
「エディアスは、何かアリア様に隠し事をしている様ですよ」
「え……」
「よくないですね。これはゆゆしき事態です」
妖精は本当の事しか言わない。二人がそう言う時、それは真実なのだ。
「ちょっと……調べに行ってもいいものかしら?」
「伴侶と言うのは聖女の第一のしもべですから、いいのでは?」
私は二人を置いて、エディアス様の執務室へ向かう。こっそりと覗き込むと、彼はいつもの様に机に向き合っていた。けれど、その視線の先は書類にはなかった。彼は背もたれによりかかり、手にはハンカチを──いや、あれは研磨用のクロスだろうか?
「エディアス様?」
声をかけると、彼は慌てた様子で上着の中に布をしまい込んだ。
「何をなさっているのですか?」
「……なんでもない」
「それは嘘ですよね?」
「特には、なにもないよ。休憩していたんだ」
エディアス様は、執務中はともかく、個人としては良くも悪くも、嘘があんまりお得意ではない。こんなにそわそわされては、誰かに告げ口されなくたって、様子がおかしい事ぐらいはわかる。
「私に隠し事ですか? 世界樹がは全て見ていますよ、いつも……」
「やれやれ……君にはかなわないよ」
私の脅しに屈したのか、エディアス様はしぶしぶと言った様子で、クロスの中から白銀に輝く──指輪を取り出した。
一目見て、それが誰のためのものなのか分かった。
──私の指輪だ!
五十年前、結婚の約束をした時にエディアス様が指に嵌めてくれた──その指輪が、今ここにある。
「それ、私のです!」
自分で別れの言葉とともに突き返した事も忘れて思わず手を差し出すと、エディアス様はゆっくりと首を振った。
「五十年前のデザインだから、時代遅れだし、傷だらけだし。君にはふさわしくない」
当時の王子だったエディアス様がくれたものなのだから立派ではあったけれど、それでもいま、王妃となり、聖女でもある私に骨董品を渡すのはいかがなものか? とエディアス様は考えているらしい。
「そんなの、全然気になりません」
エディアス様が聖女になる前の私を妻にと望んで贈ってくれて、一度は私の手を離れたけれど、その間エディアス様の元で彼の頑張りを見守っていた──どんな豪華な、新作の宝飾品があったとしても、思い出の指輪に勝るものなんて、あるはずがない。
「僕が気にするんだ。これは墓に入れてもらおうと思って、大事に保管して……たまに眺める為のものだから。とにかく、この指輪は、僕のものだから」
エディアス様は強情にも、指輪をチェーンに通して、胸元にしまい込もうとした。
「そんな!」
「アリアには、新しい物を改めて贈るから」
「……それじゃあ、私に貸してください」
やっと見つけたのだ、もう大事なものについて、譲るつもりはない。
「……貸すだけなら。いつまで?」
「ひとまず、お墓に入るまで……でしょうか」
私の言葉に、エディアス様はめずらしく、声を上げて笑った。
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新連載「氷の公女に悪魔はかしずく」を開始しています。そちらも覗いていただけると嬉しいです!




