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エピローグ① 一方その頃

最終回の一方、その頃そこにいなかったキャラは何をしていたのか……落とし前をつけろ!派用のサブストーリーで、ハッピーエンドが好きな方は飛ばしてエピローグに行っても話がつながります。

 

「いたか?」

「いた、いた」


 見えない『何か』がふたつ、木々の間で何やら楽しげに会話をしている。くすくすとした笑い声は、木漏れ日にとけていった。


「はあ、はあ……」


 城内。世界樹の神殿だった場所の近く、古代から残る森の中を、足を引きずりながら歩く老婆がいる。そのしなびた体には不釣り合いな豪奢なひだのついたスカートをたくしこみながら、老婆は何処かへ向かっている。


 ドレスの裾を、見えない『何か』が踏んだ。そのせいか、老婆はつんのめって転び、痩せた体は地面に投げ出された。


「あ、足が、動かない……!」


 焦る老婆の頭上で、くすくすと嘲るような笑いが、森の中に響いた。


「妖精ねっ、憎たらしいこと!」


 老婆は虚空にむかって声を張り上げた。


『憎たらしい? そんなことは初めて言われた』

『そう、そう。聖女はそんなこと、言わない』

『聖女じゃないからな』

『こいつは魔女だからな』

『魔女は、きちんと隠しておかなくては』

『確かにそうだ。そうしよう』


「や、やめなさいっ! 離して!」


 老婆は見えない『何か』にずるずると引き摺られていった。やがて、古びた青白い石造りの建物が見えて来る。


 世界樹の神殿だった場所だ。世界樹の根が建物の半分ほどを突き破っており、もう残骸と言ってもいい。その中にわずかに残っている、床だった場所にアルフォンス・ラングが立っていた。彼はじっと、地面の裂け目──地中のマナが地表近くまでせり上がり、人間からはあたかもマナが泉のように湧き出ているように見える場所──を見つめていた。


「アルフォンス・ラング。仕事をさぼっているのか」


 カーレンの声に、アルフォンスは顔をあげた。


「水入らずの時間を邪魔しないでおこうと思っているだけさ。お前たちこそ」


「俺たちはきちんと『掃除』をしている」


 掃除、と言われて、カイルに引きずられていたシェミナはびくりと肩をふるわせた。


「ほ、ほらっ。この腕輪をあげるわ。妖精は宝飾品が好きでしょう。だから……」

「いらない。私はまだ、宝物庫に行っていないから。そこにはもっといいものがあるはずだ」


 シェミナの懐柔にカーレンは眉一つ動かさずに、マナの泉を覗きこんだ。


「このへんがよさそうだ」


「や、やめなさい! 私はこの国の……!」


 妖精たちが何をしようとしたのかを勘付いたのか、シェミナが悲痛な叫び声をあげた。


「それはすべて、過去のことだ」


 妖精たちはまるで床に落ちた紙きれを屑籠の中に捨てるように、シェミナの体を持ち上げて、マナの泉に投げ落とした。


 その様子を、アルフォンス・ラングは止めるでもなく、かと言って率先するでもなく、じっと見つめていた。やがて、緊張が解けたかのように、ふうと息を吐いて、髪の毛をかき上げ、くしゃりとさせた。


「……やれやれ、まんまと洗脳されて裏切ったのかと思えば、大芝居とはね。ずいぶん人間臭い妖精もいたものだ」

「敵を騙すにはまず味方からと言うだろう?」

「神官の顔はなかなか面白かった。五百年ぐらいは思い出し笑いができそうだ」


 カイルとカーレンにくすくすと笑われて、アルフォンスはそこでやっと、苦虫をかみつぶしたような顔をした。


「私を助けなさいっ!」


 マナの泉の中に落下したと思われていたシェミナは、世界樹の根につかまり、まだ穴のすぐ下にとどまっていた。


「助けるわけ、ないだろう?」


 アルフォンス・ラングは冷たい目で、シェミナを見下ろした。


「お前の悪政で、王都には親のない子供たちがあふれた。私もその一人だ。お優しい聖女様が許しても、俺たちの父で、王が許しても。我々はお前を許すわけにはいかない」

 

 アルフォンスは震える拳をぎゅっと握りこんだ。


「じきに、世界樹の根がこの穴をふさぐだろう」

「肥料ぐらいにはなるんじゃないか?」

「いや。なかなかに自我が強いから、マナと同化できず、永遠に地下でうごめくはめになるかもな」


 ふたりの会話に、アルフォンスは顔をしかめた。妖精は自分達以外の命を奪うことに躊躇はない。妖精は美しいものだと人間が思っているから、外見は美しい。けれど、彼らは完全に善の存在ではないと、アルフォンスは理解している。彼らが弱いものの味方のように見えていたのは、聖女がそう振る舞い、彼らに影響力を与えていたから。


 妖精とは、恐ろしい存在で、人の身である自分には御すことが出来ないだろうと、ふたりを呼び出した当の本人であるアルフォンスは思う。


「妖精は人を映す鏡だ」

「……」


 ふいに声をかけられて、アルフォンスはカイルを見た。


「世界樹はマナの集合体、無数の意識の流れ──そこから産まれた我々も、残留思念の影響を受けている。お前がこうしたいと強く願うことが、我々に影響を与えるのさ」


「その程度の魔力では、ここに長居はできない。瘴気とマナは表裏一体。濃いマナもまた、生き物の心を崩壊させる。魅入られたくなければお前も早く、ぱれえどに戻れ。アリア様には雑用係が必要だ。……そうそう、アリア様に、告げ口はするなよ」

「──肝に銘じておこう。……告げ口するなよは、こっちの台詞だ」


『助けて!……助けて!』


 カーレンの忠告を受け入れたアルフォンスが踵を返そうとしたとき、塞がりつつある穴の向こうから、まだしつこくシェミナの声がした。


「今度は、おまえの番だ」


 アルフォンス・ラングはそれだけ呟いて、世界樹の根が穴を完全にふさぐのを確認してから、その場を離れて、二度と振り向かなかった。

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