アルフォンスの作戦
「さて、アリア様。私の考えた作戦を今から伝授いたします」
「ええ」
ラーミヤの背の上で、アルフォンスが最後の作戦を告げてきた。
「まず、我々はこのまま、三人で城に特攻します。正義の心に突き動かされた、愚かで無計画で思いあがった馬鹿三人組です」
「ひどい自虐だ。なぜ、城の背後から攻めない?」
「調べはしているが、向こうがどこに隠し通路を用意しているかわからない。一見、城は昔と変わらないように見えるが内部はだいぶ改装されているのだ。当然守りも堅いだろう。こちらが消耗する前に、勢いをつけて突破するしかない」
アルフォンスの切れ長の瞳は、まっすぐ王城の中心、玉座の間がある塔ににするどい視線を向けている。
「ここでエディアス様がやってきた場合、さすがのシェミナも何か作戦があると思うでしょう。しかし、この三人だと、簡単に御せてもおかしくはない。むしろ当然だ。相手はそう思うでしょう」
「我はそう簡単に倒れぬ!」
「魔女にとって、フェンリルはかつて支配下に置いたとるに足らない獣──怒るなよ。向こうがそう思っている、と言うだけだ。そして私は魔法の使えないエディアス・ラングが苦し紛れに駒として養育したその辺の浮浪児。妖精騎士や城に詳しい王太子に比べると、見下す要素が満載だ」
「……言い方は悪いけれど。言っていることはわからなくもないわ。シェミナはそういう性格なのよね」
「ええ。王城には正門から続く長い階段、そして複数の通路の合流点である中央広場、その先には塔の中の玉座へと続く長い空中階段──そこには、間違いなく何らかの仕掛けがあるだろう。我々は向こうのご希望通りにその罠にかかって、アリア様をあえて孤立させる」
「馬鹿なのか?」
ラーミヤが呆れたように息を吐いた。
「馬鹿と思わせるんだ。シェミナは孤立したアリア様をあざ笑うために──あるいは安心して、直接手を下そうとするだろう。その油断した瞬間を突く」
「理屈はわかる。しかし我は馬鹿ではない。むざむざ罠になどかかりたくない」
ラーミヤが不平不満をこぼした。アルフォンスはその嘆きを無視して、作戦を続ける。
「まず、私が手頃な罠にかかります。その時に、無様な感じで盛大にキレておきます。次に、ちょうどいい罠があったら、俺は大丈夫だと格好つけていたラーミヤが、罠に引っかかる。アリア様は呆然としながらも、けなげにも一人魔女と戦うために、玉座へと向かうのです」
「くだらん……そんな事で油断をしてくれるのなら、苦労はせぬ」
「私にはわかる。シェミナは性格が悪い。アリア様が困難に直面している時、あざけりの一つも言いたくなるはずだ。向こうは聖女の力が制御できなくなって、暴走した瞬間を狙っている。弱ったアリア様の前に、必ず姿を見せるはずだ」
「わかると言うのは……自分も性格が悪いから、か?」
「知り合ったばかりのフェンリルにそんな事を言われるのは心外だ。……アリア様、先ほど、カーレンが渡してきたイヤリングがあるでしょう」
「ええ」
カーレンが別れ際に渡してくれたイヤリングは、お守り代わりに右耳につけている。
「それで彼女と通信ができるのは実証済みです。魔女は人の心を惑わす──かならず、あなたの心の弱みにつけこんでくるはず。例えば、昔嫌だったこととか、つらかった事とか」
「今の仲間が無残に殺されていたり、裏切ったりしている様を見せられたり、とかか」
「そうだ。そこでカーレンが、きちんと外の状況を連絡してくれれば、アリア様は惑わされることはない」
「話は分かった。それで、我らは罠にかかったあと、何をするのだ」
「まず、どうにかして、自力で脱出する」
「適当だな。即死系の罠だったらどうするつもりだ」
「私達はまず確実に見下されているが、利用価値はある──洗脳して駒に使ったり、アリア様への脅しとして使おうと思っているだろう。だからすぐに命までは奪われない。罠の内容は不明だが──今日の日のために、先々代の王妃様がエディアス様に託された品々がある。これで何とか身を守る事ができるだろう」
何せ王家に伝わる伝説の品だからな。とアルフォンスはじゃらり、と懐からお札やペンダントを取り出した。彼が一生懸命、寝る間も惜しんで研究を続けていたのを知っている。──今日のために、必死に準備をしてきたのだろう。
「ふむ。脱出したあとは何を?」
ラーミヤはなんだかんだ乗り気なようで、真剣にアルフォンスの話を聞いている。
「子供の頃、エディアス様から寝物語で王宮の宝物庫の話を聞いた。──大人になって、捜査がてら覗きに行くと、話通りの財宝が保管されていた。通常時は持ち出すことが出来ないが、今なら」
「そこに、何か使えそうなものがあると言うの?」
アルフォンスは頷いた。端的に言ってしまえば火事場泥棒だけれど、使い終わったあとは宝物庫に返す前提なら、致し方ない。
「世界樹の騎士が使っていたとされる宝剣や、姿を隠す事が出来るマント、護符など、魔女を封じた王家の財宝が収められています。──どれも、世界樹のそばでは力を増す。魔女にとっては、非常に都合の悪い品々ですね」
「そこにあるものを我がパクり、聖女のもとに駆けつけるというわけだな」
「ああ。ラーミヤは隠された宝物庫から財宝を頂戴した後、塔の壁面をよじ登る。玉座の裏には巨大なステンドグラスがある。そこで機を伺い、アリア様が最大級の危機に瀕した時、背後から乱入する。聖女のによって力が強まっている今なら、一時的とはいえ、魔女に対抗することができるだろう」
「そこで、私がシェミナにマナの剣を刺すのね」
「最終的にはそうですが。もう一つ、仕掛けがあります」
アルフォンスは、ぴっと自分を指さした。
「私は世界樹の神殿に向かいます。現在、マナの泉は厳重に封鎖されています。──むき出しの濃度の濃いマナは、人間にとって毒だからです。その封印を解いて──世界樹の通り道を作ります」
「通り道って……世界樹はラング領に根付いているのよ」
「話が逆です。なぜそもそも、世界樹がラング領にあるのか。それはアリア様が「呼んだ」からです」
アルフォンスは楽し気に口の端を持ち上げた。……まさかとは思うけれど。
「もう一度、世界樹をこちらに呼び戻すのです。世界樹の圧倒的なマナの力で、魔女を押しつぶすのです」
「大きさが、全然違うわ。今はもう、世界樹は城より大きいのよ」
世界樹の圧倒的な質量を、こちらに呼び戻したら、どうなるか。歴史ある王城が、めちゃくちゃになってしまう事は想像に難くない。
「いいじゃないですか。城を、ぶち壊すんです」
アルフォンスは、あっけらかんと、楽しそうに言った。
「お城を壊すっていうの!」
「魔女の刻印だらけの城など、エディアス様にはふさわしくありません。……この国は一度滅びているんです。どうせなら、盛大に破壊しましょう」
「ふむ、悪くない。バカの割には、なかなか面白い」
絶句している私の代わりに、ラーミヤが返事をした。二対一、で可決と言う事だ。




