表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/61

聖女の想い②


「ふう……」


 あれからひっきりなしに、私が詰めている礼拝堂には瘴気の浄化を求める人々で溢れた。濁りきったドス黒い紫色をしたそれを浄化し、無害なものにしていく。作業は何度も繰り返しても繰り返しても終わらなかった。


 そのうちに、流れ作業でやらないと追いつかない──思考の変化が私の能力に影響を及ぼし、いつの間にか意識せずとも広範囲での浄化が出来るようになっていた。


 もっと、もっともっともっと効率よくしないと──。


「アリア!」


 急に肩をつかまれて、私の意識は引き戻された。


「エディアス様!」

「お疲れ様」


 そう私をねぎらってくれるエディアス様は、もっと疲れた顔をしていた。領地の皆が疲弊しきっている。しかも、この忙しさは今日だけではなく、終わりが見えないのだ。


 日々、王都からの避難民は増える。受け入れを拒否するか、それとも大本の原因を絶つか──決断の時はすぐそこまで迫っている。


「エディアス様もお疲れ様です。お仕事がたくさんあって、お手伝いできたらいいのですが……」

「アリアはとても良くやってくれているよ。感謝している」


 聖女として働いて皆の尊敬や感謝を集めるよりも、エディアス様がかけてくれる言葉の方がうれしく思えてしまう時がある。


「……普通に歳を重ねていたら過労死していただろうな。今となっては、肉体を温存できてよかった」


 冗談なのか本音なのかわからなかったが、そんなことを言いながらエディアス様は笑っていた。


 エディアス様の笑顔を見ると、とても幸せな気持ちになれる。もう二度とこんな風に彼と話をすることはできないと思っていた。それが今では普通に──今の状況は普通でもないけれど、会話を交わすことができる。嬉しいことだ。


「エディアス様は働きすぎです! 少し休んでください!」


 毎日、朝から晩まで執務室にこもり、机の上に山積みになっている書類に向かってペンを走らせているエディアス様が、けさも朝食を食べなかったとメイドがぼやいていたのを聞いていた。なので休むよう提言をしたのだが、彼は困ったような顔を浮かべたあとに小さく息を吐いた。


「ありがとう。でも僕は大丈夫だよ」

「全然寝ていないのではないでしょうか」


 エディアス様の執務室には毎晩、深夜まで灯りがついている。私は昨夜、ラーミヤと共に見回りと言う名の散歩をしていたから、知っているのだ。


 目の下の隈はいつもより濃くなっているし、肌の色艶も悪くなっている。明らかに調子が悪いはずだ。いくら体は若いままだと言っても、無理をしすぎなのだ。


「大丈夫。僕は丈夫なだけが取り柄で、魔法や武力にはからっきしだ。ゆっくりしている時間さえ惜しいんだ。早く民たちの苦しみを取り除いてやらないと……」


「駄目ですよ!! どうしてそうやって無理ばかりするんですか!」


「無理をしているのは、君もだろう」


 沈黙が訪れた。エディアス様は、とっくに私の体の異変に気が付いていたのだ。


「君は、僕以上に睡眠をとっていないし、食事もほとんど残してラーミヤが食べてしまっているよね」

「それは……」


 その事実を受け入れたくなかった。変わってしまった髪の色。人間らしい生活を取り戻す事のない体、体の中で暴発しそうになるマナの力……。


 聖女である事と、エディアス様の伴侶である事は両立しないのではないか。そんな疑惑に、脳裏にこびりつくシェミナの高笑いがさらに不安を添える。


「アリア……?」


『エディアス様ー! エディアス様、どちらにいらっしゃいますかー!』


 ティモシーのけたたましい叫び声が聞こえて、エディアス様はすっと私から離れた。


「ごめん。また……」


 エディアス様は忙しい。私は領主の仕事はなにも出来ないも同然だから、今自分が出来る仕事……聖女としてマナの魔力をふるうことを頑張らなくてはいけない。


 私を必要としてくれる人がたくさんいる。それは今までずっと孤独を感じていた私にとって、生きている実感を与えてくれる。私はたくさんの人の役に立ちたい。


 そして誰よりも大切な、エディアス様の力になりたい。たとえその先に、私の存在がなくなってしまったとしても。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ