王家の墓②
夜、視察から戻ってきたエディアス様から「食事でもしないか」とお誘いがあった。私たちがシェミナと直接対話をしようとしたことについて、何か話したいことがあるのだろう。
椅子にゆったりと腰掛けたエディアス様は、いつものように優しく微笑んでいるけれど、その瞳には強い光が宿っている。視察から戻ってきたあと、『使者』の話を聞いたのだろう。
今日のメニューは野菜スープとパン、それに鴨肉のローストだ。
食欲がなかった。今日の出来事が尾を引いているわけではない。お腹が空かないのだ。けれど、心配をかけたくなくて、笑顔で食事を口に運ぶ。こんな時、ラーミヤが一緒にいてくれれば良かったのだけれど。
「……アリア、今日の話だけれど」
「はい」
「君はここに居てくれ。僕たちがシェミナから話を聞いて来る」
「ダメです! 相手は国の軍隊かもしれないんですよ? 危険すぎます」
「しかし……誰が向かおうと、危険なことには変わりがない。それなら、人質としての価値が低い僕が行くべきだ」
十中八九、ラング領に攻撃を仕掛けてきたのはシェミナの独断だろう。けれど、国のほぼ全ては彼女の言いなりだ。実際に、ゼアキスだって躊躇無くエディアス様の命を奪おうとしたのだから同じ事が──もっと非道な事が起きてもおかしくはない。エディアス様の肉体は普通の青年なのだ。
私と違って。
「いえ。これは私の問題です。エディアス様は皆と一緒に、ここに残っていて下さい」
そっと、私を心配そうに見つめる理知的な瞳から目を逸らした。
きっと、エディアス様は私を心配して、行かせたくないと思っている。シェミナには私を呼び出して、マナの泉に突き落とした前科がある。疑うのは当然のことだ。
けれど、私だって、大切な人達を危険な目に遭わせたくはないのだ。
「……領地の警備もありますから。大丈夫です、私は負けません。だって聖女ですから。カイルとカーレン、そしてラーミヤもついてきてくれますし。そちらの方が行動しやすくて彼らもやりやすいと思います」
私の覚悟は決まっていた。
「私は、シェミナと決着をつけるなら、自分の手で、と思っています」
エディアス様は少し驚いた顔をした後に小さく頷いた。そして、私の手を優しく握る。その手は温かくて、大きい。私はこの手が好きだ。ひとときでも離れる事に不安がないとは言えないし、彼が目の前にいる今でも、この幸福を簡単に失ってしまうかもしれない……という漠然とした不安が常にある。
けれど、後手に回っていては、いつか決定的なダメージを受けてしまうかもしれない。そうなるぐらいならばかつてシェミナがやったように、私も自分と自分の家族を守るために妹を倒そう、と思う。
「君の覚悟はわかった。妖精騎士たちの実力と、君を守るための判断には信頼を置いている。任せよう」
「……わがままをいって、ごめんなさい」
「君がこの地に住む人々のために、重責を担ってくれていることに感謝している。……それでは、僕はゼアキスから何か情報を聞き出すことが出来るかどうか、やってみよう。一応、肉親ではあることだし」
「はい」
「それにしても、王家の墓か……」
エディアス様は一口水を飲んでから、ぽつりとつぶやいた。
王家の墓は王都とラング領を結んだ直線上にあり、距離はちょうど真ん中あたりにある。歴代の王族たちが埋葬されている場所で、そこもマナの気配が特別濃い所だ。
「なぜ王都を出て、そのような所で話そうとしたのでしょう。話しにくいことがあるとか、あるいは王都だとこちらが警戒して出向いてこないと思ったか……でしょうか」
アルフォンスは嫌味のつもりだろうと言っていたが、そうではない気がしている。
「アリアはなぜ、王家の墓があの場所にあるのか知っているかい」
「いいえ……」
聖女として城に移住してからはある程度の学問は修めたつもりだったけれど、王家の墓の成り立ちまでは知らなかった。
「その昔、魔を封じ続けるために、王家に連なるものは魔術の触媒となり、かの地に埋葬される決まりが作られた……だから、あのような王都から離れ、人の気配が少ない土地に王家の墓はあるんだ」
「……何かを封印している、という事ですか」
先人の遺したものは伝承となって民間に引き継がれていることが殆どだけれど、私はその話を耳にしたことがなかった。つまり、王族に連なる者だけが知っている秘密──ということだ。
「ああ。だから、王位を継ぐ者は魔力が無ければいけなかった」
「エディアス様は、封印の詳細を……」
「内容は、王を継いだものだけが知っている」
エディアス様は知らされていないのだ、と寂しげに言った。私達は、まだシェミナと、王家について何か見落としをしているのだろうか──。




