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聖女の力①

 あれから数日が経過し、王太子は王都に戻ったのか、それ以上の事件が起きることはなかった。私と妖精たちはひたすらに、森から瘴気で汚染された魔獣を狩ってきては浄化し、食材として領民に渡す、と言う猟師のような生活をこなしている。


 もっと力が強くなれば土壌改善などに力を使えるのではないだろうかと思うのだが、出来るかどうか分からない事を自分から提案する勇気はない。


「アリア様。人間どもが、我々に何か隠し事をしているようですよ」


 カイルがそんな事を言い出したのは、魔の森のごく浅い所で薬草を探していた時の事だった。


「隠し事?」

「はい」


 カーレンがいつか私にやって見せてくれたように、手の平の上にアルフォンスとティモシー、そしてエディアス様が映し出される。彼らはどこかの農場にいるらしい。


 アルフォンスは難しい顔でこめかみを押さえ、ティモシーはもしゃもしゃの髪の毛をかきむしり、エディアス様は腕を組んで何事か考えこんでいる様子だ。


「何をしているのかしら?」

「畑に秘密がある様です」


 カイルが心地よい場所──草木が生い茂っている所を求めてふらふらとしていると「こちらへは来るな」と追い返されてしまったのだと言う。


 別にカイルが畑を荒らすはずもないのだから、何か私たちに見られては困るものがあるに違いない、とカイルの推測。


 畑に向かってみると、既にエディアス様はどこかへと向かった後だった。


「何があったの?」


 私の問いかけに、やや気まずそうな顔をするアルフォンスとティモシーの兄弟。


「ここ、ラング領は国の南西部に位置し……いわゆる国内の最大の水源地であるラシューズ湖の南にあります」

「ええ、そうね」


「……」

「……実は……王家に反抗したとして、制裁として水源地の水をせき止められてしまったのです」


 ティモシーはがっくりと肩を落とした。


「……なんてこと!」


「使者は『聖女を解放すれば元に戻してもよい』と言っています」


 そんな馬鹿な話があっていいものかと絶句する。そのような国民を巻き込む暴挙に出るなど、いくらなんでも酷すぎるのではないか。


「私、一度王都に戻ってシェミナと話を……」

「駄目です駄目です駄目です。それだけはおやめください」


 アルフォンスがぶんぶんと手を振った。それだけは絶対に認められないと言うのだ。何をされるか分かったものではないと言うのが、彼の主張だった。


「言ったでしょう。一度刃向かったものに手心を加えるとはとても思えません。今更アリア様が手元に戻ってきた所で、私達は完全に危険分子として排除されるでしょうね」

「そんな……」


 私のわがままで、他の人達に迷惑をかけてしまっているのは事実だ。


「俺が王城に戻って王族を皆殺しにしてきてやろうか?」

「いくら妖精といえど、シェミナの魔力で灼かれてはひとたまりもない。魂ごと灰にされるぞ」

「カイルが消滅するのは構わないが、そうなると私もあぶない。その案は却下だ」


 どうしたらいいのだろう。何か、私に出来る事はないのだろうか?


「ご心配なく。いいですか、アリア様! 我々も手をこまねいていて、ただ考えもなしに反抗したと思いますか?」

「思った。神官どもはいつも行き当たりばったりだ。真夏のセミぐらいの知能しかない」


「カーレン、みんな真面目に頑張っているんだからからかうのはやめて」


 アルフォンスは気まずそうに、ごほんと大きく咳払いをした。……図星だったとは思いたくない。


「我々はずっと、アリア様の目覚めをお待ちしておりました。しかし、聖女をラング領に連れてきて、何の処罰も受けないなんて事はあり得ない。来るべき未来のため、我が領では荒れ地でも育つ作物や新たな水源の確保に注力してきたわけですが」


「……何か解決策があるのね!」


 しかし、期待感に胸を高鳴らせたのは私だけのようで、皆の表情は暗い。


「なかなかうまくいっていないのが現状です」


 ティモシーはそう言って、がっくりと肩を落とした。


「時間の無駄だ。アリア様、森の散策に戻りましょう」

「待て。今まではうまくいっていなかった、と言う意味だ」


「結局アリア様頼みか?」


 カイルのからかいに、アルフォンスとティモシーは揃って唇を尖らせた。二人にもまた、血のつながりはないらしいが仕草はそっくりだ。


「反論の余地もないのが心苦しいところだが……地中のマナと水脈は非常に近しい関係にある。つまり……マナの気配が濃いところに新たな水源がある可能性がある。その件でアリア様に協力をお願いしたく……」


「なら、私はそれを探せばいいのね?」

「はい! もちろん心当たりは、あります」


 まず世界樹の成り立ちから認識を擦り合わせておきましょう、とアルフォンスは眼鏡を押し上げて説明を始めた。



「世界樹とは単なる木ではなく、マナの集合体が人間に認知しやすい形となって地上に現れたものです。常にマナが湧き出ている状態を人間が「樹」と表現しているだけに過ぎません。本質としては、間欠泉に近いかもしれません。


 つまり、世界樹はあの場所に物理的に存在するわけではないのです。マナの噴出しやすい地形に、人間が世界樹の種──磁石の様にマナを引きつける結晶を設置した所めがけて噴出している」


 その説明については、私もかつて聞いた事があった。


「例えばラング領内にかつてあった湖は、元々世界樹があった場所に水が溜まって出来たものであるとの研究結果が出ています」


 ティモシーは地図を広げてその場所を指し示した。それは確かに、かつて世界樹が存在したとされる場所と一致していた。


「世界樹が枯れた数百年後に、湖の水は涸れてしまいました。しかし、地下の水脈はまだ残っているはずです。元々世界樹のあった場所ですから、地中のマナとは近しいと考えられる」


「アリア様のお力があれば、湖を復活させる事ができるかもしれないと言う事ですっ!」


 と、ティモシーは力強く拳を天にかざした。

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