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ペコロスのデート2



「え!ニケルトン公爵は今お一人なのですか?」

「ああ。妻に先立たれてな」

「そうなのですね……」

「ロージナが来てくれたからまだ安心だけど、やっぱりこの先のことを考えたら心配なんだ」

「最近エスティにも同じようなことを言われたよ。しかし、もう恋愛なんていう年齢でもないだろう」


 心配した表情のグレイの前でガハハッと豪快に笑うクロノスを見て、私の頭にはマリソルで暮らすルイジアナのことが浮かんだ。料理が得意で細やかな気遣いが出来る彼女も、たしかお一人様だったのでは。


 少々お節介が過ぎるかと思いながら話すと、クロノスは意外にも乗り気を見せた。今度手紙を書いて、ルイジアナにも話をしてみたら良いかもしれない。


「こら!ピーパラ、それ以上ペコロスを舐めるな!」


 目をやるとピーパラはペコロスの上に馬乗りになって、その長い舌でベロンベロンと小さな魔獣を舐め回している。


 ブヒュンブヒュンと悲しげに鳴くペコロスがさすがに可哀想になって、私はそろそろお暇しますとクロノスに伝えた。また近々会うことをマグリタたちと約束して車に乗り込む。


 恨めしげに見上げる魔獣に掛けた妨害魔法を解くと、エリオットはぐったりした様子で座席に沈んだ。



「君の言うデートとは随分と地獄だな」

「そうでしょうか?エリオット様の指導のお陰です」

「下手したら以前のアリシアよりタチが悪い」

「そうやって比べるのは失礼ですよ」


 変な話だけど、最近彼がこうして以前のアリシアの話を持ち出すと私は少しムッとしてしまう。


 嫉妬していると言えば簡単だけど、私はアリシア自身であって、彼は同一人物としてその存在を語るのは間違ってはいない。だけれど、頭で理解していてもやはり、私はエリオットに今のアリシアを見てほしかった。


「疲れた、シャワーを浴びたい」

「分かりました。帰宅したら使用人の方に頼みましょう」

「君が手伝うんだ」

「へ?」

「俺は意地悪な婚約者に騙されて一時間あまり巨大な魔獣に舐められた。人間不信になったから責任を取ってくれ」

「そんな……」

「アリシア、君は知らないと思うが俺は結構やられたことは根に持つタイプだから、君が忘れた頃に同じことを…」

「分かりました!洗います、手伝いますので!」


 不機嫌な王太子に慌てて返事をする。

 忘れた頃に仕返しされるなんて恐ろしすぎるし、ピーパラには失礼だけど、あのダラリと垂れた長い舌で舐められたらその匂いは暫く残りそうだ。


 出迎えてくれた使用人たちに頭を下げて、私はエリオットと浴室に向かう旨を伝えた。壁に一列に並んだ彼らの顔色が一瞬にして変わったのを見て、私は自分があらぬ誤解を生んだことを知る。


「ち、違います!殿下はお召し物が汚れたので、私が洗って差し上げるだけで……!」

「もう良い。タオルだけ外に用意してくれ。シャワーの使い方ぐらい俺でも分かる」


 仏頂面のエリオットがそう言い伝えると、使用人たちは恭しく頭を下げて各々の仕事に戻った。足早に去って行くエリオットを追い掛けて私はその後を付いて行く。


「エリオット様!」

「冗談で言っただけだ。間に受けるな」


 目の前でバタンと閉まった部屋の扉に、私は自分の些細なイタズラがそこまで彼を怒らせてしまったことに困惑する。


 静まり返った部屋の向こうでエリオットが何を考えているのか、まったく分からなかった。



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