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飴と鞭の配分2



 白いプレートの上には可愛らしいケーキが四つ並んでいる。さすがというか、この王宮に勤める料理人たちは本当に卓越した技術を持っていると思う。


 私は惚れ惚れしながら小さな欠片を食べてみる。

 夢のような幸せが口の中いっぱいに広がった。


「んんっ!美味しいです!流石です……!!」


 喜びの声を上げる私を見て、そばで見守っていた料理長のボニーは照れたように頭を下げた。せっかく王宮に居るのだから、どうせなら時間がある時に料理も学んでみたい。


「それで、ニコライ君」


 エリオットはケーキには手を付けずに、出された紅茶を一口だけ飲んで口を開いた。


「はい。なんでしょうか?」

「君が来た目的は他にもあると思うのだが」

「ははっ、鋭いですね。僕は確かに愛しのアリシアに会いたかった気持ちも大きいですが、貴方に一つ忠告がある」

「忠告?」

「サバスキアの古の蝶は探し出して廃棄すべきです」


 私はプレートに向かっていた手を止めた。

 緊迫した面持ちのエリオットとニコライの顔を見比べる。


「その件に関しては、すでに捜索を始めている。リナリー・ユーフォニアの瞳から検出された成分がサバスキアの蝶の羽と一致したんだ。あのような事件をまた招かないように、調査隊を作って……」

「世に出回っている数は計り知れません。すでに何らかの悪事に使われている可能性もあります」

「………、」

「僕の方でも調べてみますから、定期的に報告会を開いて進捗を話し合いましょう。月に一度ぐらいの頻度で」

「……ニコライ君、君は理由を付けてアリシアに会いたいだけじゃないのか?」


 驚く私の前で、ニコライは「そんなことはないですよ」と言いながらニヤッと笑った。エリオットはあからさまに不機嫌な顔になって溜め息を吐く。この二人がどういう経緯でここまで揶揄い合うような仲になったのかは不明だけれど、部屋の空気が悪くなるから止めてほしい。


 リナリーが何者かの手によって死亡した、と聞いた時、私は信じられなかった。彼女の身体は検死に掛けられて、魅了の元となった瞳に関しては特に詳しく分析されたらしい。


 クロノス曰く「魔法は人間が思っているよりも複雑」らしいけれど、私は人の心の方が複雑だと思う。リナリーがどうしてここまでの悪意を膨らませてしまったのか、結局最後まで理解することは出来なかった。



「アリシア……?」

「あ…すみません、考えごとをしていました」

「後で話がある。俺の部屋に来てくれ」

「分かりました」


 このエリオット・アイデンという男の心も同じ。


 彼からの提案で、アリシアの意思を尊重して私たちは婚約関係に戻ったわけだけれど、記憶がある彼とは違って私からしたら相手は完全に他人だ。


 知らないことはあまりに多過ぎるし、正直言うと会うたびに何を話せば良いか分からずに緊張する。未だに二人で話す機会が少ないのがまだ救いで、間を取り持ってくれる国王夫妻や使用人たちが居なければ、もう目も当てられないだろう。


 唯一、彼が指導して魔法を教わる時間だけは二人きりだけれど、その時間はほとんど説教が飛んで来るだけなので会話らしい会話はない。


 この後で部屋で集合?

 それはいったい何の目的で?



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