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85.悪役令嬢は伝える



 本当はだいぶ前から起きていたのだけど。


 慌てふためくエリオットの片手を押さえたまま、口角が上がらないように堪える。どういうわけか突然始まったエリオット・アイデンによる一人芝居は実に見応えがあった。



「殿下って、面白いですね」

「……っ…どういう意味だ、」

「そのままの意味ですけど?」


 成績優秀、剣術の腕前も上々、魔力も申し分ない。アイデン家が生んだ恵まれた王子がこんなにも恋愛に関して初心者だったとは驚きだ。


 そういう私も彼を笑い飛ばす身分ではないのだけれど。とにかく、初心者同士がここで顔を突き合わせても意味がないので私は身体を起こして伸びをした。瞬間、ズキンと脇腹が痛む。あまりの激痛に呻いて動かなくなった私を心配して、エリオットは立ち上がった。


「宮廷医師が治癒魔法を施したが、まだ完全に塞がっていないんだ。あまり動かない方がいい」

「そうなのですね………」


 ここまでの大怪我と呼べる怪我をしたことがないので、その痛みを知らなかったけれど、暴れ回りたいぐらい痛い。


 患部に意識が向かないように、何か気が紛れるものはないかと周囲を見ていたら、折り紙で折られたチューリップの花のようなものが机の上に置かれているのを見つけた。三本の花がピンク色のリボンで束ねられている。


「ニケルトン侯爵家の双子が見舞いに来た。君に渡してくれと…」


 手に取って見てみると、それぞれの花の裏側には「ロムス」「レムルス」「アリシア」と書かれている。アリシアの名前が付いたそれは他の二つに比べて綺麗に折られていたので、おそらくマグリタが手伝ったのだろう。すでに懐かしさを感じる侯爵家での日々を思い返して、私は目を閉じた。


 エリオットにも伝えなければいけない。


 私はこの世界の人間でないこと。彼の求める、本物のアリシア・ネイブリーではないということ。アリシアにとって大切な存在である彼だからこそ、真実を明かす必要がある。



「……エリオット様、」

「どうした?」

「お伝えすることがあります」


 深刻な話だと受け止めたのか、エリオットは頷いて再び椅子に腰を下ろした。


「私は…マリソルでお会いした際に記憶と魔力を失くしているとお話しましたが、それは一時的なものではないのです」

「というと…?」

「こんな話を信じてもらえるか分かりませんが、私はこの世界の住人ではありません。貴方の見てきたアリシアではなくて、まったく他人なんです」


 エリオットはその灰色の瞳を開いて驚きを露わにする。

 私は以前ニコライに説明したように、自分が異世界から来た存在であること、本物のアリシアの身に起こったこと、そして彼女がそれを解決するために自分の魂を捧げたことを説明した。


 話を進めるにつれて、涙が止まらなくなった。


 こんな終わり方があって良いのだろうか。エリオットと結ばれるためだけに何度も苦渋の決断でやり直しを重ねた悪役令嬢。ようやく夢にまで見た相手からの好意を向けられたのに、彼女はもうその気持ちを受け取ることが出来ない。



「……ごめんなさい…っ、私、アリシアに会ったんです。眠っている間に会えたんです。彼女は本当に貴方のことを愛していました…心から、誰よりも、何よりも……!」


 ボロボロと透明な涙が落ちて行く。

 アリシアが見ていたら「エリオット様の前で無様な泣き顔を晒さないで」と強く叱られそうだ。でも、もうどう頑張ってもこの感情は治まりそうになかった。


「彼女は…アリシアはなんと言っていた?」

「え?」

「すべて教えてほしい。遅くなってしまったが、逃げずに向き合うから。彼女の言葉で伝えてくれないか」

「………っ、」


 私がたどたどしく話すアリシアの最期の伝言を、エリオットはただ目を閉じて静かに聞いていた。時折薄らとその目を開いて、窓の外に広がる庭園を眺める。


 彼はきっと今、頭の中で彼女との時間を振り返っているのだと思った。



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