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83.悪役令嬢とその王子1◆エリオット視点



「……こんにちは、アリシア・ネイブリーです」


 そう言ってドレスの裾を摘んでぎこちないカーテシーを披露すると、その伯爵家の娘は恥ずかしそうに母親の陰に隠れた。まだあどけなさの残る顔立ちに、はたして父は本当に自分にこんな子供を婚約者として当てがうつもりなのかと疑問に思ったことをよく覚えている。


 破天荒な父親を見て育ったからか、他の同年齢の男たちよりは落ち着いていた。母方の血筋ゆえに生まれつき魔力はあったので、魔法学校ではひたすらにその力を鍛えることだけに集中した。


 勉強は嫌いではなかった。学べば学ぶだけ結果は付いてくる。それはどんなゲームよりも取り組みがいがあると思ったし、身に付けた力が強さという数値で現れるならば有難いことこの上ない。


 しかし、ここに来て、婚約者の女とのお茶会というイベントが発生することになった。


 月に何度か訪れるその苦行をどう乗り越えるか、周りには漏らしていなかったものの、自分にとってはかなりの難題だった。なにぶん、相手は幼い。


 初めてのお茶会ではお互いの趣味を述べ合ったきり、気まず過ぎる沈黙が30分ほど続き、結果として世話役のネイブリー伯爵夫人が「天気が崩れて来ましたので」と早めの解散を提案することになった。


 燦々と晴れ渡る空を見上げて、思ったこと。

 それは、自分はこうした恋愛云々が苦手だということ。



「エリオット様は……わたしのことがお嫌いですか?」


 三回目のお茶会がお開きになる頃、アリシアは悲しそうにそう言って目を伏せた。自分よりも五つも年下の彼女にこのような気を遣わせてしまったことを恥じたし、泣き出しそうな顔を見るとどうしたら良いか分からなかった。


 しかし、そのまま何も返さないわけにはいかないので、しどろもどろに勘違いさせたことを詫びて、庭の散歩へ誘ってみた。するとパッと表情を明るくして「喜んで」と彼女は笑った。


 難しく考える必要はないのかもしれない、と思えた瞬間だった。


 それからは、なるべくアリシアの意見を尊重して、その小さな心の変化に耳を傾けてきた。好きなもの、苦手なこと、彼女の一挙手一投足をよく観察して、最適解を選んできたつもりだったのだ。


 あの時までは。




「どうして…?どうして、殿下がご自身で運ばれるのですか?使用人に頼めば良いではないですか!」


 アリシアがそう言って立ち上がった拍子に、大きな音を立てて彼女の皿からカトラリーが床へ落下した。その場に居合わせた他の者たちは困った顔で成り行きを見守っている。


 ことの発端は何だったのか。その日は友人として仲良くなったリナリーを呼んで三人で王宮で食事を取っていた。その頃には既にアリシアの精神的な不安定さは露呈していて、そうした面も含めてサポートしていく必要があることは理解していた。


 まだテーブルマナーを身に付けていないリナリーに「気を楽にして食べてほしい」と伝えて、そうした場に不慣れな彼女を落ち着かせるために、育った街のことを尋ねた。確かにリナリーに話を振る割合は多かったけれど、それがアリシアの怒りを買って、まさか彼女が魔法でリナリーの食べ物に悪戯をするとは思わなかった。もう十分に貴族令嬢の立ち居振る舞いを弁えたアリシアが、子供のような嫌がらせをする理由が理解できなかったのだ。


「リナリーに無礼を働いたのは君だ」

「しかし、殿下が直接運ぶ必要などありません…!」

「なんて心が狭いんだ。友人の介助も見過ごせないのか」


 強く言い過ぎた。

 そう自覚したのは、大きく見開いたアリシアの瞳にみるみる涙が溢れてきたから。掛ける言葉を見つけられないまま、彼女は椅子を引いて部屋を去った。


 どうすれば正解だったのか、その後何度も考えた。どういうわけか、年月が経てば経つほどに彼女は遠ざかって行くようで、分かった気になっていても次に会った時にはアリシアは他人のような態度を取ってきたりした。


 婚約者としての自分に成績が付くのならば、おそらくそれは落第に相応しい低いものだろう。



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