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68.悪役令嬢は訪問を受ける



 硬いベッドの上で横になって目を閉じていた。


 思い返すのはこの世界に来てから今までのこと。慎重に行動していたつもりが、どうやら私の考えはかなり浅はかだったようだ。物語を読破した人間として、勝手に彼らの心情を理解した気になっていた。


 美しい蝶のようなリナリー・ユーフォニア。

 物語の中でリナリーは、十代から連れ添ったエリオットとアリシアの関係を簡単に壊して王太子妃の座に納まった。私はずっと、それは当然のことだと思っていた。


 リナリーの登場によってエリオットは彼女に惹かれ、横暴で嫉妬深いアリシアよりも優しく穏やかなリナリーを選ぶのは当然だと。ましてや、品のない意地悪を繰り返して嫌われてしまうアリシアは自業自得なのだと。


 エスティ王妃を突き落としたリナリーの迷いのない動きは瞼に焼き付いている。本当に一瞬の出来事だった。細腕からは想像も付かない力で王妃の身体を無惨に大理石の床に叩き付けた。そして、激昂する国王を相手に何食わぬ顔で「治癒できる」と進み出るその精神力。


 とてもじゃないけど、信じられない。

 信じていた姿とは大きく掛け離れていた。




「アリシア・ネイブリー、中に入るぞ」


 荒々しいノックの音が響き、兵士がぞろぞろと入室して来る。驚いて顔を向けた先に私は意中の女が微笑んでいるのを見つけた。白いドレスは着替えられ、薄い水色のふんわりと広がるドレスにショールを羽織っている。


 リナリーは脇に立つ兵士に顔を向けた。


「少し二人で話をさせてくださいませんか?」

「しかし、中には罪人が…!」

「檻があるので大丈夫です。それに、何かあればすぐにお呼びしますから。貴方たちを信用しての行動ですよ」

「ああ…リナリー様、ありがたき御言葉です」


 どろっと角砂糖を崩したような笑顔で、リナリーは兵士の手を取る。それを受けて喜び勇んで再び退室する兵士の男たちを私は冷めた目で見送った。


 厚い雲に覆われて、月の光も届かない暗い夜の下。

 私は貧相な豆電球が照らし出す妹の顔を眺めた。


 波打つプラチナブロンドの髪、ほっそりとした首に流れるようなラインを描く肢体。同じ年齢だけれど、どうやら魔力に恵まれなかった分だけ、その身体はアリシアよりも女性的に見えた。先ほどの兵士たちのデレデレした反応を思い出す。



「こうして…お話できる時をずっと待っていました」


 花が咲くような笑顔に私は恐怖を覚えた。

 人を一人殺しかけたのに、その罪を実の姉に擦り付けたのに、まだ彼女はこんな顔で笑うことが出来るなんて。


「お姉様もきっと、たくさん話したいことがあるでしょう?ゆっくり時間が取れるまで随分と遠回りしたわ」

「………リナリー、貴女はいったい何なの?」

「どういう意味ですか?」

「惚けないで!サラが死んで、王妃は事故に遭い、私はこんな場所に閉じ込められた。貴方はいったい何がしたいの!?」

「言葉に気を付けてくださいね。私は主役なのよ」

「……え?」


 ドレスを広げてリナリーはドサっと床に座り込んだ。


「脚が疲れたわ。お姉様も座って」


 そのまま青い瞳をこちらに向ける。思考が支配されるような気持ち悪さを感じた後で、どういうわけか私の身体は力が抜けたように床に崩れ落ちた。


「な…なに?これは……」

「魔法じゃないの。私は魔力なしだから」

「じゃあ一体なにを、」

「質問ばかりはダメよ。今度のアリシアはやけに行動派だと思ったけど、やっぱり最後は間抜けだったわね」

「………!」


 私はハッとしてリナリーを見る。

 胡座をかいた膝の上に肘を突き、リナリーは綺麗に笑った。


「そういう驚いた顔大好き。ここまで辿り着いたご褒美として、貴女に少しだけ種明かしをしてあげるわ」



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