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64.悪役令嬢は王妃に接触する


 どれだけ話を重ねたのか分からないけれど、嬉しさを全開にして抱き付いてくれるリナリーの背中越しにノックの音がして、長身の金髪の女性が姿を現した。


「エスティ様!」


 リナリーは飼い主の登場に喜ぶ犬のごとく明るい声を出す。私はというと、初めて目にする王妃の佇まいに気圧されていた。


 冷たい氷のような眼差しはエリオットにそっくりだ。この国の女性にしては珍しいショートカットに、控えめなティアラを載せている。装飾品もドレスも白で統一されてシンプルなものが選ばれていたが、どれも彼女の品の良さを示していた。


「リナリー、アリシアと共に居たのですね」

「はい。エリオット様はどちらに?」

「エリオットは国王の元へ向かいました。何か急ぎで伝えたい話があったようですが…」


 エスティはそう言いながら、チラリと私の方を見る。

 その様子からして、彼女はおそらくエリオットから私との結婚の意思を聞いたのではないかと思った。まだ私の心持ちも確認していないのに、やけに行動が速い。


 無口で無愛想、恋愛に関しては疎いという言葉では済まされないエリオット・アイデンがどのタイミングで私を良いと思ったのかは理解できない。ペコロスに対して優しく出来たのは、単純に相手が愛玩用のかわいいペットだと思っていたからだとは言い出しにくい。


「貴女達は……随分と仲良くなったのですね」


 未だに私に抱きついたままのリナリーを見て、エスティは不思議そうに首を傾げた。首元に掛けたパールのネックレスがその動きに合わせて揺れる。


 エスティが訝しむのも無理はない。

 これまでアリシアはリナリーのことを目の上のたんこぶとして嫌っていた筈だし、そのあからさまな不機嫌は周囲にもきっとモロバレだったはずだ。


 私が説明をしようと言葉を発する前に、リナリーが嬉しそうに王妃に向かって話し出した。


「分かりますか?実は私たち、信じられないことに双子だったのです。それを今、ようやくお伝えしたところで」

「……貴女とアリシアが双子?」


 私は驚いてリナリーを見つめる。エリオットといい、リナリーといい、私の意思を全無視して話を進めるのは止めてほしい。聞き手にも心の準備というものが必要なのだから。


「はい。二卵性なので似てはないのですが…生き別れた姉と再会できて私は嬉しくって……!」

「それは良かったわね。アリシアはエリオットと共にこの国を統べる立場になるし、貴女が聖女の力でそのサポートに回ってくれるなら助かります」

「もちろんです、エスティ様!」


 張り切った顔で大きく頷くリナリーは、私が読んだ小説とは掛け離れた印象だった。彼女はこんなに自ら積極的に喋るタイプだっただろうか。


「アリシア、再従兄妹(はとこ)のグレイが到着したの。貴女のことを知っているようだったから、よければご挨拶を」

「ニケルトン侯爵様ですか?」

「ええ。一階に居るわ」


 そう言ってエスティはくるりと向きを変えて歩き出した。


 どうやらこれから挨拶に行くことになるらしい。私は中途半端に腰掛けていたベッドから降りて、リナリーと並んで部屋を出た。先を歩く王妃のことは気にしていない様子で、リナリーは尚も嬉しそうに小声で話しかけてくる。


「ねぇ、お姉様、今までどこに行ってらしたのですか?先ほど身を隠していたと言ってたでしょう?」

「あ……そうですね、ええっと…少し南の方に」

「一緒に居た男性はお友達ですか?素敵な方ですね」

「ああ、ニコライのこと?彼は友人なんです」


 答えながら私は注意深く階段に足を踏み出した。余程つもる話があったのか、ウキウキと話を続けるリナリーには申し訳ないけれど、どこまで話して良いか考えながら言葉を選ぶのは気疲れがすごい。


 先を行く王妃の方をチラリと見てからリナリーに目を向けると、その手元に輝く指輪に気付いた。細い指には似付かわしくない、大きなドーム型の飾りが付いた指輪。スノードームのように、中では青い粉が舞っている。私はその目が覚めるような青に見覚えがあった。


「リナリー様……それは、」

「気が付きましたか?これは魔法の指輪なんです」

「魔法の?」

「私たちの生まれ故郷であるサバスキアに伝わる青い蝶の羽。サラが持つには勿体無いですよね」

「え?」


 リナリーは口元に手をやってクスクスと笑う。その表情すら美しくて、私は息を呑んだ。白い指の上で指輪を回しながら、リナリーは小さな唇の端を歪めた。


「強大な力も、貴女が使えば魔女と呼ばれ、私が使えば聖女と呼ばれる。あまりに残酷だと思いませんか?」


 私が答える前に、その細い両腕はスッと前へ伸びた。一瞬の出来事。大きな音の後すぐに人々の叫び声がして、見下ろした階段の下には赤い血溜りの中で横たわるエスティ・アイデンの姿があった。



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