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57.悪役令嬢は青い蝶を見る



「アリシア、君に掛けられた黒魔法…そして憑いていた悪魔は君が推測するように、おそらく解除されている」


 一通りの話を黙って聞いた後、クロノスはそう言った。その足元では魔獣のピーパラが舌を出したままで眠りこけている。


「出会った時の君から悪魔の気配は感じなかった。しかし不思議だ……悪魔が憑いたら普通は一気に取り憑いた身体を乗っ取るんだ。今までのアリシアからそこまでの異変は感じなかったんだが…」

「今までのアリシア?」

「あ、いやいや、今まで会っていたアリシアという意味だ」


 訝しむように眉を寄せるニコライに、クロノスは慌てたように手を振った。さすがに時戻りに関してまで彼に説明する必要はないと判断したようだ。確かに、アリシアが死んだら時間が戻るなんて混乱を招く設定を、第三者に話すことは適切ではないと思える。


 ピーパラは深い眠りに沈んでいるのか、時折舌舐めずりをしながら穏やかな顔で眠っていた。昨日の今頃まではまだ腕の中にあった小さな魔獣のことを思い、私は少し寂しく思う。


「……それで、サバスキアの青い蝶については何か分かりましたか?」

「ああ、そのことだが…ちょうど実物がある。持ってくるから待っていてくれ」


 そう言って奥の部屋に下がったクロノスは、すぐに古びた額縁を手に戻って来た。覗き込むと四角い木枠の中には、手のひらを広げたほどのサイズ感の大きな青い蝶が収められている。


 羽の色や姿形からして、サバスキアで見た蝶と同種の蝶のようだったが、大きさがかなり大きい。


「今はもう絶滅したと言われているが、その昔サバスキアで見られた蝶だ。女神の使いとも言われ、羽を砕いた粉末は高額で取引された」

「どうしてそんな価値が…?」

「巷では願いが叶うなんて言われていたらしいが、確かな知識がある者は本当の使い方を知っている」

「本当の使い方?」

「力を与えるんだ、欲する者に」


 私はポケットからサラにもらったネックレスを取り出した。クロノスに見せようと思って持って来たものだ。テーブルの上に置くと、瓶の中の粉がふわりと舞った。


「ほう、よく出来ている」

「え?」

「これは偽物だな。(いにしえ)の蝶の粉であれば年月と共に色が薄れてこのような濃紺を保てるはずがない」

「そんな…これを見た人はそんなこと誰も……」

「なにぶん貴重な逸品なんだ。これを君に渡した者も果たして偽物だと認識していたのかどうか…」


 追跡できるようにわずかな魔力が込めて、サラは私にこのネックレスを渡した。どうして彼女は別れの時にわざわざこんなものを持たせたのだろう。追跡が目的ならば、こんなものじゃなくてペンとか指輪とかもっと自然なものもあっただろうに。


 私は首を傾げながらネックレスを再びポケットに仕舞い込む。結局知りたいことは分からず終いだ。


「ニケルトン公爵は来週の王妃殿下の生誕祭にいらっしゃいますか?」

「そうだな。エスティの体調も気掛かりなので顔は出す予定でいる」

「最近調子が悪いとエリオット様も仰っていました」

「あれは幼い頃から病気がちだったんだ。強力な聖女の力でもあれば治癒も期待出来るかもしれないが…」


 そう言いながら私の様子を気にする素振りを見せるクロノスは、リナリーが聖女の力を手に入れることも知っているのだろうか。アリシアが死んだら巻き戻る世界ということは、リナリーが結婚するまでのあらすじは彼も知識として得ているはず。


 王妃の健康を考えれば、リナリーには聖女になってほしい。しかしリナリーが聖女になれば、それはエリオットとのハッピーエンドに向けて物語が進むことを意味する。そうしたジレンマを気にしてクロノスは私の顔色を窺ったのだろう。


(だからって…どうしようもないのよ)


 クロノスは私に対してアリシアを救うように言ったけれど、ヒロインを虐げた悪役令嬢とヒーローが結ばれる結末なんてどう足掻いても困難の極み。実現する可能性は限りなくゼロに近い。


 期待に満ちた眼差しを目に入れないように私は両手で顔を包む。大円団が良い、なんてニコライに宣言しておきながら、あぶれた悪役令嬢の救済ルートは未だに見出せない。



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