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48.悪役令嬢は王都に戻る


 久しぶりの王都は、やはりマリソルやサバスキアに比べると人が多くごった返していた。


 これから旅行に出掛けるような親子連れ、駅で別れを惜しむ恋人たち、仕事で訪れたのかきっちりした服装に大きなスーツケースを引く男たちの姿もある。



「いつ来ても慣れないな。やっぱり人はダナに集まるんだね」

「ダナって?」

「ああ、今はただ王都って呼ぶんだっけ?少し前までは王都もマリソルやサバスキアみたいに名前があって、ダナって呼ばれてただろう?」


 君の方が詳しいはずなのに、と揶揄うように笑うニコライに合わせて適当に頷く。彼の話によると数年前に現国王が複雑化する地名を整理する目的で、いくつかの土地に対して改名を命じたらしい。


「ダナは昔このあたりを治めていた神様の名前なんだ。アビゲイルでは今でもダナの血と銘打って葡萄酒の生産に力を入れているだろう?」

「ダナの血?」

「気休めだけど、ダナの血は邪悪なものを退けると言われている。教会でも儀式で使われたりするぐらいだ」

「貴方って私よりもはるかに優秀よ。さすが先生ね」

「そうかな?そういう君が知らなさすぎるんだよ」

「それもそうね……」


 それはごもっともな意見だ。

 これ以上私の無知っぷりをひけらかすのは恥ずべきことなので、とりあえず家の方角へ向かってみることにした。夕食の時間を少し過ぎているため、皆家には居るはず。


 サラはまだネイブリー伯爵家に居るのだろうか。彼女を疑う人間など居るはずもないので、今まで通りに過ごしているのだろう。両親に手を出すようなことはないと思いたい。不安になる心を紛らわせるようにペコロスの身体を撫でる。


(大丈夫…きっと、大丈夫……)


 私はリナリーの邪魔をするつもりはないし、むしろ読者的には彼女の恋は応援したい。アリシアには申し訳ないけれど、この状況ではどう足掻いてもアリシアに軍配が上がることはないのだ。


 それならば、せめて、リナリーが抱くアリシアへの不満を解消させて彼女のハッピーエンドを確約した上で、私は私の幸せを探すべきだろう。郊外で牧場を経営するとか、マリソルでニコライと教師をするのも良い。


 これで良い、大丈夫。

 言い聞かせるようにペコロスを抱き締める。



 電車を乗り換えて、車を拾って一時間足らず。

 ネイブリー伯爵家は私が出て来たときと変わらずの姿で、そこに建っていた。すっかり更けた夜空の下で、煌々と灯された部屋の明かりが一際目立つ。


 アリシアの両親であるドイルとモーガンは今頃何をしているだろう。きっとドイルは週末のゴルフに向けて道具を磨いているだろうし、モーガンは得意の刺繍に没頭していることだろう。二人の元気な顔を思い浮かべた。


「呼び鈴を押すわ。一緒に来て」


 頷くニコライを見て、私は前進する。自分の家なのに呼び鈴を押すのは初めてなので、なんだか不思議な感覚だった。5分も経たないうちにメイドの一人がバタバタと走って来る。そんなに急がなくても良いのに、と声を掛けるよりも先に、青い顔をした女は口を開いた。



「お嬢様!どうして今お戻りになったのですか!?」

「え、どうしてって……?」


 周囲を見渡して怯えるような視線をニコライに向けつつ、メイドは小声で何かを囁いた。私が聞き取れずに首を傾げると、痺れを切らしたように女は叫んだ。


「サラがお嬢様のお部屋で亡くなりました!足元には遺書があり、そして運悪く…訪問されていたお嬢様のご友人がその事実を知ってしまったのです!」

「何ですって!友人って…!?」

「リナリー・ユーフォニア様です」


 私は、見える筈のない青い蝶が、嘲るように目の前を飛んで行った気がした。


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