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悪役令嬢に転生しましたが、聞いてた話と違います  作者: おのまとぺ
第四章 蝶の舞う街サバスキア
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41.悪役令嬢は爪痕をなぞる



 西部の街、サバスキア。

 まさか自分がその地を踏むことになるとは。


 感慨深い思いで扉をノックすると「どうぞ」という返事が返ってくる。雨に濡れた関係で一旦各々の部屋に戻ったので、私は着替えを終えてニコライを呼びに来たのだ。


 勢いよく扉を開けると、まだ途中だったのかニコライはシャツを半分脱いだところだった。私は慌てて謝罪しながら、出て行くべきかと彼に確認する。



「いいよ、そのままで。ちょうど良いから見て」

「え?」

「これが悪魔を下ろした証拠だ」


 そう言って向けられた背中には目を覆いたくなるほどの火傷痕があった。背中の一面から腕は肘の下あたりまで、赤黒く変色したその痕は彼の健康的な褐色の肌の上で余計に惨たらしく見える。


「治癒魔法で…治せないの?」

「どうだろうね。でも、このままで良いんだ」

「どうして?」

「忘れないためにだよ。自分の愚行で人を呪った代償だから、簡単に消すわけにはいかない」

「………貴方は、」


 貴方は悪くない。

 そう伝えたかった。しかし、私はアリシアとして、簡単に同情だけでそのような言葉を掛けるわけにはいかない。


 アリシア・ネイブリーは呪われたせいで、彼女の夢を永遠に失ってしまった。172回も回帰しても見つけられなかった術者のことを唯一知る男には、しっかりとその責務を果たしてもらう必要がある。


 今更エリオットと結ばれることはもう壊滅的に無理そうだけど、過去の呪いの原因を紐解いて、今後の人生への不安を消すことは出来るだろうから。


(生き延びたい…なんとかして)


 ニコライに断った上で、目の前に広がる火傷痕に触れる。ボコボコと凹凸のある皮膚は、年数こそ経っているものの、当時の彼がどんなに苦しんだかを示していた。


 まだ子供だった彼を騙してここまでの怪我を負わせた術師はいったい誰なのか。善良な仮面を被って近付き、利用するだけ利用するなんて許せない。何故、術師はたった十二歳の子供だったアリシアを呪ったのだろう。


 たしかに謙虚で気弱な性格だったわけではないけれど、アリシアが本格的に意地悪になったのはヒロインであるリナリーが登場してからだったはず。人一倍プライドが高く、誰よりもエリオットへの愛が強かった彼女が、嫉妬に狂うのは至極自然なこと。


 クロノスに聞いた魂の半減説やらニコライが語った悪魔憑依説など、色々な情報が出ているけれど、結局アリシアは実際問題どういう状況下にあったのか。彼女と直接話が出来たら良いのに、と叶いもしない願いが浮かんだので頭を振って打ち消した。



「アリシア、サバスキアに降りる前に君はまた変装をするの?」

「変装?」

「マリソルに居たときは眼鏡をずっと掛けていたから。サバスキアでも姿を隠すためにそうするのかと思って」

「いえ、あれは……」


 すべてはエリオットから逃げるためだった。

 しかし、それももう無駄なのだ。


 返答に迷う私に向かって、ニコライは親切な笑顔を浮かべたまま言葉を続ける。


「もし必要なら、手伝うよ。髪色だけ変えれば良い。僕はそこまで魔力が強い方じゃないけど、それぐらいは出来る」

「え、そんなことが可能なの?」

「今時じゃ子供でもやってるだろう?」

「……そうなのね」


 ニコライに頼んで、彼と同じ黒髪にしてもらおうと思ったが、どういうわけか上手くいかなかったようで真っ赤な赤毛に変わってしまった。「ごめんごめん」と焦ったように謝罪を繰り返すニコライを睨んで、鏡を覗き込む。


 元のピンク髪は儚げな印象だったけれど、燃えるような赤い髪はかえって悪女感が増した気がする。


「これ…いつ戻るの?」

「長くは続かないと思うけど、」


 聖職者である彼が魔法の才能はイマイチという事実を身をもって知ったので、今後は用心しなければ。対象的な姿として、意図せずマリソルで見たエリオットの精神魔法を思い出す。


 エリオットがリナリーに魅了されてるなんて考えたけど、あれほどスマートに魔法を使いこなす彼が、ろくに魔法学校にも通っていないリナリーから魅了されるなんて益々有り得ない話だ。もっと現実的に考えないと。


 その時、頭上でポーンという電子音と共にサバスキアへの到着を知らせるアナウンスが流れたので、私たちは揃って船を降りる準備を始めた。



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