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39.悪役令嬢は言葉に詰まる


 返す言葉を失った。

 あまりにも、予想外で。


 懺悔室の中は薄暗くて少しカビ臭い。こんな場所に私を呼び寄せてまでニコライが話したかった理由が、ようやく理解できた。明かした名前に付随する話にしては、随分と重たい話だと思う。


 お陰で私は今、とても混乱している。



「………貴方が私を呪った…?」

「とても強力な魔力を持った子供がいると女は悪魔に伝えていたよ。それが君だったなんて……」

「どういうこと?」

「船の上で出会った時の君からは強い魔力を感じなかった。君はあの悪魔にすべてを奪われたのか?」

「ちょっと待って…整理が、」

「悪魔が女とどういった契約を結んだのかは知らない。与えられた魔力がどれだけなのかも僕は分からないけど…」

「ニコライ、待ってってば!」


 叫ぶように制止すると声は聞こえなくなった。


 私は情報の処理に行き詰まっていた。ただでさえ正規ルートを外れて右も左も分からない破天荒ルートを突き進んでいるのだ。ここで新たにニコライの過去が明かされても、先ずは私は情報を頭の中で並べる必要がある。


 十二歳という若さでエリオットの婚約者に選ばれたアリシア・ネイブリー。五歳年上のエリオットの成人を見据えての選定だと思うが、同年代の令嬢は不作だったのだろうか。それとも後に登場するヒロインと同い年の婚約者を当て馬にすることで比較しやすいようにした?


 いや、今はそんなどうでも良いことを気にしている場合ではない。クロノスから聞かされた十二歳でアリシアを呪った人物の核心に迫る情報を受け取ったのだから。契約の間、一時的に悪魔を降ろす器として使われたのがニコライ。つまり、彼は術師である女の顔を知っているということ。


 その女に接触すれば、掛けた呪いを解くことが出来るのではないか。そして失われたアリシアの魔力と彼女の魂が戻ってくるかもしれない。


 そうすれば、私はーーーーー



(……私は…どうなるんだろう?)


 元の世界に帰れるの?それとも地縛霊みたいな感じになって現世に戻ったら墓の上をフラつくとか?


「アリシア……?」


 黙り込む私を心配するように、ニコライの声が耳に飛び込んだ。ハッとして顔を上げながら、そういえば表情までは見えないのだと少し安心する。まったくもって大丈夫ではないから、どうしたら良いか分からない。強くて気丈な悪役令嬢の中身は、ただのくたびれた転生者OLなのだ。


「君にどれだけ謝っても許されることではない。僕の迂闊な選択で君を呪うことになってしまった…」

「………、」

「毎日礼拝堂で自分の行いを懺悔していた。そんなの何の意味もない、独りよがりでしかないけれど」

「ねえ、ニコライ……その女の顔は見たの?」

「え?」

「術師の顔よ。どんな人が私を呪ったのか、知りたいと思うのは当然のことでしょう?」

「ああ…普通の、本当に普通の女だったよ。髪は茶色で…そうだ、一緒に女の子を連れていた」

「………女の子?」

「帽子を被っていたからよく見えなかったんだけど…こんなんじゃあ、情報が足りないよね…」

「そうね、」


 ごめん、と溢すと再びニコライは口を閉ざす。

 彼が何か思い出そうとしてくれているのか、はたまた気の毒になって黙り込んでいるのか分からなかった。


 名探偵を気取るには、出揃った情報はあまりに頼りない。私に某サッカー少年や、口煩いバディを引き連れた英国紳士が憑依したとしても、ここから真実に辿り着くのは時間が掛かるだろう。


「あ、そういえば」

「?」

「君が着けているネックレスは人に貰ったんだっけ?」

「ええ。大切な人からの贈り物よ」

「こんなこと言うの、気を悪くしないでほしいんだけれど……僕が会った女も似たようなものを着けていたんだ」

「え?」

「いや、見たものは別物だとは思うんだけど…変なこと言ってごめん」


 心臓の鼓動が脳を揺らすようだった。

 これは、サラにもらった御守り。ニケルトン侯爵家で出会った乳母によると、中身は西部のサバスキア地方に生息する蝶の羽だとか言っていたっけ。


 とても貴重なものだと言っていた。

 そんなものを偶然、その女は持っていたと?


 思い浮かぶのは最後に見たサラの姿。人の良さそうな丸い瞳、半月の形に弧を描いた唇。そして、夜風に靡くダークブラウンの髪。



「あの、ニコライ…?」

「どうしたの?」

「貴方の自責の念を利用するようなことをして悪いけど、お願いを一つ聞いてくれない?」

「なんでも聞くよ。僕に出来ることならば」

「貴方に…会ってほしい人がいるの」


 エリオットの母親である王妃の生誕祭までの滞在場所は決まった。私は一度、自分の家に帰る必要がある。




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