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03.悪役令嬢は逃亡する



「なんですって…!家を出るってどういうことなの、アリシア!?」

「お前…幽閉のことならもう一度私の方から国王殿下に直接掛け合って…!」


 慌てふためく両親の前で、私はシャクシャクと林檎を齧る。恰幅がよく口の上にチョビ髭を乗せているのがアリシアの父であるドイル・ネイブリー。そして、その隣で両手を組み合わせて「どうか聞き間違いであって!」とでも言いたげな表情を浮かべるのは、母であるモーガン・ネイブリーだろう。


 モーガンが心配するのも無理はない。今まで家でぬくぬくと育てられた私が突然家を出て一人で暮らすと言い出したのだから。


 でも、分かってほしい。ドイルが直接掛け合ったところで、この件に関しては国王ではなく王太子であるエリオットの管轄にある。加えて、国王は自分の息子にノーを突き付けない激甘な親バカ。ネイブリー伯爵家の運命はもう既に決まっている。


「お父様、お母様、どうかご心配なく。私に協力してくださると言う方もいらっしゃいますし、ご存知の通り、私には強い魔力がありますから」


 もちろん大嘘だ。

 付いてくると言ったサラの申し出は断ったし、魔力は消え失せて私はただの一般人。それでも、このまま屋敷に居ても状況は改善しないならば、逃げ出すしかない。


 悪役令嬢の親にしては温厚なこの両親を巻き込むのも気が引ける。作中でもエリオットの怒りはネイブリー家の家族までは及んでいなかったはずだし、私が姿をくらませばきっと彼とてそれ以上は求めないだろう。


 逃げ失せた私のことを探し出して、火炙りにすることもないはず。何せ、彼は想い人であるリナリーと自分の恋路を邪魔する女を退場させたいだけなのだから。原作でも塔に放り込んだまま、忘れたように何ヶ月も放置していたから問題ない。



「お願いします……どうか、私のために了承してください。また生きて、二人に会いに来ますから…」


 情に訴えかけるように頭を下げると、両親も渋々納得したようだった。危ないことに手を出さない、危険な人物に付いて行かない、と何度も小さい子供に注意するように伝えてくるので、私は首振り人形のように頷いた。


 戻ってくることなど出来るのだろうか。

 仮に出来たとしても、その時に私の居場所はあるのか。


 邪魔者を排除したエリオットはきっと、すぐにリナリーを正式な婚約者とするはず。国民は皆、嫌われ者のアリシア・ネイブリーが王太子の婚約者という権力の座から転がり落ちたことを知る。私のことを歓迎するどころか、後ろ指を刺して石を投げ付けるのは想像に容易い。


「……きっと、また元気な顔を見せてね」

「ええ、もちろんです。お母様……」


 両親を騙すことは心が痛んだ。

 けれども、自らバッドエンドを踏むほど私は馬鹿ではないし、アリシアの自我と共に王太子エリオットへの恋心が喪失したお陰か、かなり気持ちは楽だった。未練なんてものは魔力と同じくまったくない。


 皆に祝福されるであろうヒロインとヒーローの恋愛をどうこうするつもりは微塵もないので、私は私でただ安息の地を見つけて、小さな平和を取り戻すだけ。


 部屋に戻って鍵を閉める。


 訪れようとする夜の気配を窓越しに感じながら、私は独り立ちの準備を始めた。



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