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29.悪役令嬢は月の下を歩く


 一通りの話が終わった頃、外はもう夕暮れ時に差し掛かっていた。


 私はお茶とケーキの礼を伝える。ルイジアナが焼いたというベイクドチーズケーキは濃厚な味でサッパリとした紅茶とよく合った。しかし、夕食を一緒にどうか、という誘いは帰りの時間のこともあって断ることにした。



「暫くはマリソルに滞在するつもりなので、また遊びに来ても良いでしょうか?」

「はい。もちろんでございます」

「ルイジアナさん……いきなり訪ねてきて、記憶喪失なんて勝手な話なのに、こうして迎え入れてくれてありがとうございます」

「何を仰いますか!私はお嬢様が本当に困っている時に何の支えになることも出来ませんでした。ただ、逃げるように屋敷を去ってこうして離れた場所に居たのです」

「そんなことは、」

「いいえ、本当です。今からでも、私がお嬢様の助けに少しでもなれるのであれば…協力させてください」


 そう言って私の両手を包み込むルイジアナに、私は笑顔を向けた。彼女の自責の念が不要であると伝われば良いのに。アリシアもきっと、ルイジアナに自分を責めることは求めていないはず。


 彼女の身に何が起こっていたのか、それはまだ完全に明らかになってはいないけれど、明確に呪いのせいだと分かる。誰かが確かな悪意を持ってアリシアに黒魔法を掛けている。どういう理由があるにせよ、責めるべきはその魔法を掛けた人物だろう。


「ルイジアナさん、私から一つお願いがあります」

「なんでしょうか?」

「私は今、事情があって身を隠しています。もしも、この家にエリオット様やアイデン家の関係者の者が訪れて来ても…」

「分かっています。お嬢様が変装なさって家に来たことから、何か理由があることは察しておりました。私の口からはお伝えすることは控えます」

「……ありがとう。助かります、とても」


 深く頭を下げた。最後にルイジアナは私の腕の中のペコロスの頭を優しく撫でて「いつでも会いに来てください」と送り出してくれた。


 湖には少し早く浮かんだ月がその姿を映している。暗くなる前に帰らなければいけない。ただでさえ、今日到着したばかりの知らない街なのだ。いくらこの世界が平和であるとしても、物語が枝分かれして知らないルートに突入している今は用心する必要がある。




 駆け足で帰ったおかげか、なんとか夜の帳が下りる前に宿舎に着くことが出来た。入り口で心配そうな顔をして待っていたニコライが、私の姿を見て駆け寄ってくる。


「アリア!遅かったから、何かあったのかと…!」

「ごめんなさい。話し込んでしまって」

「夕食はまだ?」

「ええ。でも少し休憩しようかしら、」

「分かった。じゃあ、後で君を呼びに行くから一緒に食べよう。簡単なもので良ければ提供するよ」

「助かるわ、何から何までありがとう」


 私に手を振ると、ニコライは礼拝堂の方へ向かって歩いて行った。聖職者だから何か仕事でもあるのだろうか。


 あまり熱心に宗教に入れ込むタイプではなかったから、こうした施設で働く人がどんな一日を送っているのかは知らない。そして、その信仰心もよく分からないけれど、信じる指標のようなものがあるのは人生を送る上では良いのかもしれない。


 私の今世における指標は、アリシアの幸せだ。彼女が成し得なかった幸せを私は与えてあげたい。見れなかった景色を見せてあげたい。


 ただ、その思いに突き動かされるように生きるだけ。


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