表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

りんご

作者: ふしきの

 ぼくの手に

 林檎が

 買えたよ。

 ぼくの一生懸命ためたお小遣いで、

 初めてぼくのお金で

 果物を買えたよ。


 おねいちゃんが握りつぶした。


 テレビでおんなじことをしている。


 おねいちゃんが「囓った」笑いながら「歯茎から」と真似をした。


 テレビで同じことを毎日している。



『静止画の置物に使うから動かすな』

 と、怒鳴られた。

 ぼくの買った林檎は果物たちの中で汗をかいている。


 匂って腐って朽ちていく果物の中で、林檎は、ぼくらの目に見えていない場所だけがドロドロニトケテイタヨ。それでも「動かすな」と怒られた。


 だってテレビドラマでもずっと朽ちる様子を映していたから。


 観て描いた絵っていうけど、おねいちゃんにも上手に描けたとはいえないと思ったら

「なんじゃい、こんなもんか」

 と、握りつぶされたよ。

 朽ちたりんごのを包むちりとりになったよ。


 思うほど固くないと怒られたよ。

 それはおねいちゃんの握力が強くなっていってるから。

 昨日よりも怒りっぽくて、

 昨日よりも大きくなっているから。


 ああ、こんなことなら、買ったことを報告すべきじゃなかったの。

 こんなことなら大事にしなきゃ良かったの。

 黙ってそのままひとりで納屋で食べれば良かったの?


 林檎がひとつ朽ちていく

 林檎がひとつ捨てられた

 一生懸命ぼくが貯めたおこづかいで買ったことを見つかった

 お小遣い帳と林檎のレシートの提出。



 みっともないと言われても、

 ぼくは林檎の種を植えた。


 ぼくは林檎の種を植えた。


 バカみたいにどこにでも生える林檎の木は育っては枯れ、育っては庭木の邪魔物にされた。



 あのとき林檎を食べておけばよかった。

 だって、どれがぼくの食べたかった林檎か今もわからないんだ。

 女の子がつくる、女の子のお母さんが作ってくれるウサギもペンギンも、ぼくにはもう狭すぎた視野で見えなかった年頃も過ぎた。

 ぼくは

 ぼくは

 林檎を食べることができない。





 ぼくは木の樹皮を煎じてしか摂取できない体になってしまったから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ