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【完結】【書籍化決定】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜  作者: 鈴木 桜
第3部 勤労令嬢、世界を救う-第1章 勤労令嬢と婚約破棄

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第11話 ある后の手記


==========


ソロモン暦2372年 増水期(アヘト) 第1月(ジェフティ) 21日


 筆不精の父から手紙が届いた。珍しい。内容も不可思議だった。


「宮殿の図書館で『死者の国』についてよく調べて、資料をまとめるように」


 とは……。

 父の意図はさっぱり分からないが、とりあえず言われた通りにする。


==========


増水期(アヘト) 第2月(パ=エン=イペト) 9日


 この大陸には、最初に二人のヒトが産み落とされた。

 その二人から生まれてきた子どもたちは、大地の精霊と強く結びつき、その性質を引き継いでいった。そして、子どもたちの内の何人かは、新天地を求めて海を渡って東へ旅立っていった。


 最初の二人の寿命が近づいてきたので、子どもたちは両親の魂の棲家を準備した。彼らが安らかに休めるようにと、海の底に国を築いたのだ。


 それが、『死者の国』。



 ……こんなものは、子どもでも知っている神話の一節だ。

 これをわざわざ調べてまとめろだなんて、父はどういうつもりなのだろうか?


 父の意図を知るためには、もう少し詳しく調べる必要がありそうだ。


==========


増水期(アヘト) 第2月(パ=エン=イペト) 14日


 『死者の国』について調べ始めて、いくつか分かったことがある。

 あれは、神話などではない。

 同じ神話に登場する『黒い魔法石(リトゥリートゥス)』が実在したのだ。『死者の国』も実在すると考えるのが自然だろう。


 文献によれば、こうだ。


 魔族も人族も、死ぬと魂と肉体とに分裂する。さらに魂は『理性』『意思』、そして『欲望』に分かれて、それぞれの場所へと旅立っていく。


 『死者の国』とは、この『欲望』を溜め込んでフタをするための場所なのだという。


 『理性』はこの大地に残って『黒い魔法石(リトゥリートゥス)』に姿を変え、『意思』は真理と円環を司る場所へ溶けていく。


 ……まさか、『死者の国』の件は『黒い魔法石(リトゥリートゥス)』の事件と関わりがあるのだろうか?


==========


増水期(アヘト) 第3月(ハトホル) 29日


 人族の国から、客人が来ることが決まったらしい。

 あの魔法騎士、マクリーンの娘なのだとか。忌々しいことだ。あの男さえいなければ、今も戦争が続いていたはずなのに。そうすれば、私だって戦場で炎とともに生きることができた。かつての父と同じように。


 ……いや、馬鹿な考えは捨てよう。

 今の暮らしに不満があるわけじゃない。皇帝陛下に愛されて、こうして心安らかに生きている。


 皇帝陛下が目指した理想そのものだ。


 陛下の后の一人として、その理想を守るお手伝いをするのだ。


 客人はウィステリア()宮にお迎えしなければならないが、なにせ古い宮だ。急いで手入れをしなければ。明日には、他の后と相談して修繕の計画を立てよう。

 調度品も新しいものを入れなければならないし、人族の口にできる食べ物を準備する必要もある。……忙しくなりそうだ。


==========


増水期(アヘト) 第4月(カ=ヘル=カ) 10日


 久しぶりに『死者の国』について調べることができた。


 今日読んだ文献には、こうあった。


「『死者の国』でフタをされた欲望は減ることも萎むこともなく、永遠に存在し続ける。いつか、フタが壊れて溢れる時が来るだろう。その日、魔族も人族も、多くの『代償』を支払うことになる」


 この『代償』とは、なんだろうか?


 何か、恐ろしいことが起こるような気がする。

 このことは、そろそろ皇帝陛下に報告しなければならない。しかし、いつまで経っても父の意図が分からない。


 さて、どうしたものか。


==========


播種期(ペレト) 第1月(タ=アアベト) 2日


 父が皇帝陛下を裏切った。


 理由は分からない。けれど、『死者の国』について調べろと言ったことと、関係があるはずだ。

 そして、ついさっき、妙な書状を受け取った。


「父親の裏切りの真相を教えてやろう。今夜0時ちょうど、北の城門で」


 馬鹿馬鹿しくて笑いが止まらないな。

 父が皇帝陛下を裏切ることなど、あるはずがない。父は誰かにはめられたのだろう。そして、その誰かが今度は私を呼び出して何かをしようとしている。私を殺すつもりか……? いや、私は皇帝陛下の后の一人だ。殺すよりも利用することを考えるだろう。


 ……いいだろう。その誘いに、乗ってやる。


 貴様の策など、この誇り高き炎の巨人(ムスペル)族のオルギットが見破ってくれようぞ!


 もしもの時に備えて、この日記も燃やさなければ。

 『死者の国』についての資料は、既にウィステリア()宮の客人の寝室に隠してある。きっと、彼女にこそ必要な情報なのだと思う。


 ……ジリアン・マクリーン。

 早くあなたに会いたい。私たちはきっと、良い友人になれるだろう。






 第1章 完 To be continued...


第3部 勤労令嬢、世界を救う - 第1章 勤労令嬢と婚約破棄

これにて完結です!


次話からは、第2章 勤労令嬢と死者の国 が始まります!


面白いなあと思っていただけましたら、ブックマーク、評価、いいね、感想など、よろしくお願いします!


また、異世界恋愛の新作

「泣き虫令嬢の良縁(略」

連載はじめました。

こちらも併せて、よろしくお願いします!

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