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【完結】【書籍化決定】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜  作者: 鈴木 桜
第2部-第3章 勤労令嬢と王子様

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第29話 ある留学生の手記


==========


シェリンガム暦1853年5月30日


 まさか、月を動かしてしまうとは。

 誰もそんなことは思いつかなかったし、実際にやってのける魔法使いがいたという事実に驚きを隠せない。

 彼女は、間違いなく天才魔法使いだ。


 あの時、彼女を助けた精霊たちも分かっていたのだろう。彼女が、この世界の未来を導く存在だと。だから、力を貸したのだ。


 最後に彼女に触れた精霊……いや、あれは人の思念と呼んだほうが正しいのかもしれない。美しいブロンドの女性と、小さな赤子だった。

 二人は優しく微笑んでいて、ジリアンにありったけの愛を伝えていたように見えた。


 あの美しい光景を、私は生涯忘れないだろう。


==========


5月31日


 取り急ぎ連絡をとっていた皇帝陛下からお返事があった。

 一連の事件について徹底的に犯人を追求すること、そして黒幕を明かし、その陰謀を食い止めること。そのために、ルズベリー王国の国王と協定を結ぶことを約束してくださった。そして、その協定には『秘密と誓約の精霊(エレル)』の魔法を使うように、と。


 皇帝陛下も、相当お怒りのようだ。


==========


6月1日


 ジリアンに改めて思いを告げた。

 ……今日は、これ以上のことは書けそうにない。


==========


6月2日


 『秘密と誓約の精霊(エレル)』の魔法による誓約が成立した。これで、ルズベリーの国王と魔大陸の皇帝は、破れば死に至る約定を結んだことになる。

 二国の間に再び戦争が起こることは防げたと言ってもよいが、だからと言って安心はできない。引き続き、黒幕を探らなければならないし、ハワード・キーツの行方も探らねばならない。


 政治的なこともそうだが、あの男だけは決して許さない。私のジリアンを傷つけ、その身体に好き勝手に触れたのだから。


==========


6月3日


 ジリアンに勲章が授けられることになった。喜ばしいことだ。

 それよりも、この国の貴族たちがマクリーン父娘に向ける視線が気になった。どうも、二人に対して優しいというか、甘いというか……。

 マクリーン侯爵は戦争の英雄、そしてジリアンは『月を動かした英雄』……いや、それ以前から、か。ジリアンは人々の生活を豊かにした魔法使い。誰もが、二人を愛してやまないのだろう。


 その人を、この国から取り上げようとした。そんな自分を少しだけ情けなく思った。……少しだけ。


 そこで、少し意地は悪いが国王に尋ねてみた。『ジリアンは魔族の血を引いているようだが、いつまでこの国で暮らせるだろうか』と。

 国王はニヤリと笑って、こう答えた。『歴史を辿れば、人間も魔族も元は同じモノだ。この国に魔族の血を持つ人間がいたとしても、何の不思議もなかろう?』と。


 ……国王は知っているのかもしれない。ジリアンの出生の秘密を。


==========


6月9日


 昨夜のアレンの祝いの宴には行かなかった。そこで何が起こるのか、予感があったからだ。

 二人には黙って、夕方頃に首都(ハンプソム)を出発して、こうして朝一番の船に乗っている。別れを言えなかったと、優しい彼女は怒ってくれるだろう。そして学院で出会った友人たちも。

 それでも、顔を合わせることは、どうしてもできなかった。きっと、あの指輪を返されてしまうから。


 ほんの小さな希望を持ったまま帰ることを、どうか許してほしい。


 さようなら、ジリアン。

 私の愛しい人。






 第2部 勤労令嬢、恋をする  完






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