第34話 ある教師の手記
==========
シェリンガム暦1851年11月3日
昨日の決闘は見事なものだった。
ジリアン・マクリーンが勝利するだろうことは予想はしていたが……。
想像以上の逸材だ。
この決闘を見られただけで、王立魔法学院に教師として潜り込んだ甲斐があったというものだ。
さて。あの天才を、次はどうやって試そうか。
==========
11月10日
モニカ・オニール嬢。彼女は、そろそろ限界だな。
黒い『魔法石』の影響が、身体に出始めている。最近は授業でも精彩を欠いているらしい。
オニール男爵も、どんどん調子に乗って自分勝手に動き始めている。自分自身には何の価値もないということを、彼は知らないらしい。
そろそろ、潮時か。
==========
11月14日
オニール男爵は、やはりただの馬鹿だ。少しおだてれば、すぐに調子に乗って……。私に言われるがままに魔石炭の情報を売ったらしい。
これで、貴族派はオニール男爵を切る方向へ動くだろう。
だが、それでは面白くないな。
何か……。
そうだ。
霜の巨人族族のあの男……。
マクリーン侯爵に復讐心を持っていたな。うまく利用できるか?
==========
11月21日
霜の巨人族族の男は上手く釣れた。貴族派の方も、うまくジリアン・マクリーンをおびき寄せてくれるだろう。
モニカ・オニール嬢に、黒い『魔法石』の正しい使い方も教えておいたし。
仕掛けは万全。
さあ。彼女はどうするかな?
簡単に死んでくれるなよ?
==========
11月25日
潮風というのは、あまり好きになれないな。顔にまとわりつくようで気分が滅入る。さっさと船を降りたいものだ。
さて。今回の計画の目的は達成、といったところか。
黒い『魔法石』は、十分な量を王国にばらまくことができた。
それにしても。
ジリアン・マクリーンは、想像以上だ。
あれだけの量の黒い『魔法石』に侵されてもなお、理性を保った。自らの精神力だけであれを抑え込み、時間を稼いで。あとのことはエルフが力を貸したらしいが、それにしても……。
首都が消し飛んでもよかったが、こっちの方が断然面白い。
彼女は、時代を変えた天才魔法使い、と呼ばれるようになるだろうな。
このままの平和が続けば、の話だが。
さあ、次はどうしようか。
第1部 勤労令嬢、愛を知る 完




