君主簒奪& you are load
自分はタンクローリー派
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破壊の技能・君主に撃滅の役割あれ
説明:始祖の血筋を吸血し、始祖と同一となった吸血鬼に賜われる《スキル》の究極型の一つ。
発動時に強烈な負荷がかかり、人の身では体がたちまち自然崩壊を迎えてしまうため、破壊の技能は特定の種族にのみ行使する事を許されたのだ。
効果:体の部位や機能などからランダムどれか一つが供物に捧げられ、9秒間、あらゆるステータスや肉体スペックに大幅のバフがかかる。
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『ロードロールだっ!』
『ロードロールだッ!』
『ロードロールだッ!』
『考えてることみんな変わらんなぁ』
『WRYYYYYYYYYY!』
『ブレイクスキルtueeeeee』
『人間には使えないなら特別なスキル扱いにもなるわい』
『八秒経過!』
ヴァンパイアロードは正面を向きながら本来の大剣の射程外へと後退していましたが、大剣の一振りは音や空間をも裂き、刀身以上の範囲を断切したために、相手の胴体を真っ二つにしていました。
破壊の技能の効果、まさに破壊の粋を極めたスキルですね。攻撃力と攻撃範囲が急激に上昇したためヴァンパイアロードの背後の壁まで切れ目が走っています。
「もう九秒ですか……」
脱力感と共に左目が完全に暗転し、眼球があるという感覚さえも消え失せました。
それだけならまだしも、進化した再生能力をもってしても一向に再生する気配がありません。代償は小さくないようです。
【ッグアアッッ……! 再生……再生だ……】
おや、相手はまだ息がありましたね。
それに断面から下半身が高速で再生しています。
彼の不死身度ではこれしきのダメージだけでは死に繋がらないのでしょう。
それに、大剣を振った後に何もしなかった……厳密には何も出来なかったのはミスでした。
たとえるなら重力がいきなり月面空間並になったかのように全く違った世界を体感したため、馴染みの無い感覚に慌てたあまり無駄な時間を費してしまったのです。効果が切れる瞬間に慣れましたが。
【……攻勢が止んでいるか。愚か者め、やはりイレギュラーの貴様ではロードの器にあらず!】
こちらが反動による左目の機能停止に戸惑っていた間に、相手は体勢を整えて完全回復を果たしてしまいました。
「いつどなたが攻勢を止めたと言いましたか。《破壊の技能・君主に撃滅の役割あれ》」
こちらも追撃の一手を打ちます。
次に供物となる部位は……右脚ですか、もう膝の力が抜けています。
飛行能力があるとはいえ走るのが困難になるのは痛そうです。
さて、この九秒で決着をつけましょう。倒し方は既に決めています。
「はあっ」
回復される以上にHPを削り切るのが倒し方です。
爪へと変形させ、拳を握って氷の広間を滑空しました。
【向かってくるか、無駄な事を!】
これは魔法発動の予備動作ですね。
ですが、彼の魔法はもう何が放たれても無意味という確信があります。
【ぐぬっつ!!】
刹那の内に間合いにまで接近し、膝蹴りで相手を床へと伏せましたので。
彼の進化前がウィザードなら、近接戦にもつれ込むだけでこちらに分があるでしょう。
……何と形容しましょうか、ブレイクスキルによって生物の限界をぶっちぎりで超越した身体能力の飛躍的向上に自分自身も驚きを隠せません。
動体視力まで研ぎ澄まされ過ぎて、最早相手が体勢を立て直そうとする動作さえも止まって視えます。
よくもまあとんでもないスキルに振り回されず、短時間で適応したものです。
ですが開眼した効果にすぐ慣れたのは追い風でしょう。
「すぅ……」
そしてやるべき事は一つ。
貰った時間で、身体的制限の取り払われたラッシュで雌雄を決するだけです。
【いかん……此奴の破壊の技能による攻撃が来る……!】
一気呵成にHPを削れば今度こそ死へと導けるはずでしょう。
「そこそこそこそこそこそこそこそこそこそこですっ!」
狙いは定めず、とにかく当てる事だけにリソースを割いた連撃。
一発一発命中する度にヴァンパイアロードの体はクレーターとなり、そして脱出不可能になっているので更なる追い打ちとして肘鉄のラッシュに切り替えます。
【ぐああああああああああ……!】
もうどうなろうと絶対に攻撃を中止しません。
もし腕がもげようが古城が倒壊しようが甘んじて受け入れましょう。一瞬でも攻撃の手を休めれば反撃を許してしまいます。
「まだまだまだです!」
何も思考せず一心不乱に打ちのめし、抵抗する暇も与えずサンドバッグにし続けて八秒……。
床が割れ下階にまで落ちてしまいましたが、効果の切れる九秒目で相手の動きが止まりました。
【意識が薄ぼんやりと……。これが、高みの果てを渇望するヴァンパイアの底力か……】
ヴァンパイアロードはもう再生やHP回復をするような様子は見せません。
HP残量がゼロとなっていたからです。
「君主簒奪です」
種族進化を成し遂げた上、千日手となりうる勝負を力攻めで決着まで持ち込ませました。
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スキル:吸血・改
説明:ヴァンパイアロードにとって基本中の基本となるスキル、任意で中断可能。改となったことにより、吸収力や吸収速度が大幅に向上した。
吸血中にHP回復・MP回復、吸血終了時に経験値獲得の効果があり、一定時間ダメージ倍率が小アップ。
スキル:血液貯水限度解除
説明:吸収して得たHPが最大HPを越えて回復するようになる。
現在最大HPの2倍まで。
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最後に《吸血》し、より多くの君主の血を体内に収めました。
流石にあの酔っ払うような感覚は巡って来なかったので安心です。
「いくらヴァンパイアロードの壁が高くそびえ立っていても、私には通過点。でしたが、通過する過程で色々と喋り過ぎてしまいました……」
吸血直後から絶えず押し寄せてきた多幸感、もしお酒に酔うとしたらあんな感じになるのでしょうか。
特に恵理子、全校生徒が見ているに等しい配信中だというのに「大好き」と公言してしまった自分を殴りたいです。
嗚呼……後になって襲ってくる気恥ずかしさにより、配信のカメラに顔が向けられなくなります……。
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《エクストラエネミー【ヴァンパイアロード】に勝利しました》
《レベルが66に上がりました》
《10000イーリスを手に入れました》
《【吸血鬼の古城】の所有権がエクストラエネミー・ヴァンパイアロードからプレイヤーRIOに移ります》
《称号【始祖の血筋を継ぎし者】を手に入れました》
《【ヴァンパイアロード】の眷属化が可能です》
《カルマ値が上がりました》
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一旦落ち着いて辺りを見渡しましょう。
部屋中を覆っていたスケートリンクは溶けて水となり、蒸発した後、霧散しました。
ブレイクスキルの代償となった脚は力が入らなくなってしまいましたが、左目の治癒が完了している所を見るに、脚もそのうち治るのでしょう。
『勝ったぞおおおお!!』
『チート回復力はチートバフ効果で攻略するという超脳筋攻略法』
『また成り上がった』
『化け物を倒すのは化け物だった件』
『ボス、エルマ、フライン、終わったよ』
『↑誰も死んでねぇ』
『みんな聞いた? 大好きなエリコって……ぐへへへへへ(鼻血)』
『そん時のRIO様の目つきがエリコそのものになってた』
『なにそれ私いつもそんな目してるの!?』
『ヴァンパイアロードさんまさかの仲間になるという』
……ふむ。
ネームドエネミーやエクストラエネミーやら、通常とはどこか異なるエネミーばかり仲間になるものですね。
しかし、ヴァンパイアロード程の者が戦力に加わってくれるのは非常に有り難いです。
「私の血で蘇りなさい。そして、私の下僕となって高みの果てを追い求めましょう」
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スキル:眷属化・改
説明:スキル《吸血・改》を受けた相手に血を分け与え、味方NPCとして蘇る。(プレイヤーには無効)
また、分け与える血の量を増やすほど、眷属の能力を強化出来る。
ただし、適応出来なかった場合は体が崩壊し死亡する。
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【任せておけ、お前の敵は全て私が消してやろう】
目を覚まし、羽ばたきながら起き上がった新メンバーのヴァンパイアロード。
フラインとは対象的な透き通る蒼の宝石となり、胸元へと装着されました。
因みに名前はヴァンパと名付けました。
『ヴァンパ』
『またネーミングセンス……』
『いやRIO様ネーミングセンスが無いんじゃなくて考えるのが面倒くさいだけ説』
『RIOちゃんねるにまた愉快なメンツが加入した』
『これは頼もしい味方』
む、名付け親になるなら、名前を予め考えるか視聴者様の案から決めた方が良かったですかね。
ともかく、君主の血は私の物です。ジョウナさんとのリベンジマッチの下準備は順調です。
もっとも、力量差は縮まれど未だ広く離れているため、ハイリスクハイリターンのブレイクスキルをどう活用するかが鍵を握るでしょう。
「それにしてもこの古城、ついでのように私の物となったわけですが、遠慮なく本拠点としましょう」
出払いながら、そう呟きました。
吸血鬼やそれに近い種族しか立ち入る事さえ許されないこの拠点、エルマさんが窮屈な思いをせずのびのびと過ごせる物件になりそうですね。
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夏バテとかじゃありませんが、また休みます
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