防戦&吸血される吸血鬼
『血があれだけしかねぇとかムッズ!』
『倒すか? ぶっ倒してぶん取るか?』
『倒すのも相当難しいぞ。レベル70あるし、生半可な攻撃は回復されるし』
『回復能力搭載したボス級の敵とか禁じ手やんww』
『クソみたいな性能にクソみたいなギミック』
『苦行』
書き上げられるコメント群。
そもそもヴァンパイアロード自体、膜の仕掛けからして交戦したプレイヤーがいるのかも怪しいところです。
【むうん!】
ヴァンパイアロードの爪が迫りました。
ですが目を瞑っても丸わかりな直線的な走り、しかもこちらは魔装爪によりAGIが上昇しているため、余裕をもって躱せます。
「ふっ、はあっ」
躱したついでに、アッパーカットの一振りで腕をちぎり飛ばしましょう。
一つ部位を削げば、血の候補も絞られます。
再生されたならばもう一度削ぐだけ、吸血への距離が近づけそうな案は現状これだけですね。
【ぐあ〜】
むむむ、ヴァンパイアロードにしては気の抜けた声をあげて……霞のように消滅しました。
一体何故。
【まんまと幻の相手をしたな。所詮はバトラーよ】
「ぐ」
このヴァンパイアロードは実体のない偽物、嵌められたようです。
本物のヴァンパイアロードの声が降り、背中から巨大な塊をぶつけられる衝撃が襲いました。
壁にまで吹き飛ばされてしまい、圧死を免れようと脱出を試みる私の体を冷気が鈍らせる。フラインに放とうとしていたあの氷塊ですかねこれは。
【書物で見知っての通り、私は生まれついてのロードではない。私の前身である種族は、《ウィザード》だ】
書物で見知ってとは、心を読んだのか監視でもされていたのでしょうか。
ともかく、彼は魔法を主軸とする戦闘スタイルなのですね。まあ多少迫力が増しただけの手品なんてどうってことありませんが。
まだジョウナさんの剣戟の方がよっぽど死を感じられます。
一度頭を冷やし、氷塊を投げ返しての脱出を果たしました。
「これは凄く洗練された魔法ですね、とても楽しめました。次はどんな魔法を披露してくれるのですか?」
【……その言、取り消しは利かぬぞ】
私の一言をトリガーにして、ヴァンパイアロードの威圧感の厚みが変わりました。
それで良いのです。
ここからの戦略は、とにかく攻撃を躱し、とにかく相手の手の内をさらけ出させるのです。
ここまで戦い合って分析した結果、ステータスの差は隔たりがあれど、瞬殺されるまででは無さそうなため、再生力に任せた持久戦を展開出来るでしょう。
根気よく粘り、どの攻撃の後が最も長く隙を見せるかを見極め、そして吸血する。それまでは徹底して回避に努めます。
【氷棺】
次に発動された攻撃は、見る限りは氷の柱をいくつかに分離させてこちらに追尾させる魔法です。
『氷攻めか』
『こっちまで肌寒くなる』
『属性に性格が引っ張られてるヴァンパイアロードさん』
『アイスコフィンってそこまで高ランクの魔法じゃないのにこの氷の質量である』
『今のはマ○ャドではない、ヒ○ドだ』
『いや、ヒャ○ルコじゃないかと思う』
下級の魔法でありながら高威力。伊達にウィザードヴァンパイアだっただけのことはありますね。
「しつこい魔法です」
走れど走れど一向に追尾が止まず、そこからヴァンパイアロード本体までも追いかけてきます。
なのでここは頭を使い、壁際でほんの何秒か立ち止まって氷達を誘引し、近づいたと同時に跳躍します。
「ふむ、いけましたね。氷の棺は壁に刺さって停止しましたよ」
【そこを落とす。氷棺】
跳躍したタイミングを補足されました。
またしても氷が迫ってきますが、天井を蹴って巧く床へと飛び、両手で着地に成功したらバク転をした後走り、最初に放たれて壁に刺さったままの氷塊の一本を力ずくで引き抜きます。
「使い終わったものはちゃんと消さなければいけません。散らかしっぱなしは厳禁ですよ」
思ったよりは断然軽かった氷棺を即席の武器にし、迫る氷棺のミサイルを次々に相打ちにさせます。
全弾粒に出来ました。
【バトラーにしては機転が効く。ならば足元から不利にする。氷結の戦場】
またまた氷魔法ですか。しかも今度はヴァンパイアロードを起点に床が段々と氷の膜に覆われつつあり……むむ、部屋内には高クオリティなスケートリンクが出来上がってしまいました。
『地形変化だ』
『INTが尋常じゃない』
『中々の規模の氷を具現化してるなぁ』
『火属性の技さえあったらビチャビチャの水溜りに出来たが……』
『あ、RIO様ツルッていっちゃってるww』
相手は飛行能力があるのでフィールドの影響は受けず、こちらは立つことすらままならず転倒しそうな状態です。
これも力で解決させましょう。
「ふっ! 滑らせようとする魂胆ならば、頑丈さが足りませんね」
凹凸面一つ無い表面を勢い任せに砕く要領で足を踏みしめ、氷を割って足場を作りました。
必然的にスピードが落ちますが、一歩踏み出す際も氷の足場を割るように意識しましょう。
【フリーズフィールドの真価はここからだ。戦慄きの氷柱】
「む……」
ヴァンパイアロードが魔法を唱えると、私の足元から氷の柱が隆起し、足を貫き飛ばしました。
なるほど、足場を制限するのは副次効果であり、この魔法の強みは氷の張られた範囲のどこからでも氷塊を顕現できるようになると、氷魔法の技を使えないこちらとしては相当不利となりました。
しかも次々に巨大な氷の柱をも各場所に作り出し、部屋を狭くしてこちらの移動する場を遮ってきます。
ただでさえ足を一本治療中にされたのに周到ですね。
【いでよ、私の忠実なる下僕よ。奴の血を一滴残さず吸い尽くせ】
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エネミー名:ヴァンパイアLv40
状態:正常
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ここで数体もの援軍を投入して来ましたか。
ヴァンパイアロード直属の部隊なだけあって、氷の柱の間を減速せずに通り抜けると、統率がとれた動きです。
それに加え正面だけから攻めて来ず、私が全てのヴァンパイアを目で追えなくなった途端に四方八方から突撃してきます。
「鬱陶しいです」
黒くて羽があると巨大化した蝿にしか見えないので全員追い払いましょう。
目の前から攻める一体を掴んで氷の床へと叩き伏せ、そのヴァンパイアの死骸の上を足場にして全方位の回し蹴りを途切らせずに敢行します。
そう回りながらヴァンパイアロードの次なる攻撃へ備えていると、意外な方法で仕掛けてきました。
【その三次元的な闘争に精通した戦闘技術は褒めおこう。だが、無駄な足掻きだ】
下級兵士を全て蹴り殺した直後にヴァンパイアロードが直々に強襲し、指を私の肩に刺してきたのです。
「まさかこれは……う、私の血が吸われて……」
【好い血だ……。数多の修羅場を潜り抜け、数多の人間を手にかけた吸血鬼にしか蓄えられないよく肥えた血。祝盃としてやろう】
満を持して吸血攻撃。
私のスキルとは比ではなく、僅かな時間でも多量の血が消えてゆく感覚がします。
『吸血キタアアアアアアア』
『ついに吸血鬼のアイデンティティ発動』
『RIO様を……飲んでる!』
『↑妙な言い方をするな』
『RIO様お肌真っ白だやばい』
『HPもやばい』
失血の影響で頭がぼうっとし、引き剥がすための腕が上がらなくなりそうです。
【そうか、貴様は死しても蘇るのだったな。心折れるまで何度でも挑戦するがいい】
人間ですら血液が半分も抜かれてしまえば致死量となります。人より強靭な肉体である吸血鬼だとしても、血が完全に抜かれる前に息絶えてしまうでしょう。
ですが……おかげで見えました。
吸われる私の血液がどう流れ、どこに行き着くか、それは血臭を改めて嗅げば、具体的なまでによく分かります。
指先からヴァンパイアロードの腕を登り、肩から胸へと落ちるように流れ行き、そしてとある部位へと集約されていました。
「右脚……ですね」
【何?】
凝縮された血の位置がはっきりと判明しました。食べた物は胃に送られるように、吸った血は血を纏める箇所へ流れて行くのは当然の帰結ですよね。
今更位置をずらそうが私の血を介して奪い取ることの出来る最大の好機です。
腕を動かす力と指を伸ばす力を振り絞り、ヴァンパイアロードの鼠径部にあたる右脚へとこちらから指を突き刺して、《吸血》を発動させました。
【ぐぬ……! この忌々しき不快感は……! さてはこの瞬間がために虎視眈々と機を窺っていたか、思い通りにさせぬわッ!】
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《種族:ヴァンパイアロードへの進化が完了しました》
《ステータス評価、HPがS+に上昇しました》
《ステータス評価、MPがAに上昇しました》
《ステータス評価、STRがSSに上昇しました》
《ステータス評価、DEFがC+に上昇しました》
《ステータス評価、AGIがSに上昇しました》
《ステータス評価、INTがA+に上昇しました》
《ステータス評価、DEXがSに上昇しました》
《ステータス評価、LUKがDに上昇しました》
《スキル:吸血が吸血・改に変異しました》
《スキル:眷属化が眷属化・改に変異しました》
《スキル:ブラッドニードルがブラッドアイスニードルに変異されました》
《スキル:血臭探知が真・血臭探知に変異しました》
《体質:血液貯水限度解除を獲得しました》
《体質:肉体自動再生が肉体自動再生・強に変異しました》
《体質:HP自動回復がHP自動回復・強に変異しました》
《体質:肉体操作が無制限の肉体操作に変異しました》
《□□□□スキル□□□□□□□□□□を獲得しました》
《レベルの上限が100になりました》
《カルマ値が下がりました》
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虚を突かれた表情から我に返り、吸血中である私の指を腕ごと殴打で砕いたヴァンパイアロードでしたが、既に赤みがかった蒼い血は私の体に馴染んでいました。
この瞬間のために何話かかったんだ……




