玉座の間へ&眠れる君主
その後も知識欲のためにいくつか拾った本を読み進めていましたが、どうやらこの城で暮らしていた王家の滅亡と吸血鬼達の巣窟になったことに因果関係は無いとだけは判明しました。
お陰様で、値打ちモノの財宝などは持ち去られているようです。
ちなみに盾のような形をした国章が壁に貼られている箇所もありましたが、視聴者様情報ではどこの国にも照合していないとも聞きました。
この荘厳な城を構えた国は、もう歴史の闇に抹消されてしまっているのでしょう。
経年劣化の具合からすると、数百年もの昔に築かれた城でしょうか。だとしたら損傷箇所が少なく城としての形が残っているのは有り得ない話ではないですね。
『ヴァンパイアしかいねぇ』
『敵のレベルが低めやな』
『ざっこ』
『ちぎっては投げちぎっては投げ』
『この水準ならヴァンパイアロード戦も余裕だろうな』
『第五の街の領内だし余裕ってことは無いんじゃないかな』
吸血蝙蝠に血を吸われたら吸い返すで対処しつつ、所々に錆がついた豪奢な両開きの扉の前に着きました。
「……居るとすればこの奥ですね」
扉を破壊する勢いで蹴破り、フラインと侵入しました。
さて、部屋の中は一段と広々としており、奥にはかつて偉大な国王がふんぞり返っていたであろう玉座が半壊していると、風化してしまった状態です。
玉座の間でしょう。血臭無くとも、どす黒いオーラが急激に強まっているため、ヴァンパイアロードがいるとしたら高確率でここでしょう。
そして、部屋の中心にはシュールにも鈍色の棺桶が鎮座していたのが特筆事項です。
中身を見てみたい気持ちで一杯ですが、開けたならばただでは済まないと暗に示しているようで進む気にもなれませんね。
「フライン、そこにある棺桶に気弾を放って下さい」
【ハハハハ! オレの最強の気弾に敵はない!】
開けたくなければ壊すのみです。
隣で指示を待っている頼もしき仲間に命じました。
『とんだ賊だわこの人』
『棺桶を開けるというさも普通なことも行わない行う意味ナニソレなRIO様』
『フライン損な役回りばっかだなww』
『この容赦の無さがRIOチャンネルの見どころよ』
何が飛び出るか、はたまた何も出ないか。
全神経を注いで棺桶の蓋を警戒し、命中した気弾により巻き上げられた砂埃の中を注視します。
……む。
砂埃の後ろに翼の生えた人型のシルエットが素早い動きで舞い上がり、玉座の上に立ったのが肉眼で捉えました。
大剣を用意し、砂埃の晴れた先にいる者に目を合わせます。
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エクストラエネミー:ヴァンパイアロードLv70
状態:正常
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エクストラエネミー、ようやくご対面となりました。
私とは別格の同族、そう形容する他無いエネミーが棺の内で惰眠を謳歌していたようですね。
【蛮族か……。いや、吸血鬼だな】
おおこれは……エネミーにも人語を解する者がいようとは想像だにしていませんでした。
有象無象のヴァンパイアとは違い、対話が可能な模様です。
エクストラエネミー、この時点で普遍のエネミーとはまるで異質ですね。
彼の風貌を端的に言えば、フラインに近いフォルムです。
その蒼く暗い双眸は果てしなく虚無、それにスリムながら強者特有の威圧感を肌から感じ取れます。
「ええ、私も生物学上では吸血鬼に分類されます。お休みのところ失礼しました」
【ふ、その血臭は《バトラー》か、さては貴様も私の血を欲すために来たのだな。……しかし不可思議だ、ヴァンパイアは私の下僕を除き根絶したはず】
尊大な態度でありながら無闇に襲いかからない。君主に恥じぬ豪胆さですね。
対話や交渉が可能だったのなら初手で気弾を命じなければ良かったと少し後悔しています。
「私は別の世界から来訪し、その際に吸血鬼としての生を押し付けら……授けられたのです。しかも日光を浴びて力尽きようが監獄で蘇る特典も付いています。知らなくても無理はないでしょう」
【ほう、イレギュラーにも奇妙な輩がいるものだ。だが、理から外れた存在だろうと、命に等しき私の血をみすみす強奪される訳にはゆかぬ。去ね】
その一言を皮切りに、瞬きする間にヴァンパイアロードは私の後方へと回り込んでいました。
いきなり戦闘開始ですか、まあ気弾でちょっかいを出したヴァンパイアロード進化手前の吸血鬼が現れたら、聖人君子でも敵認定はしますよね。
『速いッ!』
『ジョウナよりは遅いとはいえ見えなかった!』
『ヤ○チャ視点とはこのことだな』
『これが吸血君主ってやつの力か』
のんびりするのもここまで、こちらも小手調べとして、体を捻って背後の敵に向け剣を振りましょう。
「……いません。実力や戦闘経験は相手が一枚上ですね」
わざわざ後ろから牙を刺せる場所に動いたためにそのまま攻撃してくるかと見せかけ、こちらの反撃を読んで一瞬早く離れたヴァンパイアロード。
「行きなさいフライン、殴撃でかかるのです」
こちらも指をくわえて逃すはずがありません。
足を壁につけ、地面のようにそのまま走るヴァンパイアロードをフラインが追走します。
【ハハハハ! オレの相手はコイツか!】
【どこかで見た顔だ……お前はディアボロか。下らぬ、有翼魔族を率いる魔軍遊撃部隊の将だったお前も、下賤な吸血鬼の道具に堕落するとは】
おや、ヴァンパイアロードはフラインの出自をご存知のようです。
私ですら詳細がいまいち不明瞭の悪魔でしたが、ここに意外な知り合いがいたものです。
【この私と技を競うとは笑止。ふんっ!】
ヴァンパイアロードとフラインの脚が交差しました。
しかし、力負けして脚が崩れ、HPを大幅に損失したのはフラインの方でした。
【五月蝿いぞ! オレの体力はあと半分はある。貴様も戦え!】
脚を一つ失ったところすみませんが、只今魔装爪へと変形している最中なので承諾しかねます。
一度頭を整理します。この戦い、《吸血》さえすればそれで目標達成です。
相手はエネミーですが勝利を狙う必要性は低く、また、いざとなればもう一度監獄島で作戦を練り直すのも戦略の一つでしょう。
ですが、ここまで不自然な点がありまして、ヴァンパイアロードから血臭らしき反応がしないのです。
魔法か何かによるものなら、今更ひた隠しにする意味は無くなっているはずですが……血を糧とする種族が実に不自然ですね。
【今楽にしてやろう。戦慄きの氷柱】
ヴァンパイアロードの掲げた手から、身の丈の倍はある巨大なツララ状の氷塊が大気から生成され、投げられました。
いけません、このままではフラインが餌食になってしまいます。
「退避命令です。宝石となって戻りなさい」
こちらも変形が完了したので一旦フラインを離脱させました。
これにより魔法が不発となり、消えたフラインに驚き戸惑っている相手の隙をついて高速で背面へと回り、まず一撃、回し蹴りを頭部へと叩き込みます。
【ぬぐっ!】
命中しただけで頭部を飛ばせませんでしたが、不意をついて怯ませたならば十分です。
相手が振り返る頃には上手く肉薄したため、指を突き立てて真っ直ぐに突き刺します。
「採血の時間です。これにて、条件その三は完了となりますね」
さあ、《吸血》を発動しましょう。
もし血を吸い終わったならば即座に種族進化の項目をタップします。戦闘の最中なので視聴者様への紹介は後程に。
【戦闘においてこれほど非凡な才能を持った吸血鬼は拝観した事が無い。だが、勝ち誇ったな】
「む……?」
どうしてなのでしょうか、スキルを発動したはずなのに血が吸えて無いのです。
水分が体に巡った感触が起きず、またヴァンパイアロードの手刀が襲ったためにバックステップで距離を取るしかありませんでした。
ヴァンパイアロードから《吸血》する。条件にしては簡単過ぎる文面だと思いましたが、やはり裏がありましたか。
【バトラーよ、この私が吸血鬼による謀反の備えもしていないとでも思ったか】
私の指が刺さっていた傷跡からは、血らしきものが流れ出ておらず、一秒未満で傷が塞がる再生力には驚かされます。
【真祖から始まった血で血を洗う反乱の歴史。私は、反乱の意味を消し去るため、肉体操作によって体内の血の大半を抜き払い、凝縮したのだ】
……どうりで血臭がしなかったわけです。
いえ、血臭自体は上半身と漠然とした位置から、量は一雫未満と、とても分かりづらい反応があります。
【バトラーに教えてやろう。私の体内にある雨粒一つの体積の血は常に循環するように移動し、また、位置も任意で自由自在に変わる。それ故、貴様が私の血を奪取する可能性は、万に一つとして無いだろう】
希望ではなく絶望的な事実でした。
たったこれっぽっちしかない大きさのために激戦を繰り広げながら探り出し、尚かつ吸血しなければならない。
しかも仮に探り出しだとしても後出しジャンケンの要領でどこかへ流れてしまうと、ハードな試練です。
守備に徹しながらどうにかして法則を解き明かすか、いっそまぐれ当たりに賭けてみるか、まあ肩の力を抜いて程々に頑張りましょう。
お腹の音が鳴ると空腹ではなく腹痛という




