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古城到着&吸血鬼の歴史

 その後はシャバの空気を吸い込みながら海面スレスレの空の旅です。


 言ってしまえば理論上第六や第七の街に隣接する区域までひとっ飛び出来るのですが、それではフラインの体力が持ちません。

 現に、小島や岩礁があればそこへ向かってつかの間の休憩をとる等してフラインの調子をやりくりしています。



「おお、見えてきました。最初からこの手段を使えば良かったですかね」


 無事に第五の街の区域にまで戻ってこられ、古城付近の崖の上へと上陸出来ました。同時に下半身を治します。

 ジョウナさんが予期して上陸地点で待ち受けていればこれまででしたが、血臭で調べる限り人の反応はありませんでした。


 あるとすれば、私と同族の冷たい臭いでしょうか。


 この先100m程度前からです。

 前方へ歩くと反応が近づいて参りました。


「……ふむ」


 一見、森の景色の一部となっているこの場所。


 しかし、私が一歩足を踏み入れた瞬間、ビニールのよう薄い膜に引っかかり、更にもう一歩進めば膜がひとりでにふやけるように千切れたのです。


 膜の先に見えたものこそ、私が目的地に指定していたどす黒いオーラを放つ荘厳な古城でした。


『ここかぁ……』

『幻術施して拠点を隠してるタイプだったか』

『幻術というより特定の種族しか触れないような仕組みだぞ』

『おお王道な古城キタコレ』

『この城の奥にヴァンパイアロードがいるんだな? てか逆にいないと白けるよな』


 ……想像以上に大きいいわくつき物件ですね。

 一通り探索しようならば日を跨ぐまでの時間を要するかもしれません。


 とはいえエクストラエネミーの棲む場所までたどり着けばそれで目的は果たせるので、まずは適度に回りながらヴァンパイアロードの血臭を追い求めましょう。


 変に窓から入らず、正面の扉から突入します。


「む、やはり蝙蝠達が待ち構えていますね」


 突入した直後から大量の血臭反応を感知しました。

 十や二十では留まらないおびただしい数が天井に張り付いているのです。

 実際、玄関ホールは洋館のような造りであるはずなのに、天井まで見上げてみれば影に覆われたかのように真っ黒となっていました。


 でしたが、足音を立てても黒いものが動く様子はありません。無視も有りですが、ある条件下で動き出すような命令でも仕組まれていればそれこそ厄介です。


「フライン、天井へ向けて気弾を放って下さい」


【ハハハハ! オレの相手はコイツか!】


 同じく突入していたフラインに先手を打たせましょう。

 連射した気弾の一つ一つがまばらに広がり、それぞれが黒い集団へとクリーンヒットしました。


「お見事です。次は落ちてくるハウスダストを掃除しましょうか」


 蠢き出し、落下というより真下へ滑空する黒い集団を迎撃しましょう。



―――――――――――――――


 エネミー名:ヴァンパイアLv40

 状態:正常


―――――――――――――――



 吸血鬼の根城なのですから吸血鬼が居なければおかしいですよね。

 タキシードらしき外套を纏った小さな羽を持つ下級のエネミーですが、レベルだけはそれなりの高さです。


「せっ。吸血鬼の血を吸いにたかるだなんて、共食いですね」


 エネミーは主に爪で抉り取る獣じみた攻撃手段か、鋭利な牙で血を吸い上げる吸血鬼らしさ溢れるスキルの二点特化型です。

 それを数の利に任せて攻めてくるのですから煩わしいことこの上ありません。

 しかも人型エネミーではあるのですが対話は完全に不可、吸血鬼同士で日光の苦悩を分かち合うことも無理そうです。


「想定以上に多い……面倒さは随一ですね。はぁ」


 範囲攻撃の魔法でも持ち合わせていれば爽快感噛み締められる戦闘になるでしょうが、生憎ながら大剣を振って地道に斬り捨てるしか出来ません。


「まだいけますか」


【ハハハハ! オレの最強の気弾に敵はない!】


 ふむ、私は敵の吸血が効いてしまう体の脆さですが、フラインの防御力は凡百のエネミーの攻撃は通用しなくなるまでには育っているようです。


 ネームドエネミー時代の取り柄が大分回帰していますね。これならば、安心して後ろを任せられましょう。


「同族殺しは完了です。探索を開始します。フラインは足で私に付いてきて下さい」


 そう命じて、まずは一階から虱潰しに巡ることにしました。

 外は夜ですが、もうじき明け方となります。どうせ朝になるのですから、急がば回れです。

 こんな人間の侵入を拒む古城、つまり人の手はついていないはずなので、何か役立ちそうな物でもあれば儲けものです。


 実に楽しめそうな不法侵入ですね。



▼▼▼



 その後も夜行性エネミーのヴァンパイア達を立て続けに撃破し、窓から陽光差しかかる危なっかしい通路を通り抜け、とある部屋へと入りました。


「本が散乱していて歩きにくいです。おっと、本棚まで倒れているのですか」


 かつて書庫的な役割であった場所を思わせる部屋ですが、エネミーがいないにも関わらず移動に難儀していました。


『ワイも探検に行きたい』

『冒険心くすぐられる所だ』

『そっちは日光当たるから気をつけなされ』

『お、あそこにオモロそうな表紙の本が……』

『男の裸が表紙になってるのをオモロそうって感性アッーか?』


 この古城は放棄されてからどれだけ経年してしまったか、それを知る年代モノの資料や書物でも探し当てるのも一興です。

 しかし時間は有限なため、ヴァンパイアロードについて記されてそうなものだけを優先します。


 ……これは、魔物について記された書ですかね。

 目が痒くなりながらも埃被った表紙を払い除け、視聴者様を考慮し音読したいと思います。


「第一章……章で括られているのですか。この国語辞典並みの厚さを真正直に読み進めると日が暮れますね」


 とりあえず着席しましょう。


 魔物関連はリードビュートの件であまり良い思い出が無いですが、ページをパラパラ捲ってみると、吸血族の項目がありました。

 自分のことにも繋がりそうなので是非とも目を通しましょう。



 ――吸血鬼、それは人間族と枝分かれした邪なる種族なり。

 吸血鬼、それは人の生き血を求めて彷徨い歩く、生命を超越しようと目論んだ人間の成れの果てなり。

 吸血鬼、それは太陽から祝福されざる、『日』に呪われた魔物なり。

 その吸血鬼に、特に抜きん出た強大な力と智慧を持ち、吸血衝動を抑え込める精神力を備えた『真祖』が存在していた。

 それが、初代ヴァンパイアロードである。

 だが真祖は配下の吸血鬼の謀反を恐れ、勢力を拡大せず小規模の洞窟や遺跡のみを本拠とし、そこに侵入する戦士や賊の血をすすりながら細々と暮らしていた。

 そんな体制を執りしきったため、不変と安定こそが善と唱えた心優しき真祖の思いは虚しく、鬱屈した生活に嫌気が差した配下の吸血鬼達は幾度となく反乱を起こした。

 その度に真祖は前線に立って鎮圧したが、いずれ精神が摩耗し、ついには自ら最上位吸血鬼の地位と血を明け渡し、非業の死を遂げたのであった。

 人間の地への侵略戦争を企てていた二代目ヴァンパイアロードもまた、アンデッド殺しという吸血鬼に嫌忌される武器を手にした配下に討たれ、君主の座を簒奪された。

 人間と協定を結んだ三代目のヴァンパイアロードに至っては、悪しき人間と結託した配下によって滅ぼされた。

 四代目、五代目、六代目……不老不死といえど、どのヴァンパイアロードによる治世は永遠には君臨しなかった。

 武力を得れば、武力で乱を起こされ君主の血筋を吸血される。

 所詮吸血鬼なぞ、人間と相似した同族争いの絶えない種族なのだ。

 次のロードも、繰り返される吸血鬼の歴史をなぞる末路を辿るだろう。


「……つまりは、種族進化の条件であるヴァンパイアロードの《吸血》という同族食い的行為は、BWO世界的には推奨されるということですね」


 そう自分を納得させました。

 何故吸血鬼の住処にこんな検閲案件では済まなさそうな本が置かれているかは……考えないようにします。


 ――歴史とは、なんてまあ素晴らしいですね。

 最も心揺らされた点は、私も吸血鬼界の歴史に残るような革命をこれから巻き起こそうとしている点です。

 なので今日から新たな歴史を生み出し、泥沼の歴史に終止符を打ちましょう。

 ただのプレイヤーがヴァンパイアロードに就くだなんて、この書物の歴史では初の事象ですからね。

 この私がヴァンパイアロードの座と力を手にし、利欲に目が眩んだ下手人を全員まとめて潰してしまえばそれで下剋上の歴史は終了。必然的に私が永遠の末裔となります。なんだか脳筋思考ですが、それがこなせるようでなければトップなんて夢のまた夢です。


 歴史を壊しましょう。そして吸血鬼の私が頂点に立つという歴史を創りましょう。破壊なくして創造はありません。


「行きましょうかフライン」


 満足したので本を閉じ、フラインと共に上の階へと向かいました。

 不死身、不老不死、吸血鬼パワー!

 しかし体調悪い

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヴァンパイアにも歴史があるんだなぁ [一言] 体調悪いならマジで休め(生意気いってすんません)
[一言] 初代さんかわいそう(こなみかん) フラインがんばってるなぁ。ちゃんと喋れるようになって欲しいような、プリセットセリフで頑張って受け答えしてるのが可愛いようなw 本持って行ったら駄目? …
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