ジョウナ&自ら捕まる者
愛用の3○SLLが逝った
これより上が無いまでの本気で斬りつけたつもりでしたが、それでもこの人は剣を握る右腕以外体を全く動かしていませんでした。
これが序列最高位の力量。私では時期尚早でしたか。
「いたぞあそこだ!」
「いかん、先客がいる……ってRIOが睨み合ってるぞ、どうなってんだ!?」
「どどどどうする、どーやって落とし前つけりゃいいんだ」
彼女を追っているであろう三人の冒険者達が駆けつけて来てしまいました。
切羽詰まったこのタイミングで計算を乱す要素が乱入すれば尚危うくなります。
先にどうにか彼らを消すしかありませんが……。
「あーキミ達ジャマ」
そんな呟きが聞こえた瞬間、ジョウナさんの姿が忽然と消えていました。
目は離していないつもりでした。それなのにいないのです。
「ほい三勝!」
いえ、振り返ってみれば、瞬間移動的な速度で三人の冒険者の背後へと回っていました。
「おろろろろ……?」
「なんででででで……」
「おい二人ともどうしししし……」
冒険者らは、全員まとめて輪切りにされていた事に気づかず即死していたのです。
斬撃力に加えて音速にも匹敵しよう速度、更には現代アートのように斬り刻む器用な芸当。
冒険者だった頃は、さぞかし神様の生まれ変わりのような待遇を受けていたことでしょう。
それなのに、勝ち組人生であるはずの彼女は冒険者ギルドに離反したのです。
「……解せない点があります。並大抵の努力や才能では得られない序列一位の称号を捨ててまで、何故人殺しの道に走ったのか。待遇への不満か暗い過去でもあったのですか」
実力差を誇示されては、大剣への変形を待ちつつ時間稼ぎの疑問を呈すしかやれる事がありません。
情報を一つでも多く引き出させられたのなら次に繋がります。
「じゃあ答えてあげる。ボクはねぇ、ただ"勝てれば"それで良いんだよ」
私の方へと振り向きながら言い始めました。
「でも勝つためには相手を殺さなきゃいけないだろ? 冒険者のアホ達は『殺しだけが勝利じゃない』って口を揃えて吐くけど、生かして勝った後に後ろからぶっ刺されたら完全敗北じゃないかって話さ」
この人の口から並べられるは、彼女なりの勝利についての美学。
ジョウナさんにとっての勝つとは、とどのつまり殺すの隠語ですかね。どこか私にも通ずるものがあります。
「勝ちまくれるなら魔物でも雑魚でも無関係なんだよ。そんでもって今は配信者のキミに夢中。じっくり勝負して、キミのHPをこの剣でゴリッと削る最高の勝利を味わいたいからねぇ」
そう言い終え、剣の切っ先をこちらに向けてきました。
『うわ、来るか……?』
『画面の前の俺でもヒエッってトラウマ再発した』
『「ジョウナの前じゃ誰もがやられ役」、S6位の寝られない元帥の弁』
『このライブ配信、気のせいか冒険者率高まってないか?』
『実は俺も冒険者』
『ジョウナが出ると知れば冒険者だろうと観に来るぞ』
『RIO様やな奴に好かれたなぁ』
『でもジョウナにしては対話が成立してたよな』
『上手く集中して大剣で捌け!』
変形こそ完了はしましたが、あの速度で距離を詰められたらどう足掻いても冒険者達の二の舞いになってしまいます。
決めました。
「さて、あなたの仰る通り、私は確実に負けてしまうでしょう。一万手もの戦略を考えようとも倒せるイメージが浮かびません」
「お、降参宣言かな?」
「ええ、降参に当たりますね。では、こうするとどうでしょうか」
……私も大剣を向けました。
ただし、向けるのは相手ではなく、自分の首にです。
無論、意味は大有りです。どうせ負けるなら、勝ちを譲らせないのが軍略とでもいうべきでしょうか。
「んだってぇ? キミちょっと血迷ってないかな?」
これはこれは、こちらが見抜いていた通り、動揺した様子が見て取れました。
そう、この人が欲するのは、殺して勝利することへの拘りなのです。
特に私と一戦交えたくてBWOに復帰したとの情報があったため、もし私が彼女の手により敗北を喫してしまえば、満足されて永久のログアウトを決め込み、リベンジマッチの機会を失ってしまうでしょう。
トップを目指す以上は、この人をいずれ踏み越えなければならないのは鉄則です。
故に、汚い手段となりますが首を斬って自決し、勝負を有耶無耶にすることで相手の勝ち逃げを阻止するのです。
「そんな血が迷うだなんて、吸血鬼が興奮しそうな事を言わないで下さい」
「ッアハハハ! 人をおちょくる能力が高いんだねぇキミ。そのありきたりな罠には乗らないよ」
「罠と信じたいならば結構です。こちらはこちらで自死を受け入れるる準備は整えたので、あなたの"勝ち"は霞ほどもありません」
はい、もう自死間近です。
相手が勝手に罠だと深読みしている間に、大剣は既に首の半分は食い込んでおり、もうあと少しだけ力を込めるだけで自分の首を落とせます。
「マジかっ! 冒険者共以上に本気で狂ってるヤツだな!」
ジョウナさんは今更大地を踏みしめています。いくら速くても分析能力が高くなければ持ち腐れですね。
……そうですね、折角なのでここは肉体操作で子供の姿になり、神経を逆なでする台詞でも言い放ちましょうか。
「勝つのはボクだオラァ!」
「さんざん豪語しといてりおに勝てないなんて、ざぁーこ♡」
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《レベルが59に下がりました》
《カルマ値が半減しました》
《デスペナルティにより6時間のステータス減少が付与されます》
《【監獄島・最深層】へと転送されます》
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相手の剣が届くより先にセルフ介錯が決まり、戦略的撤退に成功しました。
『死んだ』
『不老不死が死んだ』
『マジで自害しやがったww』
『なんという華麗な死に逃げ』
『初黒星?』
『三十六計逃げるに如かず(監獄島に)』
『転んでもただでは転ばない智将RIO様』
『メスガキムーブに抵抗無くなってて草』
『ざぁーこ♡が観れて俺はもう思い残さず死ねる』
『それより笑ってる余裕が消えたジョウナの歯噛みする顔みたかよ』
『ジョウナざまぁww』
一度命を失ってしまいましたが、どうにか逃げ切れたようですね。それに再戦の約束も纏わり付かせました。
自身に刃物を通すのは慣れっこでしたが、自殺のために首を斬るのは流石に汗が出る感覚を覚えました。
「私の首は私だけのものです。他者に奪われる位ならば、自ら死を選ぶまでです」
この光届かない独房で、私の呟いた声が反響していました。
メッセージログから推測すると、ここは大罪人のプレイヤーが死亡時に強制送還される監獄島でしょう。
全十層で構成されていますが、プレイヤーの証言によるとどこも環境が劣悪の一言。その中でも私のような凶悪なアウトローは最深部にある独房へと閉じ込められるのだとか。
良い所ですね。
光が届かないだなんて、吸血鬼にとっては最良な環境です。
そしてこんな絶海の孤島ならば、いくらジョウナさんとはいえそう簡単には追って来れないでしょう。
「……気取って自決しましたが負けは負けです、負けに不思議の負けはありません。次回、敗北を返上するまでにレベルアップや種族進化等、あの手この手で速やかな強化を図りたいと思います」
『ちゃんと負けは認めるRIO様大物』
『つまり今回の戦闘、勝者無しだな』
『いやそれでいいのか?』
『いいんだぜそれで。最終的にジョウナをぶっ潰せば勝者だ』
『いよいよトッププレイヤーを敵に指定したな……』
『そうか、RIO様もうそこまで進出したんだな』
『ついに最強の背中が見えてきた』
初ログインから今日まで約二週間弱……でしたっけ、時が過ぎればあっという間です。
この地の底を新たなスタート地点にし、明日デスペナルティによるステータス減少効果が治り次第、ジョウナさんとの力量差を埋める手段の一つ、ヴァンパイアロードへ生まれ変わるための場へと一気に直接赴きましょう。
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実質引き分け
厳密には決着を持ち越しただけですから……




