異様な変化&第五の街へ
またもや適当章タイトル。
この章からトッププレイヤーの背中が見えてくる。
ログインしましたが、まず見かけたものは血相を変えてこちらに走り寄るボスさんでした。
「RIO様あああ! 大変だ! 大変だぜ!」
一見何も不審な点はありませんが、この空間でずっと過ごしているボスさんが盛んになって騒ぎ立てればただ事ではなさそうです。
「落ち着きなさい。話の尾から逆順に述べて下さい」
なにはともあれ、聞かずには何も始まりませんね。
「実はエルマのことなんだが……さっき辺りから体温がすげぇ下がってて、なんというか温かさってもんがねぇんだよぉ」
「む、直ちにエルマさんの元へ連れて行って下さい」
確かに大変そうな事態でしたね。風邪か病気か、環境の変化に体が悲鳴をあげているか。
急ぎましょう。
「こ、ここだぜ」
案内され、洞穴の奥で目にしたエルマさんは。
「お姉さん! おはよう〜」
何事もなさそうに立ち上がれ何事も無く歩み寄ると、やけに焦っているボスさんの様子に反して穏やかな状態でした。
「あだだいだぁ!」
「さてボスさん、私に出鱈目を吹いて焦らせようだなんて、どのような企みがあってですか」
「ちげえって、ちぎれちまうっ!」
ボスさんの耳朶をつねって持ち上げていると、エルマさんの小さな背が私の体にハグを仕掛けてきました。
……直接触れてようやく分かりました。土壁の一部に触れているように体温らしき熱が無くなっていたからです。
「お姉さんいい匂い〜」
「いい匂いですって?」
鼻を動かしたエルマさんは、どこか変な反応をしていました。
私には自分の血と返り血と、付着した血により汚れていて常人にはただただ不快な悪臭だと思われます。
この時点で、エルマさんの小さな体には少なからず変化が起こっていると睨んでも間違いないでしょう。
次に《血臭探知》を発動しましょう。
「僭越ながら、私もエルマさんの匂いを少しだけ嗅いでみたいのですが……」
「え、RIO様こんな年端のいかない幼女に何いででででえ!!」
「いいけど、優しくしてね?」
……深い意味は無いはずですよね?
エルマさんの言葉を意訳するならば、ボスさんみたいに痛いことはしないで欲しいといったところでしょう。
知らずの内にパワーハラスメントを繰り出すのは大いにいけませんでした。
そして横から顔を近づけてみましたが、案の定エルマさんから人間らしい血臭の割合が減少していました。
具体的には人間部分が四割、人以外の臭いが六割と、人間ではない何かの体質へ変貌する最中とも言えるコントラストです。
「まさかエルマさんにそのような……、すみませんが口の中を覗かせて下さい」
「わかった。あ〜」
間延びした声と共に大口を開けたので、すかさず歯を調べましょう。
医療分野に疎い平均的女子高生であるのに歯科医に診療される患者のようなシチュエーションなのはこの際触れず、形が変わってそうな歯を確認してみます。
「ふむ、ですよね」
四つの犬歯の尖端が異様に尖っており、試しに指を刺してみれば傷がつくほどに鋭くなっていました。
「んあ……甘ぁい」
その指の傷から流れ出た少量の血をエルマさんの舌に垂らしてみれば、通常なら九分九厘送らなさそうな感想を述べていたのです。
心当たりとしては、あの時私の血を舐めとったのが一番ですが、たったそれだけで血や体が激しく変化するとは思いもしませんでした。
「わたし、やっぱり病気になっちゃったの? なんかパンもお肉も味がしないし、一日中お腹がすかなくなってる……」
「食欲も不振、ううむ、良くない兆候ですね」
エルマさんが人間から離れた生物となっている。この事実、配信にて公表すべきか否かが悩みです。
人ならざる存在になったとオープンにしてしまえば、冒険者にとって駆除するべき生物なのだと、もれなく私と同じ立場にされてしまうでしょう。
エルマさんを殺しにかかる冒険者達は第四の街でいるにはいたので今更な気がしますが。
「安静にしていて下さい。ですが気分が優れなくなるようなら外の空気を吸うのですよ」
「うん。わたし、早く治るようにじっとしてるね」
命に別状は無さそうなので、歯を抜いたりはせず経過観察に留めておくことにしました。
「それで今回の予定についてですが、第五の街『テドーラ』へは私だけで出発します」
肩車をせがむエルマさんを窘め、ボスさんに向けて言いました。
テドーラ北西の森に古城を構え、強さや能力が未知数なエクストラエネミーのヴァンパイアロードから《吸血》するためには最大戦力を引き連れるべきですが、そんな単純な戦略が露と消える大事態が第五の街で巻き起こっているのです。
「俺はここで留守番すか? あの時はあんまり活躍しなかったし、今度こそは何戦しようがへこたれない気概を整えてたばっかなんだが……」
「ええまあ、あなたは外に出ずエルマさんの防衛を頼みます。今回私が対峙する相手は半端ではない敵であり、ボスさん程度では装弾する間もなく首を斬り落とされると聞きますので」
「ちょい! そいつ何モノなんだよ!」
狼狽気味に聞き返すボスさんでしたが、私的には、その半端ではない敵のことはまだまだ過小評価して言ってしまったほどです。
真っ向勝負でも不意打ちありきでも私なんかが挑めば十中八九敗北するであろう桁外れの存在。
あまりの出鱈目な戦闘力と暴虐性に、怖いもの知らずな冒険者達からですら、稀代の快楽殺人鬼や正真正銘の死神だのと呼ばれ忌避されているのです。
悪行三昧でありながら配信により一定の評判を得ている私とは似て非なるプレイヤー。そんな対敵したくもない存在が第五の街に現れ、恐らく今も無差別に死を振りまいている。
全て恵理子の口から聞き取りました。
しかし、行かなくては種族進化が果たせません。
ここで何日足踏みしていようと、当の相手は台風のようないずれ過ぎ去る自然災害ではないのですから。
「さて出ましょう。皆様も留守中の敵襲にはお気をつけて、ここに戻るまでに拠点となりそうな洞穴でも探してきます」
「ほいっす」
「バイバイ、また今度でいいからお出かけしようね」
時刻は昼で、しとしととした雨模様の空。
雲に遮られながらも一応太陽は出ているために、継続ダメージ的には傘を差さない外出は単なる自殺です。
二人に見送られ、日傘を片手に洞穴からリートビュートの土地を通って行きました。
▲▲▲
『わこつ』
『わこ』
『ぐへ』
『ついにか、どうしても第五の街に行くんだな』
『あそこは今やばすだからな』
『というかRIO様の場所探られる配信ストップした方がいいんじゃ』
視聴者様からも、第五の街のただならない情勢がひしひし伝わります。
「まあこれはゲームですから、のんびり進行して参りましょう」
そうカメラに向けて言い、北へ北へと歩き進めると、数日前までテドーラと呼ばれていた都市の廃墟に到着しました。
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嗚呼腹痛




