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エルマ奪還戦 その5

 悲しい過去(主観)

「どうし……て……分かってくれないの……?」


 悪意無く自己憐憫していた、エゴイズムの塊なる人。


「秀麗お美しいラヌシストさんだって、優しく抱きしめて『マスターは悪くないさ』って肯定してくれた……他の来訪者達もそう、弱い人の味方になってくれる心良い人だったのよ」


 ふむ、こんな人物にさえ肩を持つ者がいるのですか。

 ラヌシストさんだけとは相性良さげですが、権力目当てですり寄っただけでしょう。


「さあ、これでも思考面は庶民的な平均的女子高生なので理解に苦しみますね。全く力になれず、申し訳ありませんでした」


「……なんで謝ってくるの、わたくしが悪いみたいじゃない!! 悪いのは全部貴女! わたくしは筋違いに虐げられた善良な人の子! 勝手に悪人認定する極悪人はみんな死んじゃえばいいのよ!!」


 突然ヒステリックに激昂しては、殺傷能力の高そうな大鉈を持ち出して、振り回しながらこっちに接近してきます。

 もう被害者妄想しか口に出さないこの人を、人間ではなく厄神としか思えなくなりました。


「散々酷いこと言いまくって。弱い者いじめはするなって座学で教わらなかったの!? そうよねぇ、あなた外見からして学が無いものねぇ」


 むしろあなたの方こそ自分本位な理屈で無関係な住民を間接的に虐げているのでは? 視聴者様も『特大ブーメラン発言』と批判しています。

 反論するだけ反論されるのがオチなので口には出しませんが。


「分かってくれない奴なんて死んじゃえ!」


 ……今です。自傷するため舌を下唇ごと噛みちぎります。


「フライン。光輪に警戒しつつ、あのギルドマスターと遊んであげて下さい」


【ハハハハ! オレの相手はコイツか!】


 召喚に成功しました。これこそ、手足が使えなくなった私の数少ない打つ手だったのです。

 身動きが封じられた時にも使える他、初めから召喚するよりも敵が接近したタイミングで召喚すれば、奇襲性が高くなり思わぬ一撃を食らわせやすくなります。


「ひゃあ!?」


 フラインの一撃によりギルドマスターは転倒し、その拍子に鉈を手放しています。これではもうフラインのワンサイドゲームですね。

 光輪を脱ぐまでフラインに任せっきりになりますが、殺めず上手く加減して下さい。


【ハハハハ! オレの最強の気弾に敵はない!】


「正義は勝つのっ! 勝たなきゃいけないのよっ! 悪い魔物なんだから早く死になさいったら!」


 完全に間違いではなくとも、的外れが過ぎる理論です。正義の名分の元、悪いと断じただけで対象が自発的に死亡したりなどあり得ません。

 もしあり得たのなら、今頃地球上全ての生物が息をしなくなるでしょう。


 しかし、フラインは大変良い趣味に目覚めましたね。

 私の命令を遂行しているだけでしょうが、ギルドマスターの駄々をこねるような拳を嗤いながらあえて受け、魔法発動の事前動作が始まれば手を抜いた威力の蹴り上げを顎に放って詠唱を途切れさせると、戦いというよりもじわじわ消耗させています。


『ギルマスよっわwww』

『魔法だけの一発屋だったか』

『おや、輪っかが?』

『お、RIO様チャンスじゃね』


 それに思わぬ朗報です。ギルドマスターが攻撃を食らう度に、私を縛っていた光輪の輝きが古くなった電球のように弱まっていました。


「ふっ」


 光だけでなく強度も脆くなっていたために、二つとも筋力で破壊しました。

 この魔法の現象を推理するに、発動後も魔力を集中させ送り続けなければならない類だったのでしょう。


「フライン、攻撃止めです。シイラさん、もう他人のせいにしないとどうしようもなくなる辟易した人生を終わりにしましょう」


「ふざけるんじゃないわ! わたくしがこんなに苦しまなきゃいけないのは、わたくし以外の全てのせいなの! 無教養な下等生物のくせにわたくしを悪者扱いするなんて最低よ!!」


 MP切れか頭に血が登っているのか魔法さえも使わず、涙散らしながら攻撃の矛先を私に向けました。


 そのギルドマスターが次に放ったのは、狂気に満ちた拳の攻撃です。


「死ねっ! 死ねっ! 死ねったら死ねえっ! 死いいいいいねえええええっ!!」


 でしたが、私を殴れど殴れどHPを減らせず、ただ悲痛ぶった掛け声が虚しく反響するだけでした。

 なので、フラインに取り押さえるよう指示し、最後の揺さぶりをかけます。


「五秒以内です、エルマさんの居場所を教えて下さい」


「殺す殺す殺す殺す! 私に感謝しない奴らなんて全員殺すうう!」


 シイラさん、こちらの話を聞いていなかったのですかね。

 ここまでくると筋金入りですね。


「残り三秒」


「ゴミ屑の平民共をみんなみんなリートビュートに住まわせてあげてるんだから、何人間引きしてもいい権利があるのに……みんな文句ばっかり! なんで愚民共は誰もわたくしを慕わないのよぉ!」


 間引きとはまさか……、不吉な想像はやめましょう。

 話す内容が毎回転々とするのは、聴いてて飽きはしませんが厭わしいのと時間が浪費される方が上に来ます。


「一秒前」


「もういいわぁ、一生かかっても分からないあんたは神に呪われてしまえばいいのよ。性悪なゲロ女と違って善人なわたくしは疑い無く正しいんだわ。遍く正義を司る神様からもそう認めてくれるのよォ。キャーーハハハハ!」


 急に狂笑したので一矢報いる策でも使うかと身構えましたが、まさか神頼みだとは。

 ついに現実から目を逸らしにかかったようです。実に奇妙奇天烈な生物でした。


 さて、時間切れです。


「この世界に神様(運営)はいませんよ。あなたの言い分はあの世で好きなだけ言って下さい」


 眷属化の前段階、《吸血》するため頸動脈へと指を突き刺します。


「ひいやああああっ……!」


 体内の血を一滴残さず吸い取り、この人の魂を霊界へと送りつけました。



―――――――――――――――


《カルマ値が下がりました》

《冒険者ギルドから懸けられた賞金が3270万イーリスへと修正されました》

《冒険者ギルドから懸けられた経験値が30,311,445へと修正されました》


―――――――――――――――



 永遠の眠りを授与した直後ですが、魂を呼び戻すため《眷属化》させましょう。


「どうですか、先程みたいに喋れますか」


「ヨヨヨォ……ヨヨヨォ……」


 ふむ、大半が悪徳であるギルドマスターの役職に就いているのに自我を失ってしまっていますね。

 つまりシイラさんには本当に悪意が無かったのでしょう。


 ……悪意無くあんな言い訳を吐け、責任を負う立場でありながら責任をなすりつけ、ただただ自分の主張こそが正論と思って止まないと、どう育てたらこんな人格が生まれるのか、悪質過ぎて頭を抱えます。

 エリコはさぞ嫌な思いをしたことでしょう。


 しかし正義とはとてもとても良いですね。なにせ他人を冒涜しようが酷ったらしく殺してしまおうが、悪意や罪悪感なんて感じなくて済むのですから。


 その万能な権利を道具のように独占し、所属する者達へと配布する冒険者ギルド。

 たとえ人柄の良くない者だろうが、むしろ独裁体制を敷くためにはうってつけであるのでしょう。


『ギルマスゲットだぜ!』

『俺引退するまであんな癇癪持ちのためにクエストしてたのかよ』

『死ねば等しく仲間のRIO様寛容だぁ』

『あんな正義からかけ離れてる輩が正義と名乗っちゃう恐ろしさわかるか……?』

『わかる。すげぇわかる』

『でももう「ヨヨヨー」としか言わなくなったからわからなくてもいいんだよな……』


 BWOの世界を改めて言うならば、"誰しもが正義になれる"でしょうか。そんな綺麗な言葉が悪行や横暴の正当性に用いられるだなんて、この世界はカビが繁殖したトーストです。


 早く終わらせましょう。そして念願のエリコと対峙する所までこぎ着けたいです。


「シイラさんに命じます。エルマさんの囚われている場所まで案内して下さい」


「コッチヨ……コッチ……」


 そう手招きされたので、フラインを引き連れてすぐさま続きました。



▼▼▼



「《魔法・光輪の拘束(ライトニングリング)》」


「くわあっ……! マ、マスター!? どうしてしまわれたので!?」


「マスターがいじめてくるうううう!」


 さて、眷属化で自我が消えても生前の魔法は引き続き使用出来るようです。

 戦闘面では非力なギルド職員を見つけては魔法で拘束し、私の仲間へと変えていきました。


 おかげでギルドから出払う頃には大人数を引率する立場です。彼女ら眷属達は中央区に放ち、私とシイラさんで中央区の外へと向かいましょう。

 実際シイラさんも中央区ではない所へと導きたがっていますからね。


「かつてないほどたらい回しにされました……。一体エルマさんはどこまで攫われたのですか」


 距離的にはかなり近づけたとは思いますが、果たして。

 ↓にスクロールした先にあるポイント評価を何卒よろしくお願いします

 お腹が痛けりゃお手洗いに行けばいいじゃない理論で頑張る

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― 新着の感想 ―
[気になる点] いぢめる→いじめる
2021/07/09 06:01 退会済み
管理
[一言] >遍く正義を司る神様からもそう認めてくれるのよォ。 創造神(運営)は居なくても、神(カルマ判定AI様)はいらっしゃいます。 上位者に逆らわない、困っている人はギリギリまで助けない。無礼討ちセ…
[一言] いやぁ、ギルマスは狂敵でしたね…… あれ?悪徳が無いと眷属化したとき自我無いんだっけ? ……うん。会話を密にする相手が居なかったから意識してなかった。 まぁ、知りたいことは分かるからええや…
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