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エルマ奪還戦 その2

『勝ったッ! 第三部完!』

『なんかもう大胆だろww』

『もう救出しちった』

『強気過ぎ……』

『「せめて私の手で」って言ってエルマちゃんもろとも銃ぶっ放すかと思ったわww』

『なかなかデンジャラスなギャンブルだったな』


 賭けは好きですからね。この世界の私の場合は勝率が高いので尚好みなのです。


「二階に急げ!」

「ありゃ何の音だろ」

「デバフの方は効いたのか……?」

「おおん? ケッチャーのダンナが死んでるぞ?」

「てこたぁ……まさか!?」

「あ、察したわ」


 階段の下で外野となっていた冒険者達が、異常事態を察知してこの部屋まで駆けつけていました。

 皆、この場に起きた予想に反した結末に驚きを隠せないでいます。


「先ずすべきはあなた達の始末です。正々堂々、命を奪い合いましょう」


「お、おげええええ!?」


 まあ戦況を測る限り、命を奪うことはあっても奪われることはありませんが。

 全員、狭い階段から一斉に駆け上がったためにおしくらまんじゅう状態なのです。数の利が裏目に出ましたね。


「ごゃっ!」

「全然デバフかかってねえぞこれぇ!?」

「押すんじゃねえボーマ!」

「ボマーだ間違えんなクソが!」

「おいはやくどけ! 死んじまう! うがっ!!」


 剣を抜こうとして肘が近くの人に直撃する者、階段から転げ落ちる者、逃げ出す者とやけっぱちで戦う気がある者でどつき合いが始まってすらある体たらくだったため、コミカルな団体は全員まとめて葬り去れました。


「エルマさん」


 後顧の憂いは掃除したので、その名を呼びかけ、小走りで近づいて肩車をしてあげましょう。


「お姉さん。早く来て」


「ええ、謝罪や積もる話は後程に、まずはこの敵地からの脱出を……?」


 ……私からは親しく話したつもりですが、何故か相手からは親しさの声音が薄いように思えました。

 血臭からは、よく嗅いだエルマさんの匂いの反応がしているので、あちらにいるのはエルマさんで間違いないはずですが。


「どうしたの? わたしはここだよ」


 違和感や異質感、その全ては前の人物から発せられており、寄せるために伸ばそうとした私の手は、この場にそぐわない純粋な()()の気配によって引っ込みました。


 いけません、失念していました。エルマさんには別れ際に私の血を捧げて半眷属化していたのでしたね。

 つまり、本当のエルマさんから発せられるのは、よく嗅いだ匂いではないはずなのです。


 ……いえ、本当は最初嗅いだ時点で気づいていながら、鼻よりも目と耳で得た情報を鵜呑みに――したかったのです。


『RIO様が急に立ち止まったぞ』

『また分からんことをww』

『エルマちゃん要らなくなったか?』

『俺らじゃRIO様の発想は読めないってのは読めたわ』


 服やフードまで瓜二つ、されどこの人はエルマさんではない……。

 戦闘準備をしなければ。

 そう変形のために目を離した僅かな時間で、エルマさんだと断定していた人物は懐まで肉薄していました。


「【Sランク序列8043位・メタモルフォ】。変身能力と小芝居に騙されたね」


 血臭反応が急激に強くなり、エルマさんの見た目をした冒険者による強打が放たれていました。

 変形よりも躱すを選択しなかったため、その判断ミスの報いとして腹部に強烈な衝撃が走る。


「ご」


 相手の攻撃力が内臓を傷つけるまでに高かったために吐血し、咳き込みながらのけ反るほど態勢が崩されました。


「えへ、速くて鋭い《モルフォクロー》だよ。避けたらだめだからね」


 そうエルマさんの声で言い放った冒険者により、脚や胴体が鉤爪の乱撃によって刻まれ、そこから血飛沫が辺り一面に吹き出してしまいました。

 ランクに見合ったアグレッシブな攻めです。



 ――人数は約8000人と、全ランクの内最大人数を誇るSランク冒険者。およそ3000人のAランクと比較しても断然多く、そのため下位と上位は実質別のランクとなっているほどです。

 ランクが上がるほどライバルが増して序列争いが自然と激化する、逆ピラミッド状となった構成員。

 ここまで大勢の冒険者がSランクに所属出来ている意図は、互いに競い合わせて能力発達を促進させると、組織的な観点からしても手本となりそうな合理的な理由。それが冒険者ギルドの知られざる一面なのです。


「Sランク冒険者、Aランクとは次元が違いますね」


 エリコはSランク上位に位置してますが、この冒険者も下位とはいえSランクに相応しい能力です。

 不完全ながら血臭さえ欺く精巧な変身、そしてエルマさん本人との情や絆をも利用してくる狡猾さ、その上動きが機敏で目が追いつけません。


「わたしをなぐっても傷つけてもいいよ、でもRIOお姉さんが大好きなエルマちゃんが悲鳴をあげるなんて嫌だよね? だから反撃なんてしないでね。ちゃんとこっちを見たまま、無様な吸血鬼を配信されて、死んで」


 姿や口調はエルマさんそのものなのに、両手に嵌めている蒼く輝く鉤爪が月光を反射する度にこちらの体がじわじわと引き裂かれてゆく。


『まさに闇エルマちゃん』

『早く反撃!』

『RIO様! 似てるけどそいつはエルマちゃんじゃ無いぞ』

『そんな馬鹿な、俺達やRIO様は偽物を救出するために試行錯誤してたのか』

『斬れ斬れ!』

『惑わされちゃいかん』

『RIO様でもエルマちゃん相手じゃ手を出せないか……』


 コメントから諫言され続けていますが、私は至って冷静です。


 それに視聴者様の見方は大間違いですね。私とて、仮想世界と現実世界が別物なのと同じように、本人とまがい物の区别はついています。

 ここまで相手のなすがままだったのは、エルマさんとは別人であるこの冒険者を苦しめさせ、弱らせてから吐かせるために傷口を増やし続けていたのですから。


「準備は整いました。私のプレゼントです」


「……へ?」


 天に両手を重ねる姿勢をとって、持ち腐れ同然であった《ブラッドニードル》のスキルを発動しました。

 私の体は傷跡著しく、そのためスキルの威力や範囲がかなり高まっているはずです。


「いっ、たああっ!?」


 グレート。無数の針を浴びた偽エルマさんは、両目にも数本刺さったために、転がってのたうち回っては悶えています。

 攻撃手段としても失明狙いとしても大成功です。


「いだいよぉおおおねえざああん!! なんでわたしをいじめるの! ひどいひどいひどいよ!」


 打ち上げられた鰹のようにジタバタとして喚くだなんて、活きの良いエルマさんです。

 この人の全身に深々刺さったウニのような棘から出血が留まらないのが、死にゆくだけの哀れな敗北者というものを演出しています。


「わたじ、おねえさんのこと一生かけて怨んでやるからああああ!」


「エルマさんはそんな泣き言は喋りませんね、猿真似学校の試験は落第確定です。ですが、エルマさんの放つ苦悶の声の免疫をつけるため、暫し本人を再現しながら苦しんでいて下さい」


「い、いぎゃあああああっっ!!」


 剣を腹に刺して身動きを封じ、赤い針を一本一本奥へと押し込んでいきましょう。


「ゔあああっ! ゔあああおねえざあああん!!」


 これは、まち針を針山に刺す時の感触と似ていました。痙攣しているのは、どこか重要な神経でもやられたのかもしれません。


「やめて、やめて、やめてぇ……!」


 さて、そろそろHPがゼロになって苦痛から解放されてしまいますね。

 どうせ長くは耐えられないなら、訊いてみましょう。


「本物のエルマさんはどこに連れ去られているかご存じですか? 答えてくれるなら、地獄はここで閉幕にしましょう」


 初めから尋問と宣言するよりも、戦闘の一環として十分痛めつけてから救いの手を差し伸べる方式にするのが、効果があると見込んだのです。


「知らない……知らないの。ラヌシストっていうキザな男から真似するよう指図されたけど、それ以上は何も知らされてないのぉ! 答えたからやめて……」


「勿論です、知らないも答えの内ですからね」


 所詮、末端の者には要人の居場所なんて伝わっていないようです。

 ですが、戦闘者として力量の高いこの人はインベントリ送りに決定しました。

 種族進化をした後にスタートダッシュを決められる下準備となるでしょう。


「リスポーン地点で暇するのは楽しくはないでしょう。私のライブ配信を視聴する側にでもなって、冒険者ギルドが倒壊する様をご覧になって下さい」


「いげへえっ……!」


 とりあえず言って、一思いにノコギリで首を切断しました。


 ううむ、忌々しくも死に際でも変身が解除されませんでしたが、私の《肉体操作》と同様に肉体自体を改造しているのでしょう。

 インベントリにエルマさんそっくりの人体が入ってしまったとなると本物のエルマさんからどう怯えられるか分かったものではないので、優先して消費したいものです。


『タイマンだがSランクに勝てた』

『上には何千人といるがな』

『RIO様内心穏やかじゃなくなってるのか?』

『エルマちゃんいなかったならな』

『こっちも気が気でない』

『あれ、もしエルマちゃん本物だったらRIO様の賭けは……』

『なんとか峠の一つは越えられたな。次はどうするかだ』


 しかしエルマさんの影武者を使って私を良いようにするとは、あの冒険者の方、謀ってくれましたね。


 よって、次に後悔させる獲物はラヌシストさんです。

 草の根分けても捜し出し、エルマさんの居場所を吐くまで、私への宣戦布告が二度と出来なくなるまでじっくり拷問させましょう。

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― 新着の感想 ―
[一言] そんな構造だったんかい! ……あれ?するとAランク以下ってポケモンで言うとクリアした時の旅パーティ並み? ここからがようやく本職冒険者くらいの扱いかなぁ? (ガチ勢プレイヤー的に) さす…
[良い点] ラナシスト!逃げて!超逃げて!
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