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ギルドマスター&勧誘

「いかがしますかギルドマスター! もう群衆がこのギルドにまで到達しています!!」


 若い男性の焦燥感に駆られた声が廊下にまで響き渡っています。

 敵勢力の情報が婉曲しながらも中核まで届いている様子ですね。


「ふぅーむ。で?」


 もう一人、高貴な初老の男性のような声が聴こえたので、この部屋の中では二人が対話している状況なのでしょう。


「で? ではありませんよ! 一刻も早く対応策を講じねば、マスターの目前にまで押し寄せてしまいます!」


「押し寄せるわけがないだろうディード君よ。この避難所として活用されるまでに堅牢な要塞である冒険者ギルドに攻め入るだなどと、蜘蛛の巣に飛び込む羽虫の如く愚かだと思わないかね」


 ホッホッホと勝ち戦の大将のような余裕しゃくしゃくの笑い声が耳に届きます。

 冒険者ギルドの大幹部であるギルドマスターの役職に就いてるだけのことはありますね。

 ところで若い男性の名前がディードと判明しましたので、彼は次からそう呼びましょうか。


「それもそうですが、やはり私めには悪い予感がしてなりません。D〜Cランクの冒険者しか勤めていないのがここはじまりの街冒険者ギルドの特色なのはお分かりのはず」


「ワシがそう制定したからな。街近隣の魔物頻出区域には専ら雑魚しかいない故に賃金が勿体ないのだよ」


「その点は異論ありませんが……、冒険者には戦いに不慣れな者もいます。それにこの街ではレベル20未満の冒険者しか勤めていない以上、一度でもデスペナルティを受けてしまえば再起不能と同義。何故分からないのですか!」


 これはとても面白い発見ですね。

 サービス開始から大分経過しているため、仮想世界で暮らすNPCなのにプレイヤー間でしか理解出来ないだろうVRMMO界隈の単語を平然と使いこなせているようです。

 なおデスペナルティを受けてしまえば、経験値が2割減少しステータスが一時的に半減するのだとか。


「じゃあディード君、ワシの祖父より伝わる講義をしよう」


 脈略無い発言が飛んできましたが、一応聞いておきましょう。


「講義ですって」


「うむ。時に強力で強大な『個』が存在したとしても、暴力的な『数』の前には敵わないことがあるのは理解できるかな」


 巨象であっても蟻の大軍にはなすすべもなく餌にされるという故事ですね。

 現場の顛末を目にしてない者に危機感を問うのも酷ですが、ギルドマスターさんが下階の危機的状況を理解できていないことだけは分かりました。


「戯れごとは後にしていただけませんか!」


「いや今が良い。だがもし同じ『数』と『数』が真っ向からぶつかり合うと果たしてどちらが勝つのか、答えは『個』の力が上回る方が勝つのだ」


「それは、この風雲急を告げる状況において何の関係が……」


「それが今、下のフロアで起こっている構図なのだよ」


 ふむふむ、まさに至言ですね。

 緊張感が足りてない統率者とばかり思いこんでいましたが、まさかここまで危機管理能力が欠如している人物だとは衝撃的でした。

 上司に恵まれず気の毒な中間管理職のディードさんの困り果てている表情が目に浮かびます。


「民草の暴挙は目に余るが、『個』の能力が高く、戦死しようが人知れず復活するゆえ『数』の減らない冒険者達の前ではいずれ敗北という現実に心折れる。つまり此度の事態収束にはワシや君が出向くまでもないのだよ」


 おお、教示自体は孫子にも劣らない素敵な内容で締めましたね。

 これは私自身にも当てはまりそうな内容なので、しっかり心のメモに書き記しておきましょう。


「……やっぱり心配で居ても立っても居られません。私だけでも下階の状況を確認しに参ります。失礼!」


「結局行くのかね。近頃の若者は気が短くていかんなぁ」


 ディードさんの踵を返してこちらへ向かう足音が段々大きくなり、ようやく私の目の前のドアがガチャリと音をたてて開きました。


 この部屋の前に来てから、息を殺してドアの前でじっと伏せて辛抱していた甲斐がありましたよ。


「な、何奴ふべらっ!!」


「ふう、待ちくたびれました」


 ディードさんの姿が写った瞬間を狙い、アッパーカットで痩身の体を天井にまで飛ばしました。

 これでやっと大将首の元へと入室出来ます。


 ここまで潜入捜査みたいな真似をしてたのも理由があり、吸血鬼のSTRをもってしてもドアノブがピクリとも動かず、打ち破ろうにも途方もなく頑丈で、ピッキングなどの解錠方法の知識が疎い平均的女子高生の私なので、万全な防備だったドアを前にして内側から開かれるまで立ち往生せざるを得なかったのです。


 結果論では根拠無く先走ったディードさんが迂闊であり、ギルドマスターの怠惰に近い不動の姿勢が賢明だったのが実に皮肉。

 だからこそ愚劣なギルドマスターでも出世できたのでしょう。世間ではありふれている忌むべき実例です。


『殺した』

『殺した』

『殺しやがったwww』

『悪役の鑑』

『ディィィィドォォォォ!!』

『一応ディードさんはじまりの街ギルドじゃNo.2のポジションやぞ』

『まさに外道(褒め言葉)』


 ともかく先制キルして敵を一人取り除けたのは幸先良いですね。

 視聴者の皆様にも、私のプレイ方針を認めている方がいるようで配信者冥利につきます。

 より高揚感が刺激される配信内容でお届けするしか返せないのが当面の課題です。


「あのディードが一瞬で……曲者!」


「RIOです。お次は『個』と『個』の闘争についての答えを一緒に導き出しませんか」


 そこのふくよかな体をお持ちの方が消去法でもギルドマスターですね。

 この人を味方にしたくてわざわざ参りましたが、要求を呑んで私の手足となってくれるでしょうか。


「よくもワシの部下を! 消えろ!」


 悠々と考えている内に、声を荒げたギルドマスターの手には銃社会で度々見かけそうなリボルバー式の拳銃が握られています。

 そして、私が現実では平和主義である影響で反射的に両手をあげるよりも先に、ドンと一発放たれてしまいました。


「む、撃たれてしまいましたか」


 どうやら眉間を貫いてますね。

 痛覚無くとも、目にも留まらぬ速さの弾丸が視えましたので。

 まさかこんな場所で実弾に撃たれる経験を味わうなんて予想外です。


「やったァざまぁみよ! 脳髄をぶち抜かれて生きていられる人間はいない!」


 口元を綻ばせガッツポーズで喜びを顕にしているところ悪いのですが、私のHPゲージはまだ9割方残っています。

 額にくっきり残る異物感も薄れつつありました。


「これほどまでに貫通力のある銃器を持ち出すだなんて、侮れない相手ですね」


 吸血鬼でなければ即お陀仏でした。

 中世ヨーロッパをモチーフとしたファンタジーに銃は似つかわしくないですが、あくまで中世ヨーロッパ風のようですので製造にまつわる技法が世界観構築のAIに付け足されたのでしょう。


「……おろ? き、貴様! 死んでるはずなのにどうして生きているのだ!」


「不毛な質問などいいので、まずは私の要求を黙って聞いて下さい」


「くううっ……死にさらせ!」


 歯噛みしながらも二度、三度と私に狙いを定めて間断なく発砲し続けています。 

 嗚呼、瞬きしている間に右目をやられてしまい、視界の半分が赤黒く染まってしまいました。

 銃弾なんて回避や防御のしようが無いので手を盾代わりに突き出すしか対応出来ませんでしたが、何度撃たれようとも普通に立ち上がれますし、弾から伝わる衝撃は玩具かと錯覚しそうなほどに弱く、自分自身が負傷してる感覚は一切ありません。

 もうここでの私の体は人間ではなくなっているのだなと実感している限りです。


 ですが、脳や心臓部など人体にとっての急所を的確に命中させる精度はただ者ではありませんね。

 だからこそ間接攻撃に長けた彼を雇用してみたいのです。


『生きてら』

『銃弾ですら死なないとか』

『RIO様倒そうとか無理ゲ』

『まず目ん玉撃ち抜かれても冷静なのが恐ろしいわ』


「およ、弾切れじゃと!? ひいいいっ! 下郎め近寄るなあっ!」


 ついに涙目になり銃を放り投げながら後ずさりしたギルドマスターは、錯乱気味になりながら何やら奥の引き出しを乱暴に物色しています。

 戦意喪失したとしても遺書の用意は不必要なのですが。


 ――別の銃が引き出しの中からチラリと見えました。

 守勢に回ると食肉のように脆いこの体。これ以上の被弾は流石にHPが尽きる危険性があるので、すかさず短剣をダーツ投げの要領で投擲します。


「ぎにゃあああああ!!」


 うまく右脚の筋に命中しました。彼はもう戦闘不能と逃走不能のダブルパンチです。

 痛みに悶え転げている間に距離を限界まで詰めます。


「離れろ! 死にたくない、ワシはまだ死にたくないのだぞ!」


「死を告げる死神のつもりで到来したので聞きかねますが、その代わり生を与えましょう。私の手駒として酷使される第二の生を賜るのです」


 口を丸く形作って牙を見せ、爪も見えやすいように眼球のミリ前で構え、足掻く暇を与えさせず恫喝しました。


 このギルドマスターはボンクラなあまり過去に勘当された設定がある成金趣味の元貴族であり、底の知れない悪意や野心が渦巻いてるとのことなので、眷属としての素質は及第点です。

 はじまりの街のネームドキャラは長いサービス期間を経てほぼ素性が割れてますが。


「苦痛のほどは配慮しません。ですが眷属となれば苦しみについて気に病む必要が無くなるかもしれませんよ」


「いやじゃあ。さんざん苦しんだというのに……」


「では今一度、忠誠か死かご決断を」


「は、はひ。以後あなた様に従います……」


 思いの外すんなり降伏し、蹲って平服しましたね。

 情報通り、勝ち馬に乗るよりも保身を優先しがちな思考回路だったのが幸いでした。

 間をおかず《吸血》し、経験値が入ったのを確認してから《眷属化》させましょう。


―――――――――――――――


《レベルが29に上がりました》

《カルマ値が下がりました》

《ギルドマスターに手出ししたため、冒険者ギルドと交戦状態になりました》

《冒険者ギルドと交戦状態となったため、これよりGルートへと進みます》

《冒険者ギルドから賞金10万イーリスが懸けられました》

《冒険者ギルドから経験値144,445が懸けられました》

《冒険者ギルドからアイテム『ファイナルポーション一式』を懸けられました》

《冒険者ギルドから称号『邪悪な吸血鬼RIOの撃破』が懸けられました》


―――――――――――――――


『賞金首にされとーる』

『ヒェッ』

『要人を弄んでは味方に引き入れちゃえばそりゃそうなるわな』

『圧倒的カリスマ』

『そこに痺れる憧れるゥ!』

『ついにGルートか。で、普通のと何が違うんだ』

『↑経験値が倍増、冒険者に倒された時のデスペナが倍増、リスポーン先が牢獄島固定』

『デスペナ倍はキツいわwww』

『ここまでおよそ3時間』


 視聴者様がしきりに盛り上げてくれるおかげで達成感がありますね。


 コメントで囁かれていたG(ジェノサイド又は虐殺)ルートとは経験値に関連する意味があったようです。

 七難八苦のようなハイリスクと現在掲げてるテーマに合致したハイリターンが伴っていると、まさしく私が歩みたかった道ですね。

 その他懸賞金などについては私が得られるものではないので解説はまたの機会に。


 これではじまりの街は手中に落ちましたが、我が家のようにいつまでも留まっていれば、どんな高ランクの冒険者が報復に来るかも分かりません。


 階段を降りた先にいる眷属達をまとめ、跡を残さず別の場所へと行軍を開始しましょう。

早いかもですが次回は掲示板回を挟みます

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