えりりよよし・お泊り会 その5
ラストお泊り会
「でも莉緒、まだ泣いてるよ」
恵理子は寝ぼけた声色で零れ落ちる涙を掬っていました。
「いいえ、これは嬉し涙です。恵理子が変わらぬ恵理子でいてくれたことが嬉しかったからです。私への興味が他の人に移ったかと思うと……どうしようもなくなりそうで……」
「よしよし、莉緒は心配性さんだね〜。大事な親友を置いてきぼりにしちゃうなんて、どんなことがあってもしないからね〜」
「はう……恵理子、今晩はそばにいて下さい。私の……、我を忘れそうな不安感を、あなたの抱擁力で和らげて下さい」
「いいよ、一緒に楽しい夢をみよぉ……」
私の切実な懇願を聞いてくれた恵理子は、再び微睡みに墜ちそうになりながらも抱き寄せてくれました。
……私はあなたのことを、一時的に信用出来なくなってしまったのは磔にされるべき過ちでしょう。
それに、あの一言を聞いた時、自分の均衡が途轍もない速度で壊れてしまいそうでした。
もしその壊れ果てた感情が表へと進出したら、二度とお泊り会に誘ってくれなくなってしまうかもしれません。
それどころか、学校生活でも避けられて……悲観的になるのはここで区切りをつけましょうか。
「えりねぇ、さっき妙ちきりんな声しとったがなんなん? 泥棒?」
扉が開かれ、良子さんが枕を片手に目を擦りながら佇んでいました。
私の怒鳴り声が原因ですね。良子さんには悪いことをしてしまいました。
「良子さん、驚かせてしまってすみません。諸事情により変な声をあげてしまったのです」
「うー、なんか怖いなぁ……お化けかもしれへんわ。りおねぇ、ちょっくらええか」
裸足の足音が段々近づいてきます。
そして、どうしてか私と恵理子で満員のベットへと忍び込みました。
「りおねぇの腕枕や〜」
顔がひょっこりと現れたのは、私を挟んで向かい側。恵理子とは逆の位置です。
おお……、姉妹に挟まれてしまいました。
「これで今夜は安心して熟睡出来るで。くへへへ……すぴぃ」
本当に安心しきったようで、ささやかな寝息を立て始めました。
ですが、良子さんが闖入してくれたおかげで助かりました。
恵理子と二人きりにより抑制が効かなくなってしまいそうな私の情欲を、良子さんという小さな体が中和してくれるのですから。
もう良子さんには足を向けて眠れませんね。
こうして二人いるおかげで、邪念をかき消して眠りにつけました。
★★★
いつ以来でしょうか、眠気さっぱりの晴れ晴れとした気分で起床出来ました。
「いただきまーす」
朝食となる鮭おにぎりと甘味盛りフレンチトーストの和洋混合メニューは、私がこしらえたものです。
良子さんがいるため献立決めは難儀しましたが、味見の方は合格点の自己評価なので……、ううむ、果たしてどう応えるのか。
「むひょおおっ! おいしぃ〜!」
「美味や〜!」
声帯の奥から絞り出してそうな歓喜の声を、姉妹揃って出していました。
ああ二人とも、食べながら喋るとこぼしてしまいますよ。
「くへへへ、なによりエプロン姿のりおねぇがホンマ極上の糖分やでぇ」
「むむ、私なんかが似合わないですよ」
「謙遜するなぁ、そんな慎ましい乙女みたいに恥じらって、ウチの糖分追加する気かいな」
「ねえ写真撮っていい? 連写するだけだから」
そう言いながらもこちらの了承を得る前に、鼻息を荒くし行儀悪くカシャカシャと音を鳴らしていました。
その元となるスマートフォンはどこに隠し持っているのですかね。恵理子の盗撮スキルが実際の犯罪でも通用しそうなほど高過ぎます。
「恵理子ばかりおんぶに抱っこでは気が引けますからね。お二人の舌に合うようで、作った甲斐がありました」
「莉緒の手が込んだものなら、ポイ捨てしたゴミでも美味しいよ〜」
「えりねぇ食事中に気色悪い話すんなや」
「ははは……」
調理時、カゴに捨てておいたゴミとなった物は持ち帰った方が賢明ですね。
そして三人協力して片付け、パジャマを返却して着換え、玄関で靴を履きました。
「お泊り会すっごく楽しかったね! また配信休んでお泊りするのもいいかも」
玄関ドアの前で、にこやかに見送りに来た恵理子。
こちらも十分楽しめましたよ。ただ、恵理子と二人だけの空間では自分を保つので精一杯でした。
百歩譲って合意を得られたとしても、私のようなたかだか平均的な者が卑劣にも寝込みを襲うなんて無茶な話だと学習しました。
「お世話になりました。またいつか、恵理子の家で寝泊まりしましょう」
「また私? 莉緒のお家は良くないの?」
「私のとこは……家族仲もありますし……」
「そう、そうだったね」
恵理子は難色を示したものの、納得した様子でした。
能力だけを見て、私のことを不出来な娘と貶してくるお父さん。
能力以外を見て、私のことなのに毎日の学校生活を心配するお母さん。
私のせいで夫婦の溝は深まり、離婚の話さえ持ち上がった記憶がありますが、それでも私にはどちらも敬っている親であり、もう両親が求めているような孝行は出来ませんが、ずっと健康でいて長生きしてほしいと切に願うかけがえのない人です。
……こうした家庭の事情もあって、恵理子の招待は困難なのです。
「りおねぇえええ!」
下の方から声?
そこには、今生の別れのように私の足にしがみついて惜しむ良子さんがいました。
「また遊びに来てなぁ! 今度お泊り会したらウチと入籍する約束やでえ!」
むむ、子供には早過ぎる約束を無断で取り付けられるとは如何に。
「だから莉緒を困らせちゃダメだってばぁ。じゃあまた配信で会おうね〜」
「はい、また後程に。街へと攻め入る時を待ち遠しくしていて下さい」
小野寺姉妹から仲良く見送られ、エレベーターから地上へと降り立ちました。
……一日ログインしないだけで、ゲーム内の仲間の安否が心配ですね。
これはまあ、とことんBWOに魅入られてしまったものです。
夜になったら、掲示板に目を通しておさらいしてから再開しましょう。
ホンマ脇道それてばっかですんませんでした。
次回は本編に戻る……前に掲示板回を挟みます
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