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えりりよよし・お泊り会 その4

 怒涛の連続更新

 百合注意

 私の寝間着は恵理子が責任を持って洗濯するために回収し、代わりに薄ピンク柄の寝間着を着せられました。


 サイズの方は、下着含めピッタリです。

 しかし、一件落着ではありません。


「恵理子の寝間着……それを私が着て……」


 袖の辺りを嗅いでみます。

 ……微かですが、恵理子が急接近した時と同じ香りがしました。

 まあ長年使われたのなら、匂いが移ってもおかしくないですよね。


「あ……いけません……どうして……」


 ですが、一度嗅いだだけで色情の自制は効き目が薄くなっていきました。

 嗅げば嗅ぐほど胸が火照り、鼻への距離が段々狭くなる。

 理性を普段以上に高めて拒めば拒むほど、もっと嗅いでいればいいじゃないかと内に潜む魔女が囁いてきて、自分の力だけでは陥落してしまいそうです。


「んっ、ふぅっ」


 ついに抗えず、両袖で鼻を覆ってしまいました。

 呼吸するほどますます熱くなり、もっともっと意中の人の匂いを堪能したくてたまらなくなります。


 嗚呼、誰か、こんなふしだらな私を止めてください……。


「莉緒〜っ。やっと二人きりになれたね〜」


 屈服しそうになった意識から醒まさせてくれたのは、背中から抱きしめてくる恵理子でした。


 リビングのソファーで熟睡してしまった良子さんを寝室に運んで、つい先程戻って来たようです。


「寝間着の件、対処してくれてありがとうございます。私達もそろそろお開きとしましょうか」


 恵理子相手といえど、睡眠時間は十分確保したいので。

 無論、自分の枕は忘れずに持ち込んでいるため、枕の高さから眠れないなんてことはありません。


「んー、でも莉緒と内緒話とかしたいしなぁ。私の部屋に行こうよ」


「恵理子の部屋ですか!? 私が!?」


 良子さんに押されて侵入した際に目にしたあのトラウマの光景が過り、股の辺りから寒気が走り浮き足立ってしまいました。


「なんか思ったのと違う変な反応。どうしたの?」


「いいいえそんなことは……、恵理子の部屋には今すぐ入りたい気持ちでいっぱいですので」


「アッ!! 今すぐはダメー! お願い莉緒、そこで待ってて」


 そう言い一足先に自室に入った恵理子。


 部屋の中からは騒々しい音が途切れることなく鳴って、時には微小な揺れすら起こり、来客用の内装に仕上げているのが想像できます。


「ぐへへ……危なかったぁ。どうぞ入って〜」


 額の汗を拭いながら、部屋から覗かせた疲労感のある恵理子の顔。

 どうぞと言われましても、あのホラーハウスに突入するのは吸血鬼の体だとしてもゴメンですよ。


 どうすればいいか目を瞑って迷っている間に手を引っ張られ、恵理子の部屋に閉じ込められました。


「……おや」


 目を開けると、壁はクリーム色に近い無地で写真一枚とて貼られていません。


 ふむ、知られたら困る趣味として片付けたのですね。私も知らなかったことにしたかったのですが、あの大量の写真がどれかの引き出しかベットの下に詰まって……忘れるべきです。


「では、私はこの辺りで布団を敷きますかね」


「ノンノン、莉緒はこっち」


 そう傍らにあるベットを指差しました。


「いえ、私が使わせてしまえば恵理子の寝る場が床になってしまいますが」


「だーかーらー、私が莉緒のお隣に入るんだよ。にぶちんさんっ」


「……そもそも一人用のベットですよね」


「詰めればいけるでしょ。あ、ひょっとして寝相の心配してたの? ノープロブレムだよぉ、ぐへへぇっ」


 恵理子は、それはもう屈託のない笑顔で誘導し、私をベットに倒したと同時に、マントのように掛け布団を翻して添い寝の姿勢となっていました。


 結局ムードに流されてしまったよりも、まず知覚した状況があります。


「あっ、ひゃあ、恵理子っ!」


 部屋内は恵理子の空気で支配され、恵理子の香り沸き立つベットに包まれ、しかも真横には恵理子が私に密着している。

 その恵理子は私の耳を咥えては日中の時と同じように私の胸や脇などを弄っていて、手を払いたくても、パジャマ姿となった蠱惑的な想い人が隣にいるのを感じ取って力が緩んでしまう。


 恵理子に恵理子を掛け合わせ、恵理子を隣に備える恵理子尽くしの寝床。

 数々の条件が重なった末に転がり込んできた至宝の楽園を、よりいっそう味わい尽くしたい気持ちになります……。


「ぐへへへぐへへへ。今日はリスちゃんみたいな弱々莉緒だねぇ」


 むぅ……私自身も恵理子に染め替えられてしまいそうです。

 肌と肌が触れ合う度に全身が悦んでしまう。これで落ち着いて寝られる方がどうかしてますよぉ。


「恵理子……私、これ以上ここにいると我慢が効かなく……」


「んすううううぅぅぅ。くっはあぁ♡」


「……あのですね」


 恵理子は私の鎖骨辺りの匂いを嗅いでは、至高のスイーツを食した時のように恍惚となっていました。


「莉緒でキメながら寝るの、一度でいいからやってみたかったんだ〜。()いぃぃぃ」


 ついに私は、吸引タイプの麻薬と同一の存在だと認定されたらしいです。


 そんなに中毒性があるのは、あなたの方でもあるのに……。


「もういい加減にして床について下さい。寝ない子は育ちませんよ」


「やだ。莉緒とお泊りイチャイチャ大会はこれからが開幕戦だから、寝れないよぉくぅ……くぅ……」


「おや、しっかり眠れてるじゃないですか。ふふ、おやすみなさい」


 恵理子のここまで迸らんばかりの欲求に反し、一瞬にして静かな寝息を立てていました。


 こちらは一睡も出来なくなりそうな危機でしたのに、割り切りが早い優等生です。

 狸寝入りではないか試しに頭を撫でても反応を示さず、マシュマロ同然の頬に指を押し込んでもくすぐったそうにもしていない。


 もしや恵理子が寝ている今なら、何をしても許されるのでは……?

 なるほど。


「い、いきます……」


 恵理子の両頬を手で挟み、そっと顔を真上に向かせます。

 暖色系の明かりに照らされた恵理子の寝顔が視界に映りました。


 ……あなたのだらしない表情はいつぶりでしょう。

 酸いも甘いも未経験そうなあどけなき寝顔に「とてもかわいいですよ」と声をかけたくなる。

 次は、艷やかな唇に視線を落とす時です。


「む」


 見れば恵理子は髪や枕にかかるほどよだれを垂らしていました。

 気付いてしまったからにはティッシュで拭き取りましょう。


 さて、恵理子を迎える準備はバッチリです。


「……本当に眠っているんですよね?」


 恵理子の意識は夢の中なのに尋ねてしまった私は何を自爆行為をしているのやら。

 いいえ、このままでは歯止めがかからなくなると無自覚の内に察知し、恵理子には目を覚まして欲しかったのかもしれません。


「くぅ……ぐへぇ……」


 寝言までそんな不審さを貫けるとは、どんな状態でもいつもの恵理子ですね。

 そちらの方が、より私の望む所まで踏み入ることが可能です。


「私の前で無防備になった恵理子がいけないんですからね……」


 破裂しそうなほど動悸が乱れ、両腕がぷるぷると震えてゆく。

 ごめんなさい恵理子。恋焦がれる人を自由にしていいとなると、一時間しない内に負けを認めてしまうのが、不道徳な平均的女子高生の私なのです。


「口づけ……それが許される……」


 これは私が収まるためにするのであり、既成事実さえ作って自分の一生を安心させるために行うのです。


 あとたった数センチ、頭を近づけるだけで……眠り姫の恵理子と唇を重ね合わせられます。

 ふふ、うふふ、未練無きお泊り会となりました。


「くぅ……。また遊びに連れてってね、蓮太(れんた)くん……」


 ……え?

 恵理子の口から、男の人らしき名が?

 どなたなのですか、それ。

 クラスメートには該当する名前の方はいませんが、つまるとこ配信関連で知り合ったリスナーの方なのか。


 まさか、恵理子が寝言にするほどの慕う相手では……。

 ああやはり、線引きがしっかりしているのは確かなのですね。

 どうせ私の予想は的中しています。

 恵理子は花の女子高生ですから。

 都合の良い理想を追い求める私と異なり、計画性をもって生涯を共にする殿方を選んでいるのでしょうね。


 ……ならば私との関係は、ただの息抜きに等しいだけ?

 あれだけ変態的な感情を向けているのも、同じライブ配信者になろうと誘ったのも全部、浅くなくとも深くは無いと?

 嫌です。絶対に認められません。

 私を本気にさせておきながら、コソコソと別の人に乗り換える支度をしてるだなんて絶交ですよ。


 うぐ……、胸や頭がひどく痛くなって、上手く呼吸することさえままならなくなりました。


「っ……っ……」


 こうしてみると、私ってば昔からどこも成長してませんね。

 大切な人が、どこの馬の骨とも分からない他人の手によって汚され傷物にされてゆくのが実に気に食わないのです。

 あの時は唯一人の友人のため、しかし、今この時は唯一人の自分のため……。

 ふふ、成長どころか劣化していますね。

 何故なのか、慕わしく愛おしい私だけがよく知っている恵理子が、私の目の届かぬ所で"知らない恵理子"になっていたのですから。


「恵理子おっ……!」


 どうして、視界が霞んできました。

 あなたが裏切りまがいの隠し事をしてくれるなんて、そんな現実到底受け入れられません。


「その無責任さが、どれだけ残酷なのか分かっているのですかっ!」


 深夜帯なのに思わず怒鳴ってしまいました。


 やはり私は、自分中心に生きているだけの独りよがり未満なのです。


「ねえ莉緒、泣いてるの?」


 いつの間にか、恵理子が目を醒ましていました。

 私から流れ落ちてゆくひんやりとした涙が顔に当たり、その拍子で微睡みから引き戻された模様です。


 寝起きだとはいえ我慢なりません。聞き逃がすなど愚の骨頂です。


「恵理子。蓮太って人、一体何者なのですか」


「私のパパだよ。物心つくまではそう呼んでたんだ。変でしょ」


 そう半開きとなった目で答えてくれました。


 私は、恵理子のお父様に嫉妬していたのでしたか。

 墓場まで持っていきたい笑い話ですね。


 そして体が軽くなったら一安心しました。

 恵理子の一番は私で揺らがないのだと。


「あはぁ、過剰に不安がって損しましたぁ……」


 また年甲斐もなく涙が止まらなくなってしまいましたよ。

 ただ、それは凍えるほど冷たい液体ではなく、温かくてしょっぱいのみの水分でした。

 いい加減次回でお泊り会終わらせますわ


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― 新着の感想 ―
[良い点] やばい、これVRものなのに…百合展開をもっと見てみたいと思ってしまう… あと全コメにちゃんと返信するところとてもいいと思います!
[一言] ふぅ……(合掌)ちょっと偏執感もあったけどそれもまたスパイス! いやさいつも冷静なりおであればむしろこれはギャップ萌えというもの…… まぁさすがにそろそろゲームも戻らんとね?w (一時は…
[一言] 実は、最初っから起きていた可能性・・・・・・
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