えりりよよし・お泊り会 その1
やっぱりリアル回挟むぜ(全部読み飛ばしてOK)
もうシリアスしなくていいんだ……
本日はBWOを休止し、恵理子発のお泊り会へと参加する予定です。
参加だとはいえ、恵理子自身の下心マシマシな要望もあり私しか参加者はいませんが。
恵理子の住まいは、都内の某マンションの2207号室にあり、私はそこまでやって来た所です。
「只今到着しました」
インターホンを押して、中の人を呼び出します。
さて、恵理子が出るか蛇が出るか……蛇なんて言ったら可哀想ですね。たとえるならば、せめてやんちゃな中型犬でしょう。
そして、扉が大音をたてて開かれ……。
「りおねぇやん!! くへへぇりっおねえー!」
快活な女の子の声。
その声に違わないお下げの少女が勢いよく飛び出しては、私に跳びながらタックルの要領で抱きついてきました。
というより飛びつく勢いが強すぎますね、腹部に伝わる衝撃により荷物を離してしまった上に、押し負けて尻もちをついてしまいました。
「いたた……いつにも増して元気ですね、良子さん」
「りおねぇりおねぇりおねぇ!!」
そう連呼するのは、恵理子の実妹である小野寺良子さん。まるでマーキングでもするかのように私のお腹に顔を擦り合わせていました。
本当に平均的女子高生を相手に遠慮が無いじゃじゃ馬娘ですね。こちらとしても立ち上がりにくいです。
「ちょっと良子! 莉緒が困ってるでしょ!」
遅れて恵理子が玄関から現れ、ひっつき虫のように離れようとしない良子さんを無理矢理引き剥がしました。
「やっ! もっとりおねぇとイチャコラしたいんやぁ!」
「どこがイチャコラなの!? 今のはどう考えてもダメージが入っちゃう系の攻撃だからね!」
しがみついてはひっつき虫のように離れようとしなかったので、この子の扱いに手慣れている恵理子のおかげで助かりました。
「いらっしゃい莉緒! 首をぐへぐへ長くして待ってたよ〜」
「えりねぇは首じゃなくて鼻の下伸ばしてたやろがい! ウチの方がりおねぇのこと三日三晩煩悩抜きで心待ちにしてたでぇ? くへへへへ」
姉妹揃って、対抗しながら私に向けて不審な笑い声を上げる様は、血の繋がりを感じられて息を詰まらせてしまいそうです。
今更ですが、良子さんの謎の関西弁はどこで定着したのでしょうか。
大阪に住んでいる祖母の実家に長期間預けられたためだと恵理子が真相不明のルーツを提唱しましたが、そこのとこは本人もよく覚えていないそうです。
「ええ、お二人ともお泊り会を楽しみにしていたようで、私も予定を返上してでも来た甲斐がありました」
……本当は恵理子と二人きりの方がより幸せでしたが、小学校低学年の子をないがしろにするのは良くないので、三人のお泊り会で折り合いをつけたのです。
なお、恵理子のご両親は共に仕事の都合上滅多に在宅ではないのだとか。それでも、寂しい思いどころか配信者として活動しやすいのだとは、恵理子の弁です。
「立ち話するのもアレだし上がってね。あんまりここにいると良子が爆走しちゃうし」
「そんなことあらへんで。というか何しれっと手繋いでエスコートしてんねん!」
「ほらね?」
「ええと、これは恵理子の方に非があるのでは?」
私の手は二つあるのに、何のこだわりか一つを取り合ってはお互い頑なに譲らない光景は苦笑するしかありません。
なので、私から両方掴んで手早くリビングに向かうことにしました。
しかし、恵理子とは歳の離れている良子さんですが、一度しか顔合わせしていないはずなのに、よくもまあこんなに懐かれてしまったものです。
とりあえず、血は争えないとでも言っておけば良いでしょうか。
「黙っていれば美人、口を開けば超美人。こんなん惚れてまうに決まってるやろぉ」
右隣で腕を抱きしめるようにしている良子さん。
ここまで得意気となって惚気られると、くすぐったい気持ちになりますね。
「ぐへへ分かってないなー、莉緒はどんなことをしてても超絶美人だから〜」
「どうして妹相手に大人気なく張り合えるのですか。みっともないです」
恵理子も、良子さんとほぼ同じ姿勢になってもう一方の腕を抱きしめていました。おかげで腕の自由が奪われ拘束されているような気分です。
ちなみに密着度は身長差もあって恵理子が勝っていました。
「莉緒を誑かそうとする泥棒猫は良子でも容赦しないよ。ま、良子よりも、莉緒といっぱい思い出作った私から誑かせるはずないけど」
「ほーん。じゃあ、えりねぇはこんなんしたことあるんか?」
そう言うが否や、背の小さい良子さんはしゃがむ姿勢になって更に小さくなっいました。
そして。
「む?」
私の手の甲に口づけをしました。
主従関係の二人が行うものを彷彿とさせるだけでなく、「チュッ」と作為的に音を立てるまでの本気さです。
「あ゛ーーーーっ!!」
恵理子、おおよそ女子校生がしてはいけないような表情と絶叫たのは、何も言うまいとしかありません。
「くへへぇん。早いもの勝ちやで?」
「ぺっして! すぐにぺってしてってば!!」
「私を雑菌か何かと思っていませんかそれ」
涙目となり動転してついに手から離れた恵理子が、勝ち誇ってご満悦の良子さんに促していました。
ですが唇を捧げられるとは、私でも驚嘆するほどのおませさんに育ってしまったものです。
果たして誰の影響で恵理子の生き写しみたいになってしまったのやら。まさか親御さんの性格まで同じでそこから受け継がれたのではないですよね。
さて、この隙に腕を休めましょうか、小野寺姉妹の目と目から飛び散る火花によって心の方は休まりませんが。
「……ねぇ莉緒、良いでしょ?」
唐突に恵理子も腕から離れました。
……が、私の正面に立っては、その端正な顔を急に近づけ始めてきました。
「な、なんですか恵理子。目が怖いですよ」
「怖くないよ。だからそんなに怯えないで」
じりじりと距離を詰める恵理子に、それより獣と化したかのように目つきがギラついていて、もう後ずさりするしか出来ません。
そのうち壁まで追い詰められてしまい、恵理子は片手を私の頭の横に……ドン! と近所迷惑になりかねない音を立てていました。
「な゛ーーーーっ!!」
「大丈夫、私が手取り足取りリードしてあげるから」
いつになく真剣に間近で囁いては、私の顎をクイッと指で持ち上げました……。
まさか、いいえいけません。
良子さんの前だというのに、恵理子が破廉恥な行為へと誘おうとするだなんて、……逆らえなくなってしまいそうです。
「バカねぇやめぇ! りおねぇのファーストちゅっちゅはウチだけのもんやぁ!」
良子さんはグイグイと恵理子を引き剥がそうと目を血走らせていましたが、これしきの腕力では雀の涙、依然として動く気配がありません。
「良子のことは気にしないで。さ、莉緒、目閉じて」
恵理子の吐息がかかり、鼻先が触れる。あぁ、頬が上気してしまいますよぉ。
甘美な響きが輪唱となって駆け巡り、私から意思という意思の支配権を乗っ取って思うがまま操作してくるようです。
「はい、恵理子ぉ……」
そんな言葉の操作に従い、目を閉じていました……。
「うん、私以外何も考えちゃダメだからね、莉緒」
「アカン。ウチのりおねぇが犬っ子風情に取られてまう」
恵理子が手を絡ませ私を求めてくる。はわぁ、幻術だとしても悔いはありません。
言葉に従って目を閉じるだけで……恵理子と重なれ、そして幸せな一時を噛み締められる。とても抗い難い誘惑です。
ですが、正気を取り留めている内にはっきりと申すべきでしょう。
「……やはりいけません! 止めて下さい!」
「ふぇ!?」
私としたことが、勢い余って両手で強引に突き飛ばしてしまいました。
そのせいで恵理子が抗議するような、悲観するような眼差しを向けています。もう少し落ち着きを回帰させてから行動するべきだったでしょうか。
……非常に惜しかっただのと過去や未来を振り返りはしません。今言葉にするのみです。
「こういうのはおふざけからではなく、正式な交際を経てから行うものですよ……」
どうにか思いの節を紡げました。
その言葉に一切の濁りを持たず、恵理子のお誘いを不意にしてしまった件の謝罪のイントネーションを含めさせた、つもりです。
言葉こそ伝えきれましたが、あと一息といったタイミングで拒絶したような行動は許されざるでしょうね。
……嗚呼、もう終わりです、嫌われたかもしれません。
「かわいい」
「かわええわぁ」
「結局真面目になっちゃうところが、莉緒のチャームポイントなんだよね」
「すごく分かるでぇ」
不安視していましたが、そこは姉妹。似たような言葉や仕草で応じ、互いに目を合わせては共感し合っていました。
さて、このお泊り会、予想以上に悩ましくなりそうです。
お腹いたたた
お腹いたいた




