村人阿鼻叫喚&つくづく皮肉
これ以上批判とかがあったら丸々差し替えも検討しませう。
彼らのとった行動こそが、人間という最も正義に近い生き物の善しき有り方です。
とても満ち足りた気分になりました。
「ふむ、受け取りましたか。では帰り道お気をつけて」
「たまには見直したぜ、RIO。恩に着る」
そうニタリと笑いながら背を向けるリーダーに、手を振りながら見送りました。
完全なる交渉成立です。
反故にして襲撃し返す気配すらありません。
この鳥肌が立ちそうな行為を配信していたらと思うと惜しいところでしたが、彼らとの秘密にして、胸の内に収めておきましょう。
さて、村人達の元に戻りましょうか。
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「うわああああっ!」
「なんで! RIOがなんでぇええ!」
「冒険者様はどうしたの!? 助けに来たんじゃなかったの!?」
これはまあ、遠巻きから眺めていた村人達は一様に同じような反応です。
そうでしょう。頼みの綱である冒険者一行が、この長くも短い時間で不俱戴天の敵に懐柔されたのですから。
「ようやく分かりましたね。このように、冒険者なんて人質一人救う気概すら我欲だけで抹消させられる連中です。つまり、個人差はあるでしょうが、信頼していられた冒険者達とは、所詮金の誘惑に負ける"人でなし"なのです」
「いやっ! いやああっ!!」
「殺されたくないよおおお!」
ううむ、こちらの聞く耳を持たず、耳を塞ぎたくなるほどの阿鼻叫喚が始まりました。
それに、偶然でしょうがルールの穴を突かれました。全員が同時に騒ぎ立てたら、どなたを生きて残すかが判断つかなくなります。
「静粛に! 泣き叫ぶだけ寿命がゼロになると忘れたのですか!」
恐怖が限界に達して狂騒状態となった村人達に喝を入れました。
……ですが、私にも甚だ甘いところがあったと判明したのは収穫にしましょう。
この私が少年一人に対抗心を燃やし、使用用途があまりないとはいえ所持金の6分の1を投げうつとは、精神的な修行が足りていませんでしたね。
まあいいでしょう。
「この少年の思想は、時に正しくあり、時に危険にもなる凡例です。金を積まれて動くということは、金を積まれれば動かなくなるということ。ヒーロー気取りをいくら持て囃そうが、早かれ遅かれ泣きを見るだけなのです」
そう述べると、村人は誰も彼もが嗚咽を濡らしました。
ボスさんも、言葉にできないといったような目つきです。
「だから強くなるしかありません。たとえ来訪者よりも弱くなければいけない定めだとしても、この創られた弱肉強食の世界で身を守れるようになるには、日夜鍛錬を重ねるのが方法の一つです。……平均点にすらなれないでしょうが、もうそれしかないのです」
「そんな……こんな……」
浅はかにも気づかれないとでも違えているのか、小声で呈していた少年へと近づいてみます。
「ほんの一例ですが、教訓になりましたか? ええと、ぼうやの名前はファラ君でしたね」
「こんなの嘘だ! 冒険者さんがぼくたちを見殺しにするだなんてことは!」
「二度目は無い。そう言ったはずです」
「あ、あああああああああぁぁぁぁ!!」
残念ですが、私の敷いたルールに従いましょう。
手順は簡単。片手剣へと変形させ、逃げ道が無いのに哀れにも逃げようとする者達へ、眷属達が水を差すより圧倒的に速く駆け回り、全員の首を平等に、極小の手心を加えないまま、断末魔の叫びをあげさせずに物言わぬ屍にするだけです。
「……萎えてきますね」
でしたが、変形まで進んだ途端、何故か興ざめな気分となりました。
村人達の処刑のことではありません。人質を背にして戦うことについてです。
こんなだまし討ちもしないほどしたたかではない冒険者相手に、どうして人質を利用する作戦を取らなければならなかったのか。思案すればするほど私まで軟弱者へと錯覚してきます。
「気が変わりました、これから皆様に二つの選択を与えます。制限時間一分の間に私に立ち向かうか、この場から去るか、速やかに決めて行動で表して下さい。さもなくば……」
「逃げっ! 逃げえええっ!」
「嫌だ嫌だ嫌だ!!」
悠然と脅しつけると、村人達の大半はこの広場から走り去る方を選択していました。
取り囲んでいる眷属達は、道を譲る者、一貫して直立不動な者、ぶつかってしまい川に突き落とされる者など様々でしたが、指示通り殺害まではしていません。
「みんなぁ……」
一分が過ぎようとした時には、一人だけが残っていました。
ですが刃は向けません。
「……」
よつん這いになって項垂れるファラ少年。
私のような強大な存在に口答えする気骨は目を見張りましたが、同じ子供でもエルマさんほどのおつむはありませんでしたか。残念です。
「何を罪悪感に打ちひしがれているのですか? あなたがルールを破ったから皆処刑されかけたのではありません。私が殺そうとしたのです。業は私が請け負います」
「いひいいい!!」
「さあ、私を罵りなさい! 批難しなさい! 心強い者に頼れなくなったあなたに出来ることは、それくらいなのですからね」
「冒険者さああん! ぼくはここにいるんだ冒険者さああああああん!!」
ファラ少年は脱兎の如く走り、先程信用ならないと立証させたはずの冒険者へ、助けを求める声を叫び続けるだけでした。
彼はまだ弱い人間ですね。頭の中では現実を把握していても、ゴブリン一匹倒せる力が無いまでにひ弱なため、幻想となったヒーローへ縋るしかないのです。
つくづく皮肉です。
「RIO様、今日は一段とこえぇよ……」
一番瞬きを繰り返しているのはボスさんでした。
「人質がいなくなってしまった以上、留まるだけ時間つぶしにしかなりません。朝となる前に洞穴へ戻ります」
「へ、へいっ!」
眷属達にもまとめて指示し、この不毛の地から退散しました。
今回の襲撃、得たものは少なく、総合的には損でしょう。
しかし、あれは合理のために挑発に乗った訳ではありません、本質的には余興です。高い授業料を払ったとしてみれば、充実感溢れる結果と言えましょう。
……うふふ、爽やかな気分のあまり、足取りが軽くなりました。
力を行使しない勝利とは、興奮の鼓動が鳴り止まなくなるのですね。
「――辻褄合うように報告すっから、俺の取り分だけ50万にしてもいいよな」
「はぁ!? ふざけんな!」
「ぶっ殺すぞ! 道中エネミー16体倒した俺が50万だ!」
おや、先程帰らせた冒険者達四人の怒鳴り合う後ろ姿を視界に収めました。
見かけたからには武器を構えましょう。
「再び会いましたね、人質はもういません。ここからは犯人ではなく、冒険者の天下を脅かす吸血鬼RIOとして、存分に死合いましょう」
「ん、RIO……? ごぎゃっ!?」
「ちょちょ、帰してくれるんじゃあげげげ!」
この街の外において冒険者と私が目を合わせれば、どちらかの命尽きるまで戦うしかありませんので。
不意を突かれた四人は、特筆すべき点もなく全滅しました。
「え、村まではまだ全然距離が……ひょぼっ!」
「クッ! コソコソ隠れてるエネミーはゴブリンか! ……RIOお!?」
その後もまた、人質は殆どいなくなったとは夢にも思っていない冒険者一行を、見つけざまに交戦しては経験値に変えました。
まるで余裕なのも、ボスさんの百発百中の射撃の援護のおかげでもあります。これしきの相手なら一人でも蹴散らせるでしょうが。
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《レベルが65(上限)に上がりました》
《カルマ値が下がりました》
《冒険者ギルドから懸けられた賞金が2150万イーリスへと修正されました》
《冒険者ギルドから懸けられた経験値が20,011,445へと修正されました》
《レベルが規定値に達したため種族進化が開放されます》
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今回分かったこと、村を襲うと好感度が下がる
眠気が凄いことになっとる




