村人大移動&信頼
リアルで執筆してることバレた
「なんだってえ!?」
「全員だとっ!?」
「わたし達みんな死んじゃうってことなの?」
「破った者以外、って聞き間違いか……?」
村人達はどよめき立っていますね。
これこそ、村人の連帯感をより強めるための、私が考案したオリジナルルールです。
一見、真っ先に破った者が得をするような矛盾した掟ですが、そんな甘い話ではないと伝えましょう。
「無論ながら、生き残った一人に対しては無償で解放致します。まあ言うまでもありませんが、村の住民を売って自分だけ助かろうとした賎しい者に、居場所や帰る場所なんてどこにも無いとはご承知おきを」
全て配信で中継されていますからね。配信を観ていた冒険者により、残り者が冒険者ギルドにより数万の懸賞金を懸けられるかもしれません。
「あわ……あわ……」
「従う……従うよぉ!」
「終わりだ……どうせ俺達は……」
「どうかぁ、冒険者様ぁ……」
これはこれは、人が密集すると動揺が伝染しやすくなりますね。
まさに求めていた反応が得られて、こちらとしてはとても刺激的な配信になれそうで喜ばしいです。
『救いはなかった』
『無慈悲なルールだった』
『まったく慇懃無礼な大悪党だなぁ(褒め言葉)』
『こんな配信する奴、世界広しといえどもRIO様だけだわww』
『さすがは我らがRIO様』
『そこにしびあこ』
おお、かつてないほど視聴者様に称えられました。
――このルールは、私自身への挑戦でもあります。
村人達に恐怖を浸透させ、ルールを破らせないように出来るかの度量を試すためです。
人質が一人だけとなれば、救う価値なしと冒険者ギルドはクエストを棄却するでしょう。
一度のミスが破綻に直結するのはお互い同じ事。これなら観ている方々にだって手に汗握る緊張感が齎されるでしょうか。
「ここでは、建物や遮蔽物が多くて直接的な戦闘には不向きですね。これより全員、場所移動を行います」
「ど、どこへなんだRIO様?」
ボスさんが、この場の者達の意見を代弁してくれました。
「北の森です、開けた場所があればベストでしょう。地理に詳しい者を先頭にします」
そう説明し、村長と思わしき男性を指名して人の群れの前に立たせました。
布陣も決定しました。
フラインは村人達の上方に滞空させつつも冒険者達の目印にならない高度に、側面の守備は眷属達に任せ、私とボスさんで後方です。
「おぼぼぼ……!」
「村はどうなってしまうのだ……」
「無駄口を叩かないで下さい」
「ぅ」
彼らはまるで断頭台に並ぶ死刑囚のようですね。
ですが彼らには死ねと言われるほどの罪はありません、私にのみ業が降りかかります。
冒険者の場合は罪をなすりつけるでしょうが、私はそんなつまらない事はしませんし、やり方自体分かりません。
私だけが、マイナスのカルマ値という十字架を引き受けましょう。
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―――――――――――――――
エネミー名:ハイゴブリンアーチャーLv50
状態:正常
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「出たあああああ!!」
「こっ、殺されちまうう!」
眷属の一人が直立不動となった後に倒れたかと思えば、その先には人型で緑色の肌をしたエネミーが弓を引き絞っていました。
数はおよそ十体、取り囲むような動きはせず、几帳面にも等間隔で横並びとなった陣形です。
【ハハハハ! オレの最強の気弾に敵はない!】
一方でフラインは、飛んでくる弓に合わせて気弾で弾き返す離れ技を披露しましたが、敵は複数体いるために一斉射撃には対応しきれていません。
「森ならエネミーは出現しますよね。皆様、移動は一時中止です」
いくら何でも、エネミーの矢面に立たされながら歩かせるほどスパルタ女子高生ではないので、即刻掃討しに向かいます。
武器は魔装爪にします。遠距離主軸の敵にはなるべく早く距離を詰めるのが、近距離主軸の常套手でしょう。
「獲物は私です。かかってきなさい」
敵の注意を引き付けながら、中央に躍り出ました。
「はっ、はああっ」
蹴り、跳び跳ね、木々を伝って縦横無尽に跳び回り、エネミー達を翻弄しながら一体ずつ屠ります。
獣の動きでも、狼よりは猿を手本とした方がやりやすいのかもしれません。
「計七、八と」
とはいえエネミーらのDEXは高いようで、的確な弓さばきにより、腿や二の腕、関節に矢が刺さる不覚をとってしまいましたが、これしきで動きが鈍るはずありません。
相手を猿と似た霊長類などではなく、吸血鬼だと念頭に置いて頂きたかったものです。
最後のハイゴブリンアーチャーを回転蹴りで倒したので、刺さっている矢を抜きながら元の位置に戻りました。
「さて、血臭によるともうエネミーはいないようです。移動を再開します」
そう宣言すると、村人達は安堵の表情からひどく血の気が失せた顔色となりました。
別に村人達は多少なら脱落しても構いませんが、棒立ちでエネミーに屠られる位なら眷属化させているので、犠牲は必ず防ぎましょう。
……大分奥まで進んだ時、楕円形に開けた場所に到着しました。
小さな川で覆われ、橋までかかってあり、ちょっとした広場になっているこの場所は、まるで人の手が加えられて作られたようです。
「ここですじゃ……お気に召しましたか……」
「道案内ご苦労様でした。楽にして下さい」
村人達をまとめ、休憩するよう促します。
アンデッド集団に囲まれていれば到底気が休まらないでしょうが、これはそもそも待機させるための方便です。
《血臭探知》は解除せず、フラインは地上に降ろし、周囲の警戒に当たらせます。
「ふぅ」
しかし、ギルドからクエストが発令されるまでは必然的に時間がかかりそうです。
眷属達が空の下で動ける夜の時間は限りありますからね。冒険者ギルド側も、人質の命は朝までだと独自解釈して欲しいところですが……。
「お助け……助け……」
「冒険者様ぁ……」
「皆案ずるな、きっと冒険者が何とかしてくれる」
ふむ、祈るような仕草をしている村人が、うわ言のように冒険者というワードを呟いています。
その冒険者を迎撃してリートビュートの戦力を削ぐのが今回の目的なのに、どうしてこうも冒険者に祈れるのか。
「全員、口を慎みなさい」
打破する策でも練られたらいけないので、村人達には再度無言となって頂きました。
「独り言として聞き流しても構いませんが、冒険者が来るまで話をします」
率直に暇なので、この際自己満足の疑問を投げかけてみましょうか。
『話って何だ』
『ろくな話じゃないんだろうなぁ』
『あ、RIO様カメラの方向いた』
『なるほど、俺らに向けての話か』
……そういうことにしましょう。
「あなた方がどうして偽善者でしかない冒険者を信頼出来るのか、私には釈然としないのです」
村人全員は未だ気圧されているようで、指示通りしぃんとしたままで返事はありません。
続けましょう。
「冒険者の政治は、自分達だけに都合の良いように世を作り変えているも同然です。あなた方アーカン村の方々も、法外なまでの重税によりみすぼらしい生活を余儀なくされているはずですよね。食べ物にありつけるのもままならなくなる疫病とも揶揄される冒険者を、救国の英雄のように信頼出来るわけでもあるのでしょうか」
この村もまた、冒険者ギルドによって平和で安穏とした日常が蝕まれているとの情報を視聴者様から得ていたので。
事実として、この村には玉石混交なAランクを中心とした冒険者が用心棒のように駐留していました。
「冒険者の頭には、金か正義ぶるかしか詰まっておりません。こうした難事において、堕落しきった者へと全幅の信頼を寄せるのは愚か者がする選択のはず……」
「信頼出来るに決まっているよ! 冒険者さんを!」
すると、前列で座っている日焼けした少年が立ち上がって、変声期の訪れていない声で答えを述べていました。
「ちょっとやめなさいよファラ!」
「おっかない冒険者さんのせいで、父ちゃんは毎晩毎晩働かされてる。母ちゃんだって、お腹が空いてるのにぼくにご飯を譲るんだ。これも村のみんなが稼いだ金を、冒険者ギルドっていうとこに献上してるからだって父ちゃんが教えてくれた。でも……何だっていうんだ!」
この少年は、周囲の制止を意に介さずに喋り続けていました。
「口答えの許可はしていませんが?」
「村が貧しくなるから何だ! お金をふんだくられるからどうした! その冒険者さんのおかげで、ぼくらの村が護られているんだからな!」
「ファラ、もうそのへんにしないとおいら達……」
「戦えないぼく達には冒険者さんが必要なんだ。どれだけお金を取られても、怖い魔物を退治してくれるならそれでいいだろ! 冒険者さんを悪く言うなーっ!」
「誰かファラを止めろおおおお!」
ついに我慢ならなくなった村人達により、ファラという少年に束になって抑え、口を塞がせていました。
仲間内で揉めたあまり秩序が崩壊するのは、愚かであるとの一言でしかありません。
「そこまでです。皆様、その少年から手をどけなさい」
私は――どういうわけか、少年のために彼らを咎めるような指示を下していました。
不思議ですね。この少年の冒険者に対する盲信的な話を聞いているだけで……。
「ふふっ」
クスリときてしまいます。




