表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/201

侵入&猛攻

ガロウ系主人公(ボソッ

 中は照明器具により真昼時のように照らされ、ロビーの内装を一瞥すればロココ調の多数のテーブルが並び、壁には依頼の紙が所狭しと貼り付けられ、正面には斡旋所となる受付がありました。


 人数は受付にいるギルド職員が四と、冒険者らしき人が七で、意外にも住民NPCは一人もいないですね。

 この人数差では無策で挑みでもすれば圧倒的に不利です。

 今はまだ挑みませんが。


「おっ。なんか女の子が来てるぞ」


「まさか連中から逃げきったのか? 親はいなさそうだがどうする」


「とりあえず奥の部屋に避難誘導させれば?」


「俺カルマ値欲しいから頼ませてくれよ」


 無垢な子供だと思い込んでいるのか、私の素性に全く気がついていませんね。首尾は上々です。

 そもそも聞き耳から得た会話内容から推察してみれば、首謀者が何者かすら掴めていない体たらくなので尚更です。


 特に視聴者様の案を呑んで、がらんどうのインベントリに初心者用の短剣を収納したのが決め手でした。

 いたいけな少女が凶器を軽々腰に携えているなんて違和感がありますからね。

 ちなみにインベントリは、現状の私だと合計50個までのアイテムを別の空間へと保存できる優れものシステムです。


『RIOの戦闘力を少しでも削ぎたかったのに……』

『↑こいつやっぱ騙そうとしてたじゃねえか!』

『武器しまえとか怪しいと思ってたわw』

『おかげでRIO様身バレしてないぞ。ありがとさん』

『回り回って手助けしてて草草草』


 ……次回以降は惑わされないよう注意しましょう。


 私が即興で立てた作戦とは、無関係の者を演じながら内部の戦力などの情報を調べつつ、眷属の皆様の突入に乗じ、アンデッドから遁走するふりをして一息に中核まで忍び込み、王将である『ギルドマスター』なる人物をこちらの味方に引き入れて達成です。

 勝算があるかどうかは、私の一挙一動全てにかかっています。


「いえお気遣いなく。私は冒険者に興味があり、自分の意思でやってきたばかりなので」


 ここは一貫して嘘ではない事だけ喋りましょう。

 万が一、この中に嘘を容易に見抜けるような手練れがいれば水の泡、警戒しすぎに越したことはありません。


「えっ! このタイミングで冒険者に!?」


「ちょいちょい、嘘だろ!?」


 私が穏やかに口にしただけなのに、冒険者の方々が一様に驚いてざわめき出しました。

 そこまでおかしい事でも言ってしまいましたかね。


「おいおいおいおい、それだったら真っ先にこのオレへ話を通すのが常識ってもんだぜ」


 人一倍図体と態度の大きい粗野な男性が、下品な笑みを浮かべながら私の前までずかずかとやってきました。

 向こう傷が細やかに刻まれた相貌からするとベテランの冒険者かもしれません。

 外見の分析はさておき、ゲーム内では誇り高き信念のもと冒険者として活躍するエリコのように、どうせなら全力を出して戦っても満足いくであろう御方だとなお良いですね。


「誰ですか、あなたは」


「オレはこのはじまりの街じゃ五本の指に入る実力者なんだぜ。【Cランク序列5位・単砕暴(タンサイボウ)】、住民はオレの通名を聞けば黙って道を譲るぐらいには浸透してるってわけよ」


 聞き間違いでしょうか、いま単細胞と仰った気がしましたが、名が体を現しているのかもしれません。


 とはいえ眷属達の突入まで時間はあるはず。

 それに序列の高い者と話せる折角の機会であるため、もう少し聴取してみましょう。

 もちろん私が首謀者だと悟られないようアンデッド達とは他人事のふりをします。


「とても凄いビックネームをお持ちなのですね」


「へっ。だがお前が冒険者志望なら今は諦めろ。成りたてのDランクじゃいま外で起きてる事件への戦力にならないからだ」


「はい。私が出張ってしまえば却って被害を広めるばかりになるのは重々承知です」


「聞き分けがいいなぁ。外じゃ変な奴らが好き勝手暴れてるらしいが、オレ様にかかれば一捻りよ。だからお前は大人しくログアウトするのを勧めるぜ」


 なんだか私が冒険者の一員になりたがっているような流れですが、ここはあえて否定せず興味深そうに演じていきましょう。


「そうとう腕に覚えがあるのですね。あなたが戦地へ向かわないのは指示待ちだからですか」


「いいや、クエストの報酬がどうなるかを待っているからだ」


 なるほど、確かにより大きなメリットのために武器をかかげるのは特段変ではない思考でしょう。

 普段の冒険者はギルドから恒常のクエストを受注し、成功報酬となる金銭やカルマ値を受け取りつつランクと序列を高めるのが基本となりますからね。


「ですが、敵だって黙って指をくわえているだけではないはず。もう敵が目の間まで迫っていると想定して入り口で待機するなり備えようがあるのでは」


 もっともらしいことを言い、この実力者を外に誘導させましょう。

 上手く乗ってくれれば嬉しいのですが。


「――バーカ、分かってねぇなあ。天下万民を護る俺達正義の体現者にかかれば、こんな些細な騒ぎはいつでも解決できる。だったらもうちょいギルドにいて詳しい報酬を確認してから動く方が得だろうが」


「……うん?」


 思わず素っ頓狂な声を発してしまいました。

 正義の体現者と自称していながら、やる事はまるで傭兵のように有事の際でも利己主義を掲げて行動を選択するなどと完全に矛盾した会話内容でしたので。

 もう少し訊きましょう。


「ですがそうこうしている間にも外では犠牲者が出ていますよ。それでも被害を見過ごすなんて、心が痛んだりはしないのですか? 正義のヒーローさん」


「心が痛む? バカじゃねえのか」


「はい?」


 いけません。

 私が冷静さを欠いてしまってどうするのです。

 一個人のエゴに動揺させられ目的を見失った結果、段取りが破綻するのは論外なのですよ。


「いいか、街の住民共はオレ達冒険者様のおかげで魔物からの被害が遠のく日々を過ごせている。だからオレらが一銭でも多く得するようにお膳立てするのが当たり前ってやつよ」


「はあ」


 ……反吐が出るほど恩着せがましい論ですね。


 エリコ以外の冒険者はいかなる善性な者なのかを知りたいがため、この人を代表にさせ喋らせてみたらこの始末でした。

 話しぶりからして、私と異なりNPCをただのAIと考えず実在の人間同様に置き換えているのがなおタチが悪い。


「住民共は偉大な冒険者様に救われ生活を保ててることに感謝するのが道理。そんで恩返しのために身を削ってでも奉公し崇め奉る。アホでも出来るギブアンドテイクだぜ」


「そうですか」


「まあ命張って苦労してるのはオレ達だけなんだし、当然といっちゃ当然だよな。ガハハ」


「は、はは……」


 痛覚が機能していないはずなのに頭痛がしてきました。


 これを誇らしげに語れるのがすこぶる胸糞悪いというもの。

 最も酷いのは、ここにいる彼以外の冒険者や受付嬢の面々が訝しむどころか賛同するかのように黙って頷き感心している表情を醸し出している異常な光景です。

 想像したくありませんが、もし彼ら冒険者がアンデッドの殲滅にでも成功したのなら、勝てば官軍とばかりに正義を遂行した英雄として持て囃されるのだと思うと虫酸が走る。


 だから私は"正義"という概念が嫌なのです。

 だから私に"正義"は重荷で背負いきれないのです。

 明日にはこの件の真偽を恵理子に問いかけてみるしか無さそうです。


 そしてその過程で窓も見回していたのですが、見知った顔がピッタリ外側から張り付いていたのを目撃しました。


「ヴヴヴアアアア!!」


「血イィィィ!」


「RIO様ァ……お待たせいたしました……」


 その時、全ての窓ガラスが一斉に割れ、出入り口の扉は全開になって解き放たれ、ついに眷属達が到着し突入を開始したようです。

 しかも暫く見ない内に数十体もの大所帯へと様変わりしています。


「どえええ!? なんだこいつらは!?」


「化け物だぁ! あいつらここも狙ってやがったんだ!」


 丁度良い頃合に突入してくれて助かりました。こんなにも彼らを頼もしく捉えた瞬間は他にありません。

 冒険者を一人だけでも闇討ちするような最低限の行動もとらなかった私の愚鈍さが不甲斐ないばかりです。


「もう正体は隠しません。私こそが彼らアンデッドの首魁兼動画配信者のRIOです」


「やけに落ち着いてると思ったらてめぇが親玉か! ぐべえっ!!」


 横蹴りで頭部を瞬時に粉砕し、持ち前の膂力で四肢を千切り、残った胴体を別の冒険者へと投擲します。

 吸血はしません。二重の意味で時間の無駄ですから。


 話の最中地味に通名を宣言されていたのでまさか素性を勘づかれたのかと深読みしていましたが、杞憂でしたね。


「命じます。これより私はギルドの中核部へと向かうので、それまで一階ロビーを占領しながら敵の足止めを徹底して下さい」


「【Cランク序列22位・鎌魔(カママ)】! こっちをシカトしてんじ」


 次に襲いかかってきた冒険者の草刈り鎌の一振りをいなし、平手の手刀で首を刎ね飛ばしました。

 Cランクの序列なんて幅があってもあてになりませんね。


「うわあああっ! あの単砕暴さんと鎌魔センパイがやられた!」


「他人の主義を否定するつもりはないので何を主張しようが自由ですが、私は当初と変わらずプレイヤー間のトップに立つ人物に勝利するまでを最終目的としつつ、自由気楽で平均的女子高生でも務められる悪役ロールプレイをさせて頂きます」


「悪役……悪役っ!?」


 現実を受け入れられず、混沌と混乱の最中にある残りの冒険者達数人を徒手空拳のみで各個撃破しました。


 ですけど、一人くらいは義憤に心を燃やして立ち向かう者がいても良いのでは? 性根を暴露させた手前いるわけないですよね。


『RIOのプレイヤースキルがバグってるwww』

『すげぇ、RIO様ずっとワンパンだ……』

『悪役ロールプレイ宣言する奴初めて見たわ』

『平均的ってどこが平均的だw』

『よし、プチエリコの動画で癒されよう』

『すまんオレ冒険者にちょっとした恨みがあるから視聴継続する』

『同じく継続』

『なんかRIO様が怒ってるようで哀しんでるように見えた?』

『サディスティックな無表情貫いてるのにか?』

『無表情だからだろ』


 こんな冒険者と関わるのはうんざりですが、目的のためならば感情を制限して堪えるしかありません。


 それに私はアマチュア配信者のRIOですよ。

 秘めていた憧れを裏切られ失望的な思考に陥るのは視聴者様が苦痛になるだけなので、ここは気持ちを切り替えて前向きになりましょう。


 はい! 前向きな振る舞いが一番!

 お、温水に浸かった後のようにモヤモヤを払拭できました。


 さあ、司令塔となる人物に引導を渡しに参りましょうか!

次回は一転してギャグっぽい回に

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 今日から読み始めました。応援してます! RIOという言い方...吸血鬼..こりゃ時間停止覚えそうだな
[一言] 知 っ て た
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ