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幕間 プチ・エリコの配信道 その3

 ヤンデレRIO様が頭から離れねぇ……

「今日も冒険者ギルドから依頼されている『三界』の調査をやっていきまーす。前回観ていなかった人に向けてちょくちょく説明挟みながら進行するから、お気楽に視聴して下さーい」


『おお、三界調査か』

『幽玄界だったっけ?』

『幽玄界のとこまたソロで行くのか……』


 一人の方が安定しやすい部分もあるし、実績にもなりやすい。

 運次第だけど、現地でパーティ組むことだって出来るからね。


 そうそう、ここ最近発見された要素だけど、このBWO世界には『三界』って呼ばれている空間が、名前の通り合計三つがどこかに存在している。

 その内の一つ『幽玄界』の入口がこの王都の近くにあって、これから私が調査する場所になるんだ。

 調査の報告内容は自己申告制で、新種のエネミーとか資源になるような場所を発見出来れば大当たり、報酬たんまりだよ。


 それで幽玄界の全容は、正攻法で探索しようとも一生ゴールに辿り着けないほどだだっ広い未開の大地で、エネミーもわんさか出現するダンジョンと何ら変わらない危険地帯。まぁ危険地帯って意味なら三界はどれもどっこいどっこいなんだけど。


「なにがあっても慌てず騒がず、【Sランク序列1210位・プリンセチュ・エリコ】、いざ出陣! の前に」


『前に?』

『前に?』

『前にって?』


「落ち着いたら甘い物食べたくなっちゃった。てへへぇ」


『おいww』

『この甘党怪獣めww』

『てへへ(ぐへへって言え)』

『脅かしやがってww』

『いっぱい食べるエリコがすこ』

『リバウンド確定』


「リバウンドってどゆこと!? 不吉なコメントやめてぇ〜!」


 むぅー、女子高生相手にみんなしてひどいこと言う……。

 でも、コメントに温かみがあって悪くない感じかな。だからゲーム配信ってモチベーションが落ちないんだよね。


 どうしてゲーム配信を始めたのかは……いっけないド忘れしてる!

 アイドルになりたいからだったっけ、まさかの何となくとかテキトーさから? そうだ、お小遣い欲しさとかいう犯罪動機みたいな理由からだった。


「店長さん! いつもの十個お願いしまーす!」


「はいエリコちゃん。ちょっと待っててね」


 初老の女性の人からにこやかに言われて、待ち時間の間はリスナーさんからの投げ銭コメントに応えてゆく。

 このお店は冒険者割っていう一見響きが良さそうな割引してるけど、これ冒険者ギルドから無理難題押し付けられているだけだから、今回も適正価格をちゃんと支払っている。赤字になって潰れないようにね。


 そのおかげかもしれないけど、店長さんは私のPNと通名を一字一句違わずに覚えているんだ。

 店長本人曰く「お得意様の名を覚えるなんて客商売じゃ当たり前」って言って謙遜してるけど、王都には冒険者が沢山いるのに尊敬しちゃうよ!


 そしてお待ちどうさまされて、【禁断の果実渦巻くメイプルバタークレープ】って中二チックな名前のクレープがインベントリに収納された。


「ありがとうございまーす! はわぁ……いつかRIOと食べさせあいっこしてみたいなぁ、ぐへへへへ」


『隙あらばRIO』

『やっぱりww』

『いつもの』

『「へ」四つ。おうし座の人はおめでとうございます』

『この百合っ娘、口を開けば当然のようにRIOの名前飛び出すよな』

『吸血鬼には人間の食べ物口に合わないけどどうすんだよ』


 あ、そういえばそうだった。

 でもさ、無敵の愛の力があれば関係ないはずだよねっ。


 まぁ……莉緒ってヘタレさんだから……それ以前に袂を分かつようなプレイスタイルになっちゃってるから難易度激高だけど、愛だよ愛! 愛は全てを解決する!


「じゃあおやつの補給も済んだことだし、改めて……ひふぁひゅひゅひん(いざ出陣)!」


『え? なんて?』

『食いながら喋るなやww』

『草ァ』

『締まらねぇなぁ』

『これもうわざとだろw』


 本能的に美味しそうなものを握っていたから、我慢出来ずについパクってしちゃってた。あはは……。



▼▼▼



 幽玄界の入口は、簡単に言えば時空が裂けた感じ。

 その裂け目の先にあるワープゲートへ、体を横に細めてうまく入り込んでっと、よし、侵入成功。


「わぁ……また知らないとこだぁ」


 辺りを一瞥しても、前回の探索で残した目印が見当たらない。そのはず、だってこの世界、スタート位置が法則無しの完全ランダムだから。


『樹海だ』

『まさにファンタジー』

『こんな心霊スポット知ってる』

『ヒェ……なんか白い影が見えたのワイだけ?』

『だけじゃないぞ』

『でもデフォの現象だししゃあない』


 歪な杉のような樹木に巨大化したゼンマイみたいな植物、枯れかけた花に別の花が寄生してるかのように咲いている光景が、文字通り別の世界に迷い込んだような異質感を煽る幽玄界。

 今日も霧がかっていてあまり視界が利かないし、こういう時に地形把握や探知形スキルがあると便利なんだよね。


「こことここに傷をつけてっと」


 独り言ちちゃったけど、配信中の私には独り言なんてないのさ。

 目印のため、樹の幹を装備品の剣で削ったり、地面にサークルを描いたりを怠らない。

 今のとこエネミーはまだいないけど、一寸先は闇みたいなものだし気を抜かないようにしないと。


 気を抜かなければ、食べ歩きタイムしても……。


「んん〜! 舌が歓喜しちゃうぅ! 私の生命線だよぉ」


 糖分補給はやめられないねぇ。

 クレープのストックを減らしながらどんどん進んでいこー。


「……ん?」


「――五刻の極夜に満ちよ、しるべの皐月。《魔法・月こそ汝への贈り物(ムーンフォール)》」


 女の人の詠唱が奥の方から犬耳に届いた。

 不規則に揺れる大地が、向こうの人が発動した魔法の威力を物語っているけど、私の知る限りじゃかなりの腕前かも。


「誰か戦ってる、加勢しなきゃ!」


 たびたびお節介が発揮しちゃう私は、こうした場面があると体が勝手に動いちゃう。

 というより、ここに来てから誰ともエンカウントしてないから、冒険者かもしれない人とは情報共有のためにも顔合わせしたいし。


「【Sランク序列1210位・プリンセチュ・エリコ】ただいま参上だよ! あ」


 どうやら加勢するまでもなく、今ので戦闘終了だったみたい。

 耳で(頭の方の)分かっちゃったもん。


『あ』

『「あ」ってww』

『なんかワロタ』

『こっちまで恥ずい』


「コホン。むしろ私の助けが無くてもよかったと……きゃあ!?」


 コメントに気を取られて何かの塊みたいなものを踏んづけちゃって、変な感触に足を引っ込めたけど、地面を見てみると元がどんな種類かが分からなくなるまでに肉片にされたエネミーが散らばっていた。

 向こうにいる人が放ったムーンフォールの餌食になったみたい。なんか凄惨だぁ……。


「そこにいるのは誰かしら」


 霧の中から現れる、さっきまで戦っていた女の人。


「す、すみません! 出過ぎたマネをしたかったとかじゃなくて……。初めまして、エリコです!」


 なんか芯のあるキリリとしたボイスだったから、ついぐぐもって挨拶しちゃった。

 茜色の髪に、胸元が開いたセクシーな服を着こなしてて、やけに露出度が高い長身美女さん。

 つい見惚れちゃいそうだったけど、RIOの魅力には遠く及ばないんだけどね♡


「エリコさんって言うのね。通名がプリンセチュエリコ……ってあのエリコさん!?」


 私のPNを反復した瞬間、神様をお目にかかれたかのように吃驚していた。


「うわお! 生エリコさんだ! 申し遅れました、私、【Sランク序列77位の皐月サキ】です! プチ・エリコさんの大ファンなんです!」


 急に敬語になったファンの……サキさんって呼ぼう。


「えへ、いつも観てくれてどうもだよ〜。っ序列77位!?」


 想像してた以上に大物の冒険者と対面したからこっちも吃驚。

 だって、ここまで序列が高いと法律すら自由に作り変えられるんだから、まさにこのゲームの来るとこまでやりこんだ廃人さんだね。


「いや〜、こんな辺鄙な幽玄界で会えるなんて感動です。尊敬してます! 握手してもいいですか!?」


「もちろんお安い御用だよ。私もこんなに序列が上の人とお話したことないから、こっちからも握手したいよ〜」


「あ、ありがとうございますぅ! これがエリコさんの手の質感……でへ、でへへへ……」


 クールで気難しい人な第一印象だったけど、ちょっとミーハーさん気質な人だったから親近感が湧いてきた。


『キャラ崩壊』

『秒殺』

『皐月サキとかいう十二暦月連盟のグラマラス枠』

『↑十二○月? 鬼退治漫画かな』

『でへへってなんだよ……ファンやめません』

『よかったなエリコ、変人仲間が増えて』


 いや良くないから!


 ま、こういう一期一会の交流も配信者の醍醐味だよね。でももし私がRIOだったら即・斬だけど……。

 RIOってこれでよく配信者やれてるって素直に思うよ。ぐへぇ〜、またコメント打ちにいかなきゃ〜。


「あの、プチ・エリコさん。差し障りなければでよろしいのですが、私とパーティ組んで頂けないでしょうかっ!」


 サキさんが呈したのは、パーティ申請だ。

 こうやって野良でパーティを組むのは、BWO界にとっては当たり前みたいなもの。

 通常だと利害を一致させたり、途中で解散したりとかの約束事をお互いに提示するんだけど、この場合、どう見ても人気配信者への羨望からだよねこれ。


 でも、サキさんは純粋過ぎるだけで良い人そうだし、了承しよう。


「うん、こちらこそだよ」


「わああ! 私、後衛役特化の技構成ですが、精一杯頑張らせて頂きます!」


 サキさんが仲間に加わった、なんてね。


 RIOだったらパーティなんてもっての他だと思うし……またRIOのこと考えちゃってるよ私!



 でも、これはぐへぐへ萌えまくってるからじゃなくて、RIOのことが気掛かりだったからなんだ。


 もしRIOが私と同じ冒険者してたら、やることなすこと悪事に加担するも同然だから、プレイ後には自己嫌悪してるばっかりになっちゃう。


 だから私と真逆の悪役ロールプレイも正しい選択。初めからハードル下げて悪役になれば、いくら責められても力で反論出来るからね。

 コラボ配信できなくなっちゃってるのは残念だけど……。


 けど、サキさんみたいに良心がある冒険者だって居ることはちゃんと分かってるはず。

 だからこそ、トップを目指しながらも、志が天を衝くヒーローを最大限引き立てさせる悪役していられるんだよね、RIO。

 元の体調を取り戻す

 生きる

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― 新着の感想 ―
[良い点] これはヤンデレRIO様来るか?
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