幕間 プチ・エリコの配信道 その1
急なエリコパート
RIOは出てこないんでスルー推奨
第七の街・王都ブーゲンビリーは私が拠点にしている場所。
今日はハウジングする予定は無いし、ログイン地点は王都を選択して配信スタート。
「みんなこんばんわー。プチ・エリコだよ〜」
『わこつ』
『わこつ』
『わこっ!』
『ぐへばんわ』
『待ってました』
『ぐへばんわ』
『相変わらずデッッッ』
『むにゅむにゅのRIOパイにぽゆぽゆのエリパイ』
『闇のRIOパイに光のエリパイ』
『↑お前ら変態共いつもいるな』
うんうん、お馴染みになったセクハラコメントを除いてみんながにぎやかに挨拶コメントしてるおかげで、配信者として嬉しくなっちゃう。
コメントで分かるように胸の部分ばかり見てるケダモノがいるけど、私の衣装はリボンで包んだフリフリのワンピースで、体格はリアル準拠なのにちょっと子供っぽい感じのコーデ。
そしてここが凄いところだけど、頭には元からある耳とは別の犬耳に、スカートの部分から明らかに貫通して生えてる犬の尻尾、それが私自身の感情に反応してゆさゆさ動くから面白くてたまらない。因みに着脱可能。
老衰で亡くなっちゃったペットのプチも、犬語しか喋れない分こんなふうに感情表現してたのかな。
『見る度に思うがこの装備どこ産だよww』
『VRMMOも進化してるよなぁ』
『お手』
『おかわり』
『ちんち(殴』
これ、ワンちゃん扱いされてるとしか言えないよね。
……いつもよりリスナーさんの数は少なくなっているけど、きっとRIOのチャンネルに流れて行ってるからだと思う。
やっぱり莉緒ってすごいなぁ。日常的に平均的女子高生だって卑下してるけど、そんなのじゃ収まらないほど才能に溢れてるよ。
企業との契約の話が持ち上がってるほどのプロ配信者として、顧客が取られているのにジェラシー感じないのはどうかと思うけど、私の一番の友達が観ているみんなを魅了してるんだから、感情抜きにしてもその手腕を認めなきゃね。
「じゃあ早速だけど、今日も嫁トークいっちゃうよ!」
『はじまったww』
『このRIOキチめww』
『需要あるのかこれ』
『wktk』
『これがなきゃはじまらん』
『捏造100%』
ひどいよぉ、あったとしても50%くらいだもん。
配信を始めたら必ずとることにしている日課、それこそ、莉緒とイチャイチャした場面を話しまくる自慢話タイム。私も話したくて話したくて仕方がないし、実際配信者として一番楽しい時間なんだ。
あまり長くなると飽きてくる人もいるし、でもリスナーさんからいっぱい投げ銭してもらえるからさじ加減が大事なんだけど……、大好きな莉緒を思うだけでついつい話し過ぎちゃうのが日常茶飯事になっちゃった。
ちなみにこれだけで一日の収入の3分の1は稼げてるんだ。自己満足で始めただけなのに需要ありまくりでビビっちゃうよぉ。
一方でRIOチャンネルはそういった投げ銭機能とかは設営されていない。なんでか聞いてみたら「人様に迷惑かけてまで金銭を稼ぐ気はありません」っていう純朴な理由だったから……はぁぁしゅき。
「――それでね、私がクリームあんみつをあーんした時の莉緒ってばすっごく照れちゃってて〜。初だなぁ、ぐへへ〜」
『ぐへへ』
『本日もぐへへ頂きました』
『ぐへへ〜』
『尻尾ブンブン』
『惚気トークに熱入ってきたな』
『もうガチ・ユリコだわ』
『グヘ・グヘコに改名しろww』
『その口癖ほんま草だ』
『はぁ……エリリオ尊い』
『エリリオしか勝たん』
『ぐへへはノッてきてる合図』
リスナーさんもノリが良い人ばっかりで、尚更緊張が解けてくる。
もう配信開始から30分が経過してるし、子連れのNPC住民が「見てはいけません」とか言って変質者扱いしてきてるから、いい加減本編に入るしかないよね。
「じゃあまずは王都の見回りから、さくっと一周だけするね」
『おけ』
『りょ』
『すぐ出発しないで毎回王都回るよな』
『基本経験値稼げないのに、王都の平和を脅かす者を許さない一心でよく回れるわ』
『エリコらしい』
『好感もてる』
『でも食べ歩き常習犯だけどな』
むぅ〜、聞き捨てならないコメント発見。
パトロール中にお口が寂しくなるから、このゲームオリジナルの果物をふんだんに盛り合わせたクレープを食べ歩きしてるんだけど、そこのお店を通りかかったら十個は確保するのが日課なのさっ。
「食べ歩きしてもいいじゃん、だってとんじゃうくらい美味しいんだもん! どう素材収集すればあんな甘味が出来あがるの!? リアルの方でも材料丸ごと欲しいよ!」
『逆ギレ』
『あー怒らせた』
『そんなに甘党だったっけかこの人』
『んまあ王都のグルメ地区は目移りするが』
『太るぞー』
『いつぞやのカロリーゼロ理論は効果なかったようですね……』
『ぽゆんぽゆん』
『およ? お前らの米のせいで心なしかエリコのお腹まわりが太ってみえ……』
「ふ、太ってなんか……いません」
『草』
『急な敬語ww』
『あっ(察し)』
『あー泣かせた』
『ちょっと男子ィ!』
『やっぱ太ったんだなこりゃ』
『幸せ太り定期』
『この前ダイエット成功したはずだよな……』
『食えー! ムチムチしろー!』
『スタイル抜群よりもちょっとだらしないのが好みよ』
『こらこら、わがままボディって言わんかw』
「くぅ〜、きぃ〜!」
リスナーさんとの距離感が近いのは良いことだけど、容赦無さ過ぎ。
この前莉緒とのお買い物ぐへへデートで買った服がもうキツくなってるし、小数点まで同じをキープしていた莉緒の体重とどんどん離れていってるのは無念でございます。
高校デビュー前はもっとヤバかったけどね。
「どうせこっちの世界じゃいくらカロリー高いもの食べても太らないからノープロブレム! 気持ちを切り替えて、パトロールにレッツゴー」
『ゴー!』
『出発!』
『いや太るとこを開き直るな』
『どんな出会いがあるか』
そう意気込みを語って、王都を足で巡回することにした。
今日も冒険者ギルドから依頼があるんだけど、やっぱり王都は一見平和そうだけど色々不安だから、パトロールは気持ちの済むまでやりたいんだ。
でも……なんとなくだけど、今日は気が済むまでなんてできっこないかもしれない。
「ン゛ミ゛ャ゛ー!」
ほら、猫ちゃんの鳴き声が聞こえてきちゃった。
これ絶対に悲鳴をあげたタイプの声だって犬耳で解るから、全速力で走るしかないよ。
「コイツめ!」
声の方向には足を振り上げた男の人が。私よりも背は高いし体格も良いけど、だからと言って見過ごすわけにはいかないから!
「何やってるの! 猫ちゃん相手に!」
当事者確定だからすぐさま叱責したけど、無鉄砲だったかな。
「誰だか知らんが、オレが悪いって言うのか? この野良猫が膝に向かって引っ掻いてきたんだぞ」
悪気無く物申すその人。装備の質感から冒険者プレイヤーだ。
王都にも当たり前みたいに居るんだ、こういう犯罪者予備軍みたいな人。しかも千切っても根っこから生え出す雑草のように、いくら注意してもいなくならない。
「だからって蹴っ飛ばすなんてあり得ない! どうして悪気ないままやってのけちゃうのかな!?」
「まあまあ、たかがにゃんこ一匹でそんなカリカリすんなって」
「でも猫ちゃんがかわいそうだよ! たとえ相手が動物だとしても、謝らなきゃダメだと思うよ!」
「わーったわーった。オレが先に間違って尻尾踏んづけたのが悪かったよ。これでいいだろ」
うーん、反省するのには不釣り合いな態度だけど、それだけで判断するのは流石にエゴイスティック。実際どうなんだろう?
結果が表れないとよく分からないや。
《カルマ値が上がりました》
答えを知らせるシステムメッセージが届いた。
ぶっきらぼうだけどしっかり謝意はあるみたい。
どこまでしっかりかは読み取れないけど、カルマ値が上がったということは、悪意がある人を反省させたってことじゃないかな。
「もう猫ちゃんをいじめないでね」
『許した』
『許された』
『エリコの逆だった尻尾も元通り』
『お利口な警察犬だなぁ』
過ぎた事にネチネチ絡んだりしても自己満足にしかならないし、何よりどこかへ逃げちゃったけど尻尾が傷ついてたはずの猫ちゃんが心配だから、今回はここで勘弁してあげることにした。
私は回復魔法が使えるから、猫ちゃんの傷ならMPをあまり使わなくても治療出来ると思う。
回復の他にも攻撃なり補助なり何でもできる、悪く言えば器用貧乏なんだけどね、その辺はレベルの高さでカバーだよ。
猫の手も借りたいほど忙しいリアルを犠牲にして、徹夜しまくってコツコツBWOを続けたおかげでゲットした【Sランク序列1210位・プリンセチュ・エリコ】の通名に傷がつかないように、ガラの悪いプレイヤーが多くても、同調圧力に流されず善き心を失わないようにしなきゃいけない。
だって、困ってる人を捨て置けないし、友達に軽蔑されるのだけは嫌だから。
「うわぁあおかあちゃああん!」
一難去ってまた一難、何回解決しても事件の鐘は鳴るものなんだね……。
「この小僧! 大人をナメやがって!」
うう、気が滅入りそう。
小さい男の子の声の他に、私が苦手な人の声まで聞こえてきたから。
でも尻込みしていてもますます酷くなる一方だ。男の子は頬が腫れてるし、これ以上殴られる前に絶対に止めなきゃ。
憲兵さんでさえ、冒険者の横暴を止める権限が失われたこの王都。
だから、同じ冒険者の私しか止められない! 莉緒の笑顔のためにも、前に進むのみっ!
お腹痛すぎる……




