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秘匿の買い物&理解届かぬ恋心

 今日は作者の誕生日なんです

 一度街に侵入出来たのなら、一つでも多くの用事を済ませたいのが筋です。

 再度訪れた時に検問の防備が強化されていれば、ルート変更を余儀なくされてしまいますので、ボスさんには殺生ですがもう少し我慢して頂きましょう。


 西区から北区へ、時計回りに巡って行きます。

 上流階級層の居住地、及び冒険者ギルドを構える中央区以外はどこも治安は似たりよったりでしたが、人間社会で生きる必要性が皆無な吸血鬼には、治安が悪い方が紛れ込みやすいでしょう。



―――――――――――――――


 NPC商人から【鈍色のフード】を300イーリスで購入しました。


―――――――――――――――



 即断即決でエルマさんの分の買い物を済ませました。

 日傘に隠れて顔は見えづらくとも、常時日傘という状態に置かせるのは無理があるので、フードを被らせて顔で判別付けられなくするためです。

 それに、ここまで配信されていれば、RIOの同行者として素顔が割れてますので。


「こんな感じでいいのかな」


「はい。これでもう他人からエルマさんの見分けがつかなくなります」


「そうなの……?」


 大人用なのでサイズはまるで合わず上半分まで覆われ、私の立っている場所とはあらぬ方向に顔を向けているため、全く見えていない様子ですね。

 この程度、引き続き肩車をしていれば見えなかろうと関係ありませんが、先程のような例があるためデメリットはないとは言いきれません。


『防御力アップだ』

『順調なマスコット化』

『ただし視界範囲ダウンはこの子にとっちゃ有難迷惑だな』

『ぷにぷにほっぺまで隠れてしまう』

『↑RIO様のもちもち肌はいらぬと?』

『段々RIO様の所有物となってゆく……』

『非常食にするかと思ったら重用し出したな』


 ……私用の非常食は前々からインベントリに溜め込んでます。


 さて、街の散策を続ける際に想定し得るケースとして冒険者との交戦がありますが、その場合エルマさんの身の安全を視野に入れられる余裕が無くなるのです。

 今や私の脅威度を表す懸賞金は八桁にまで昇っています。冒険者らは、もうそろそろ勝つための手段を選ばなくなっているため、エルマさんは人質の対象になりかねません。

 とりあえずフードで隠せば、暫く放ったらかして単独行動をさせようが、人質にはされない程度の安全が保証されるでしょう。


 それらばかりは相手によるとの不確定要素がありますが。


「お姉さんの分は何を買ったの……?」


 そう私の持つ袋を凝視しながら訊いてきました。

 実は視聴者様にも映らないようにしつつ、こちらで試着し購入した服があるのです。


「秘密です」


「そうなんだ、あまり訊かないようにするね」


 物分かり良い子に育ってきましたね。

 ネタバラシすると、通常時に合致した【シルクワンピース一式】、少女の姿形に合致した【ロリータドレス一式】、成人女性の姿形に合致した【スカーレットローブ一式】をそれぞれ変装用として活用したいと思い立ち、万単位もの資金を注ぎ込んで購入したのです。

 とはいえ、ミスマッチな姿形でも着こなせば不自然では無いので、実際はファッション面の汎用性が高い装備品です。


 防具としての性能は現在のドレスに劣るため、有事の際にはすぐさま変更しますが、その間だけは新たな自分になりきりましょう。


 着替えは不要です。その時が来たら、インベントリから直接変更したいと思います。


「お姉さん……あのね」


 羞じらう様子のエルマさん。

 そこまで改まって、何かねだりたい物でもあるのでしょうか。


「ありがとう」


 そんな感謝を、はにかんだような笑顔で言い切りました。

 この期に及んで吸血鬼のご機嫌を取りたいならば拒みませんが、真意が掴み取れないほどに不明瞭です。


「何を言い出すかと思えば。このフードは決してあなたのためではなく、私に一定の得があるためにエルマさんの身なりを整えているのですから」


『ツンデレ』

『ツンデRIO様』

『これまた新鮮』

『しゅき』

『たまらないよぉぐへへへへ』

『もっとツンツンデレデレしてちょ』


 ……はぁ、五月蝿い方々です。


「だってわたし、お金もないし、何もしてあげられないのに、こんなにお世話してくれるから」


 ふむ、感謝されるようなことを積んだ所で、裏路地の時に脅してしまったので差し引きゼロだと思い込んでいましたが、そうでもないようですね。


「まだお姉さんのことが怖いけど、頑張って怒らせないようにするね」


「お気遣い無用ですよ、私は怒りの感情自体はそう滅多に出ませんから」


 これは私が感情の起伏が無いよりかは、怒る場面では別の感情が浮き出る方が正解です。

 貶されようとも否定されようとも、ここはゲームだと再認識するだけで心も頭脳も冷たく維持出来るのが私の強みだと、これでもかと配信で流しましたし。


「うん。わたし、お姉さんのために頑張るから」


 む、結局頑張るだなんて、あまり信用されていませんね。


 ――エルマさんは、こうしてRIOと寝食を共にする関係となりましたが、人間や冒険者からの視点ではどう印象付けられるかが、興味津々です。

 RIOに従わされて可哀想と同情されるか、RIOに手を貸したお前が悪だと断定されるか、想像の幅が無限に広がります。


「あなたの仰る『頑張る』で尽くしたいなら、せめて人間らしく、足を引っ張らない程度に頑張って下さい」


「わかった……」


「ですが、あなたの導き手がこの世の者ではないなら、これからの人生はあなた自身が考えて行動しなければなりません。私と共に茨の道を歩むか、それとも安全な方に進むかを、自分でよく考えて導き出すのですよ」


「わたし、自分で考えるほど頭良くないから……きゃっ! くすぐったいよぉ」


 フードの上から撫で回され、ひしゃげたような無邪気な笑みで喜んでいたように見えました。


 困った時にはとりあえず撫でておけば好感触を得られますし、どちらが優位かをよりはっきりさせるのも兼ねられます。

 そして、行動をガチガチに縛るよりも選択肢に自由を与える方が、緊張が解れやすくなるのが心理です。

 どのみち、RIOを手助けするような行為をしてしまった以上は、迂闊に裏切れませんからね。私としては、エルマさんは信用可能な範囲に入っています。


 さて、どんどん信用されて参りましょう。



▼▼▼



 移動中は、冒険者襲撃の警戒のために無言になりがちです。


「少しお話しましょうか」


 無言が続くのは配信者としても悪印象に発展しそうなので、エルマさんに目的を打ち明けてみましょう。


「私の目的は、実力の面で一番になることです。血を吸って力をつけ、一人分しか席の無い頂に座る者を力を以て蹴落とし、私が新たな頂となる、単純明快な目的です」


「す、すごいね……。お姉さんにそんな夢があるなんて思わなかった」


 感嘆の声で応じてくれました。

 ローレンスを滅ぼしては、暴虐の限りを尽くすだけの危険な生物だとのイメージを抱かれるでしょうからね。


「でも、わたしの住んでた街をめちゃくちゃにするのが一番になるためなの……?」


「そうですね。天敵に攻められて巣穴から湧き出る蜂のように、強くなるための糧が沢山現れてくれますから」


 それに加え、自分の悪役度を知らしめさせたいのもありますが、エルマさんにとっては十分過ぎるまでに伝わっているので、あえて語る必要はありません。


「回りくどいとでも思ったでしょう、確かにその通りかもしれません。一番になるためには近い道を選んで行きたいですが、最短の道だけは選ばないので」


「ふえ? どうして?」


「楽そうな道には、長々と足止めされるまでの罠が必ずと断言して良いほどいくつも潜んでいて、結果的に大幅な遠回りとなってしまうからです」


『なるほどー』

『なるほどー』

『遠回りこそが最短の道だ』


 視聴者様からは賛同を得られていますね。


「合理ばかりに思考を凝結させても、どうせ躓く時はあります。目的一筋とならず、途中途中で寄り道を楽しむのも一興なのです」


「うーん、難しいね」


 一応理解しようと答えを咀嚼していましたが、難色を示していました。


 まあ、これはゲームであってレースではないので、視聴者様と共にゆるりと参るべきです。


「でも……一番になった後はどうするの」


 私の答えを咀嚼し呑み込めたため、また質問を呈してきました。


「良い質問ですね。目的を果たした後は、この世界から去るだけです。意味が無くなったこの世界にいつまでも残っているつもりはさらさらありませんので」


「いなくなっちゃうんだ。せっかく一番になる夢を叶えられたのに、もったいないね」


「ふむ……、一番の名を残したまま放置しておくのは空虚となりそうですね」


 そう言い、その後の動向を想像してみます。


 火の海となる冒険者ギルドの本部、私の前にひれ伏す冒険者達。拍手喝采のコメントに見送られ、その先には「おめでとう」と祝福しながら振り返る想い人の姿。


「……あの人に討伐されて退陣する、というのもまた一興かもしれません」


 トップとなった後の漠然としていた道筋を、今はっきりと定めました。

 けじめのつけ方としては、至極妥当でしょう。


「あの人? それって、お姉さんの好きな人?」


「え!? す、好きですって!?」


 思わず声が裏返ってしまいました。

 一体何故、こんな小さい子に心の内を一発で見透かされてしまったのでしょうか。


「だってお姉さん、ずっと怖い顔してるのに、すっごく女の子の顔してたから……」


 私、そんなあられもない顔をしていたのですか。

 困りましたね、現実世界が関わるだけで、どうポーカーフェイスをしたつもりでも顔に出てしまうようです。


「むむむ……、ええ認めましょう、好きですよ。片思いですが、私はその人に対しての恋心を抱いているのです。こんな夜の種族である血塗れの私と違って、その人はまるでお日さまのように眩しく輝いていて、多種多様な魔の手から人々を守る信念のため、日々戦い続けているのですから。想い慕う人の腕に抱かれ、この吸血鬼の身と愛を捧げながら最期を迎えるのが理想とする構図です。どうですかロマンチックでしょう」


「うわぁ、早口だぁ……」


「っと、少しばかり失敬でした」


 エルマさんが呆気にとられてしまいました。

 視聴者様からも『!?』や『やべーやつやんw』だのと、引いてるコメントを散見しました。


「怖い吸血鬼さんなのに、好きな人がいるなんてびっくり。お姉さんがメロメロになるくらいだし、どんな素敵な王子様なんだろう」


 ……お子様には十年早い恋バナでした。


「だけど……こんなこと言っちゃったらいけないかもしれないけど……応援するね。一番になる夢が叶って、お姉さんの好きな人に好きって言えますようにって」


「っ……」


 言えますように? 言えません。

 ここが仮想世界だとしても、乗り越えられないほど高い壁というものがあります。


 ですが、NPCだとしても、その裏表のない気持ちだけは受け取りましょう。


『マジかよ』

『脳破壊定期』

『俺、大ショック』

『青春だ、尊い』

『ギャップに萌えた』

『やっぱ平均的女子高生なんだなぁ』

『めっちゃ表情動いてるから本当に好きなんだなって』

『RIO様の鋼鉄の表情筋をだらけさせるとは……やるな小娘』

『はよ保存保存!』

『RIO様の表情コレクションが増える増える』

『男だったら承知せんぞ(過激派百合オタク)』


 ……視聴者様はお仕置きを所望しているようで。


 冗談はそれだけにして、もっと探索を続けましょう。東区も一巡してみたいです。

 ブックマークをつけた後、↓にある☆☆☆☆☆のポイント評価が誕生日プレゼントで構いませんッ

 ただ体調ががが……

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― 新着の感想 ―
[一言] オレはこの SBRレースで いつも近道を試みたが 『一番の近道は遠回りだった』 『遠回りこそが 俺の最短の道だった』 この大陸を渡ってくる間 ずっとそうだった そしておまえがいたから…
[良い点] 慌ててるRIO様かわいい 誕生日おめでとうございます!
[良い点] 面白いです。今日偶然見つけて最新話まで読みましたが、次の更新が楽しみです。 [一言] 誕生日おめでとうございます!
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