冒険者&ギルド
ブクマが12件も……!
VRMMOのジャンルじゃかなりでかい数字なんでほんと感謝であります
多量のHPが削られましたが、肉体面の影響は肩が軽くなった感覚のみです。アンデッドなので痛みや不快感はありません。
前程の人は追撃をかける様子は無く、利口にも反撃を受けない程度の間合いをとりました。
「冒険者Cランク……いま冒険者と言いましたね。ようやく出会えました。弱者に当てはまらない戦闘に特化した者に」
蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う一般住民と違い、この一瞬で果敢にも私の腕を奪ってくれた強敵が現れたのは幸運なアクシデントですね。
然るべき役割が向こうから迎えに来たため胸が躍りそうです。
「ちょろいぜ! このままお前をうぎゃ!!」
この冒険者の後頭部を掴み、石造りの地面へとめり込む勢いで叩き伏せ、そこから踵落としで頭部に追撃をたたみかけます。
強敵と表現しましたが、無理に短剣を使用せずとも吸血鬼の並外れた怪力を用いればあっけなかったですね。
『かわいい系のアバターなのにやる事えげつねぇよ』
『冒険者普通に殺しやがったwww』
『PKやぞPK』
『でもこのゲームじゃPK被害は自己責任だぞ』
『旨味がねぇ……と思ったがRIOには経験値入るんだったな』
そしてすぐ冒険者Cランク序列996位のスラッシャーとやらは動かなくなったので、手が空いてる内に減ったHPを《吸血》で補充し、ついでとなる経験値を獲得します。
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《レベルが23に上がりました》
《カルマ値が下がりました》
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ようやくまともなレベルアップにこぎ着けました。つまり相手の力量に応じて獲得する経験値の量が増すみたいです。
「どうもこの方はプレイヤーであり眷属化不可能なので放置するとして、冒険者には通名宣言システムがありましたね」
実に好奇心掻き立てられる要素です。
詳しく解説しますと、冒険者とはプレイヤーのみで構成された集団の総称で、平時では冒険者ギルドから素材収集や魔物討伐をはじめとした依頼を請け負う仕事人です。
それに関連した通名宣言システムがまた奇異な特徴なのです。
キャラメイクで私が行われるはずだった百の質問はこのためだけにあり、適正を見出されたプレイヤーが冒険者になった時、そのままプレイヤーネームとは別の【通名】としてギルド職員から命名されます。
通名を高らかに名乗れば戦闘中のダメージ倍率が優位に働くため、たとえ面倒だろうが口に出すのも憚られるほど恥ずかしかろうが、郷に従う者が大多数を占めています。
序列とランクは概ねご想像の通り。
ランクはDから始まり、C→B→A→Sの順に昇格、序列は順位が高いほどどれだけ貢献したかが示されるようです。
なお、序列の変動はありますがランクの降格処分は無いので、ログインしなくなった冒険者プレイヤー達が各ランクの序列最下位にたまっているとか何とか。
「相手になりませんでしたが、それはそれで良いでしょう。左腕も再生が完了していますので」
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体質:肉体自動再生
説明:欠損している体の部位が、体内の血液がもつ限り自動的に元通りまで再生し続ける吸血鬼特有の体質
ただしHPが少ないと再生力が急激に低下する
体質:HP自動回復
説明:何をせずとも徐々にHPが回復する吸血鬼特有のリジェネ体質
ただし肉体が著しく欠損していると回復力が急激に低下する
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断面から鮮血の泡が吹き出たかと思えば、そこから左腕が生えて指先まで綺麗に元通りとなっていました。
吸血鬼の不死性に感謝です。
そこで今度はゴミのように落ちている斬り飛ばされた方の腕を……試しに吸血してみましたが、なんと僅かにHPが回復したようです。
ほんの僅かだったので永久機関にはなりませんが、新たな発見のために何事も挑戦してみる方が良さそうですね。
『もはや脳まで人外に染まってやがる』
『この飲みこみの早さ』
『リアルでも吸血鬼やろこの人』
安穏と暮らしているだけのリアルを詮索されるのは好ましくありません……。
それはともかく。
「アンデッドの皆様、私の声が聞こえていますか」
お腹に力を入れて大声を出し、眷属となった者達へと告げると各々が反応し、私の方向へと頭がネジのように回りました。耐性の無い視聴者様が怖がりそうです。
「私はこれから単独で冒険者ギルドへと向かいます。皆様は外出中の人間のみを標的に絞り、一掃した後で私の所へと集って下さい。以上です」
「ヴヴヴ……了解しました……」
「RIO様のために……」
彼ら眷属達への指示を更新させました。
闇雲に暴徒をやっていても油断を生みやすい。私のDEFは一般人に毛が生えた程度でしかないため、先程の一撃も当たりどころが悪ければ即死亡の恐れがありました。
なので調子が良い時こそ調子に乗らず、最善の戦略を練るのが肝要と判断したのです。
謙虚さを引き換えにしてでも眷属達は弱く私だけが強いと自覚し、強い敵はしっかり私が担当しなければならないのが平均的女子高生の自分が出来る精一杯の責務であります。
『一体全体なにしでかすんだ』
『どうせ碌でもない事』
『まさか心変わりして冒険者になるわけじゃあるまい』
『RIO様のために♡』
『おい、視聴者も眷属化してるぞ』
住民NPCのみならず視聴者まで私の眷属とは、粋な表現ですね。
まだまだ配信初日なのにここまで大勢の忠臣を召し抱えられて私は幸せ者としか言い表せられません。
このはじまりの街のマップは建物全てに至るまで脳内に刻み込んであるので、コメントからの道案内は不要です。
道中点在していた冒険者を出合い頭に始末しつつ、一人冒険者ギルドへと向かうのでした。
鬼が出るか蛇が出るか、賭けはここからが本番です。
▲▲▲
「ここが冒険者ギルドですか。恐らく屈強な冒険者達が最も集っているであろう施設ですね」
街の中で一際大きい酒場のような建造物に向けて呟き、ついさっき倒した冒険者の外套を利用し、手に付着した血を拭き取ります。
えっと、確かこの人は【冒険者Dランク序列75位・パームパープル】さんと通名を名乗っていましたが特筆すべき点もなく瞬殺でした。
既に倒し終えた敵を自賛のために語るよりも、一秒でも早い行動を心がけるべきなのは然りですので、次の段階に移る下準備を始めましょう。
「周りには……誰もいませんね」
『RIO後ろ後ろ』
『↑いやいねぇぞ』
『コメントに敵が紛れ込んでいるなぁ』
『騙そうとしてる奴いて草』
『からかっただけだってば』
……どうやら本当にいないようなので、突入前に情報収集のため壁越しから聞き耳を立てましょう。
「――なんか教会の辺りで暴徒が発生してるんだってよ」
「暴徒と呼べるか? 見間違いじゃなけりゃ人間喰ってたぞアレ」
「だがなんかの薬で操られてるカニバ集団かもしれないからな。だからギルドの方も魔物か暴徒かどっちを指定して討伐クエストにするか決めあぐねてるんだとよ」
「ここに駆け込んだ住民共はみんな『化け物だー!』って喚き散らしてるがな」
建物の内側から少量ですが話し声を拾えました。
どうやら、現在各地で蹂躪している眷属達の詳細すら掴めず対処に苦心しているようです。
つまりこれまで出会った冒険者達は、正義感に逸り指示を待たずに鎮圧へ向かった血気盛んな衆なのでしょう。
では、指揮系統がフリーズしている隙にとっとと入ることにします。
「失礼します」
敵地に正面から堂々と侵入するなんて我ながら大胆ですね。無論作戦がある上での行動ですが。
それに一個の敵として、冒険者とはどんな集まりなのか純粋に知りたいです。
力んで壊さないよう扉を慎重に開け、民間人同然のプレイヤーを装って冒険者ギルドへと侵入しました。
ほんとポイント評価ありがたいです……